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70.

「出来ました」

 元の形を取り戻した耳飾りをミランダ王妃にお返しする。

「……感謝する。これは、陛下が結婚する前に、私に初めて贈り物をしてくれたときの物で、大切なものなんだ」

 懐かしむような、慈しむような優しい眼差しで、耳飾りを見つめる。

「愛していらっしゃるんですね」

 ミランダ王妃を見ていると何だかそんな気がしてきた。

「あ、あ、愛してるとか、そ、そういうのでは……」

 顔を真っ赤にして否定されてるけど、説得力がない。

「陛下は私の他に二人の正室がいるんだ。私は、私は……」

 ミランダ王妃はその真っ赤な顔を俯けてしまった。

 今、変なことを聞いた。ミランダ王妃の他に正室が二人?

 私がお妃教育で聞いた話だと、ミランダ王妃以外は側室のはずでは?

 呼び方は確かに第一王妃、第二王妃、っていうけど、どうなってるの?

「私は、政略結婚なんだ。それはどこの貴族社会でも当たり前なのだけど……。私の結婚式の日に、第二王妃、第三王妃も同時に結婚式を挙げたんだ」

「新郎一人に新婦三人ってことですか?」

「ああ、そうだ。それからは、第二、第三の王妃も正室として扱うようにと、決められてしまった。第二王妃の家と第三王妃の家を筆頭に貴族が二分していたこともあって、平等にしないと貴族間で対立が激しくなるからな」

 そんなの……。

「私が一番若かったから……。他の妃に負けまいと虚勢を張って、格好も大人っぽくしたりして……。陛下が私を抱いたのは一度きりだ。義務だけで……。それでもいいと、そのときは思っていた。だけど……」

 膝の上に置かれた手の甲に、水滴が落ちるのが見えた。

「今はまだどの妃にも子はいないが、これから先、第二王妃か第三王妃に子が生まれたら私は、正気ではいられないだろうな」

「ミランダ様……」

 陛下はミランダ王妃の気持ちを知っているのだろうか?

 こんなにも想われていることを……。

「差し出がましいとは思いますが、陛下はその事は……?」

 ミランダ王妃がゆっくり首を横に振る。

「陛下が側近たちと話しているのを聞いたんだ。愛する人がいる、と。陛下の心の中には誰かが棲んでいるんだ。言えるわけない」

 ミランダ王妃と話していると、最初の印象からガラリと変わる。とても人を呪い殺すような人には見えない。

「あの、ミランダ様は美しいものがお好みだと聞き及んでおりますが……」

「陛下の気を引くために、美しい男を侍らせてみたりしたが……。そうだ。そなたも見てみるか?ナルディとミッシェルを。美しいぞ」

 いや、その二人知ってます……。ってか、陛下の気を引くためだったのなら、呪い殺すまではしないんじゃないの?

「ミランダ、耳飾りが壊れたと聞いたが、大丈夫か?」

 そこに現れたのは、アレクシス様に似た雰囲気の男の人と、変装した殿下だった。

「陛下、どうしてここに……?」

 え!?陛下?この人が……アガザエルト国王?すごくお若いんですけど……?

「ミランダが落ち込んでいるんじゃないかと思って……な」

「お、落ち込んでなど……」

 ミランダ王妃がさっきよりも真っ赤な顔をして、そっぽを向いた。

 そこに国王が歩みより、ミランダ王妃の頭を撫でた。

「おや、修理してもらったんだ?良かった」

「な、なぜ陛下が『良かった』と?」

「その耳飾りは、ミランダが大切にしていたものではないのか?俺が結婚前に初めてお前に贈ったものだ。いつも身に付けていただろう?」

 国王、そこまで覚えているってことは、よっぽど女誑しか、その人を愛しているかだと思われますが……。この場合、後者でしょうね。

 国王がミランダ王妃を見つめる瞳は、優しさに溢れていたから。

「陛下には関係ないことです」

「天の邪鬼め」

 頭に置かれた手を移動させ、ミランダ王妃のその身体をすっぽり包み込んでしまった。

「陛下、何を……」

「お前も、十九になったろ?そろそろ……」

 え!ミランダ王妃って十九歳なの!?もっと歳上かと思ってた……。

 その間にも国王はミランダ王妃にキスの雨を降らせている。

「へ、陛下、人が見てます……」

「お前がいいというまで離さない」

 いや、これ完全に私と殿下ミッシェルがいることを忘れているだろ。

 いつの間にか側に来ていた殿下に、

「お前は見るな」

 と視界を遮られてしまった。

「で、殿下!」

 いつもの癖でここではミッシェルと名乗っているはずの殿下を呼んでしまった。

「殿下?」

 ミランダ王妃がなんのことだ?とでも言いたげにこちらを振り向いた気がした。

「そろそろいいですかね?アガザエルトの国王、ミトロン様?」

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