66.
部屋に戻る途中、可愛らしいショートヘアの女性に出会った。この世界において女性のショートヘアは珍しく、着ている服もドレスではなく男性が着るようなものだった。物珍しさに不躾に見てしまったせいか、目があってしまった。
それでも嫌そうな顔一つせず、その顔は微笑みを浮かべ会釈をしてくれたため、私もつられて会釈した。
「あ、ミッシェルさん、こんなところにいらしたんですね。ミランダ王妃様がお探しでしたよ」
と、私たちの方へ声を掛けられた。
「私はここではミッシェルと名乗っているんだ」
と殿下に小声で教えられ、今の言葉は殿下に向けての言葉だったんだと認識する。
「分かった。すぐに行くよ」
殿下が返事をして、その場を立ち去ると、私とミゲルとその女性だけが取り残された。
「あなたがミッシェルさんの想い人?」
尋ねられ、首肯する。この人、殿下にとって、どんな存在なんだろう?
「ふーん、よろしくね」
右手を差し出され、つい右手を差し出すと、手を引っ張られ彼女の胸元に飛び込んでしまった。
女性にしてはかなり力強くて、やや低めの声に鳩胸とでもいうのか胸板が厚い。
「可愛いね、君。僕はナルディ。名前は何て言うの?友だちになりたいな」
「え、エヴァと申します……」
や、何これ。すごくドキドキする……。
「エヴァさん、部屋に戻りますよ」
ミゲルに引っ張り戻された。
バイバイと小さく手を振り、彼女と別れて部屋に戻る。
「ミゲル、さっきの子、可愛かったよね」
ミゲルに同意を求めると、
「これ以上ライバルは増やさないでくださいよ」
と、何故か怒られてしまった。
「ライバルって、別にあの子、女の子でしょう?」
「エヴァさん、あなたの目は節穴ですか?あの方はれっきとした男性ですよ」
「ええ!?あんなに可愛かったのに……」
するとミゲルは大きな溜め息をついて、
「『僕』って言っていたでしょう?それに、格好も男性のものでしたし。ナルディというのは、アガザエルトで『美男子』を意味する言葉なんですよ」
と言った。
「いや、確かに『僕』と言っていたけど、そういう人種なのかなと思ってたし、ともすれば私より可愛かったんじゃない?」
別に私、あの人に対して何もしてないし、好かれて悪い気はしないけど、理由が見当たらない。
それに、いい子そうだったし……。
部屋でミゲルと話をしていると、アレクシス様が飛び込んできた。
「大変だ、ロザリンドがいなくなった!」
「何ですって?」
「ロザリンドが麻薬の売人らしい人を見つけたと言って急に走り出したんだが、路地裏に入り込んだところで見失った。辺りを探したんたが見つからない」
何ということなの。ロザリンド……、無事でいて……。
見えない神様に向かって祈った。
「とにかく、今すぐに街に行って探さなきゃ」
私たちはみんなで街まで降りた。
ロザリンドを見失ったという路地裏までやって来たが、人通りは少なく、焦りがでる。
私はロザリンドを早く見つけたいという思いから、駆け出そうとしたところをアレクシス様に止められた。
「一人では危険だ。エヴァまでいなくなったら、俺は……」
「そうですよ、少し落ち着いてください」
ミゲルにも言われて、ハッとなった。
一つ深呼吸をし、辺りの様子を伺う。
少し奥に入ったところに人が見えた。
とにかく、ロザリンドらしき人を見てないか聞いてみよう。
「あの、すみません。この辺りで女性が走って行くのを見かけませんでしたか?」
近づいてみると、そこにいたのは年老いた女性だった。
椅子に腰掛け、猫と戯れていた。
「おや、どちらさんだね?」
かなり耳が遠いようで、近くに寄り少し大きめの声で尋ねた。
「この辺りで、若い女性が、走って行くのを、見ませんでしたか?」
一語一語をハッキリと話す。
「ああ、さっき見かけたような……見かけてないような……。でもあれは走るというより、辺りを警戒していて、何かから逃げているようだったよ」
それって、ロザリンドが麻薬の売人に見つかって逆に脅されているのかしら!?
「それで、その人は、どちらの方向に行きましたか?」
「それなら、あちらの方に……」
おばあさんが指した方向は、今来たばかりの大通りの方向だった。
「ありがとうございます」
お礼を言い、おばあさんの指した大通りへと急ぐ。
「ちょっと待って、おかしくない?」




