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7.クリストファー視点

「クリス、あなたの婚約者が決まりました。エヴァ・ドゥ・レイ伯爵令嬢よ」

 母に告げられた言葉は、晴天の霹靂だった。先日のお茶会の日に高熱を出し、集まってくれた令息令嬢とは全く顔を合わせることがなかった。

 主催が母上だったから、お茶会自体は恙無く終わったんだけど、後ほど聞いた話では令嬢同士のちょっとしたイザコザがあったとか。

 大体はそこに僕も参加し、皆と顔を合わせ、婚約者候補を数名選ぶはずだった。

 それなのに、今の話だと、婚約者そのものを決定したことになる。


「ちょっと待ってください、母上。何故伯爵家の令嬢に決まったのか、理由を教えて下さい」

「クリス、貴族というものに恋愛結婚など必要ありません。もちろん、王族である私たちにも。それは理解しているのでしょう?」

「はい……」

「お茶会で、王族として相応しい令嬢を見つけたからに他ならないわ」

 母上、黒い。黒いです。

 唇の端を少しだけあげて微笑む母上の顔が、一瞬悪魔に見えたことは黙っておこう。

「それから、その令嬢はデビュタントまでは面会を控えたいと言ってきたわ」

 はあ?意味が分からん。何故婚約者と会うことが出来ないのだろうか?何か理由があるのだろうか?

「母上、それは……」

「王妃様、伝令が来ております。お通ししてもよろしいでしょうか?」

 侍従が伝令が来たことを告げた。

「分かりました、すぐに参ります」

 心にモヤモヤしたものを抱える結果となった婚約者が決定したという話は、母上に伝令がきたことで打ち切られてしまった。




 数日して、慈善活動の視察として、母上とともにバザーを見に行くことになった。初めて行くバザーで、ちょっぴり心が浮き立たっていると、

「少しは落ち着きなさい」

 と、窘められてしまった。

 馬車の窓を少し開け、外の景色を見る。街は活気に満ちていて、治安が良いことがわかる。

 いずれは自分がこの国の王となるのだと、漠然と思った。そうこうしているうちに、馬車が目的の教会前に着いた。

 護衛の者がドアを開けてくれ、そこに降り立つ。

司祭様らしき人が慌ててやって来て、僕と母上に挨拶をする。

 そこに一人の女の子が駆け寄ってきた。

「クリストファー様、お会いしたかったですわ!」

 赤みのかかった桃色の髪に、深紅の瞳。バッテンガー侯爵家のマリア令嬢だ。

 マリア嬢の父親、バッテンガー侯爵は宰相を勤めている。小さい頃は宰相からマリア嬢の話をよく聞かされていた。

 僕の二歳年下、天真爛漫で、ストロベリーブロンドの髪にルビーレッドの瞳が母親譲りの美貌だと、いつも自慢していたのを覚えている。

 マリア嬢は僕の手を取ると、『いつもお父様から話を聞いている』と、さも親しげに話し出した。

 突然の出来事で呆気に取られていると、母上がマリア嬢に対し、立場を弁えるように諭した。

 確かに僕には会ったこともないけど、婚約者がいる。つい最近、婚約者になったばかりだが、他の令嬢から親しげに声を掛けられると、あらぬ噂が立つ恐れがある。王族としてスキャンダルは避けたいと思うが……。宰相の娘でもあり、そこまで厳しくなくても良いのではないだろうか?

 しかし、マリア嬢は涙を浮かべ

「わ……私はただ、クリストファー様をお慕いして……」

 と、教会に駆け込んでいった。

 追いかけるべきか迷っていると、

「私情は必要ありません」

 と、母上にピシャリと言われてしまった。

 王族だから、と言って遠慮することなく話しかけられたことは素直に嬉しかったし、宰相の言う通り、整った顔立ちの、まだあどけなさの残る可愛らしい女の子だった。

「可愛いかったな」

 ポツリと、呟いた声は風にかき消されていった。

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