72.
「アガザエルトの『呪われた土地』と呼ばれるところは、数年前から何故か精神を病む者が多く、その原因は不明なんだ。そして、あの土地は第三王妃のモノなんだ」
「あの時、嗅ぎ回る者がいると報告があって、様子をみようと思っていたのだけど、ミッシェル……いや、クリストファー殿下より、召喚した方が良いのではと言われて、召喚したのです」
第三王妃があの土地を所有してるの?何でまた王妃が土地を?
クリストファー殿下も同じことを思ったらしく、ミトロン陛下にその事を尋ねていた。
「我が国では第一王妃と、第二、第三王妃は同じ扱いをしなければならない。側室ではなく、正室としてね。だから、第二王妃には図書室を与えてある。それと同等の価値があるものとして第三王妃があの土地を欲しがったんだ。そのときはまだ、病気は流行ってなかったからね」
そうなんだ……。じゃあ、ミランダ王妃には何を与えてあるのかしら?
「第一王妃のミランダには、俺の愛を……」
“ベシッ”
ミランダ王妃が勢い良くミトロン陛下に突っ込んだ。
「こんなときに冗談はやめてください」
「いや、冗談ではなく、本気なんだが……。俺は、三人の妻を同等に愛せないからな。ミランダだけで十分なんだ。だから、ミランダ以外の王妃には手を出していない」
国王たるものが、王妃三人のうち、一人だけしか手を出していないって、それでいいのか!?それ、同じ扱いじゃなくない?
「跡継ぎ問題とかで争うのは面倒だしね。第二王妃は図書室さえ貰えれば自分に構わなくていいと言ってくれたし。第三王妃もそれで納得してくれたはずだ」
「ですが、第三王妃は一年程前に陛下と一夜を供にしたと、自慢気に話されてましたが!?」
ミランダ王妃、嫉妬しちゃってるんだ。スッゴいむくれてる……。
「あ、あのときは急激な眠気に襲われてな。断じてなにもしてないぞ。でも、お前もその後からナルディや、ジョエルを侍らせていたではないか。趣味だとはいえ、お前の側に俺以外の男がいるっていうのは、あれはかなり落ち込んだぞ」
「それって、ミトロン陛下の気を引きたくてやったことじゃ……?」
つい、うっかり……。ミランダ王妃のさっきの言葉を漏らしてしまった。
「そうなのか!?」
ミトロン陛下が嬉々としてミランダ王妃に問いかけるが、
「そ、そんなことありません!」
ミランダ王妃が真っ赤になって否定するが、ミトロン陛下はニヤニヤしている。
「同性同士の恋愛って、切ないですよね。陛下への想いをその切ない想いで昇華していたんじゃないですか?」
前世では、BとLの話を聞いたこともあるけど、世間の目は良い方とは言えなかった。何となく、ミランダ王妃が同性同士の恋愛に目を向けた気持ちが分かったような気がした。
「同性同士の恋愛か……。解せぬ」
隣でポツリと呟く殿下に
「じゃあ、もし私が男だったら、殿下は私のことは好きになりませんでしたか?」
私なんかのどこがいいんだろう?お妃教育中に何度も思った。もし私が男に生まれ変わっていたら……?殿下はそれでも私を愛してくれるだろうか?と悩まない訳ではなかった。
「エヴァが男だったとしても、私はお前を娶るぞ」
「うんうん、そうですよね。私が男だったら……って殿下!?」
「何を慌てているんだ?お前が聞いたんじゃないか」
「いや、でも……さっき、解せぬって……」
「ああ、そうか。こういうことだったんだな。なんだ。簡単なことじゃないか。愛しているのは器じゃなくて魂だってことだ」
いや、確かにそうだけど……。
「ミランダ、俺だってお前がどんな趣味持ってようと、例え男だったとしても愛してるよ」
「陛下……」
……………………。
「ストーップ!」
はあ、はあ、心臓バクバクいってる。ちょっと、いや、かなり勇気がいったわ。この甘々な雰囲気をぶち壊すのは……。
「すみません、話がズレてるので元に戻してもいいですか?」
と、とにかく話を戻さないと。
「え、あ、すまない。どこまで話したかな?」
「第三王妃が『呪われた土地』を所有したときにはまだ病気が流行ってなかった、と……」
「ああ、そうだ。第三王妃にあの土地を与えてから暫くたった頃、そこに住む者たちの性格がおかしくなっていると報告があがった。医者も原因が分からず治療もできないままなんだ。そして、皆が一様に痩せていき、対症療法しかできないまま、死んでいく人もいる。ただ、そこを通ったからといって感染する訳ではなく、そこに住む者だけに症状が出てるんだ」
「じゃあ第三王妃がその土地を所有したのは大体いつ頃ですか?」
「三年前だ。先王が病に伏し、急遽私が国王となり、三人の王妃を迎えなければならなくなったんだ。その先王も昨年鬼籍に入った」
「先代の国王様はどういったご病気だったんですか?差し支えなければ教えていただけませんか?」
「先王は……病に伏す前に錯乱状態になって、正常な判断能力を失った。その時に当時の次期国王となる俺に、妃を二人娶り平等に扱うよう指示したんだ」
二人……?三人の間違いでは……?
「正常な判断ができなくなっていたことが世間に知られると、何かと不都合もあったからな。それに娶るように言われたのは第三王妃と第二王妃だ」
「じゃあなぜ私を……?」
ミランダ王妃が首を傾た。




