64.
「お初にお目にかかります、ミランダ王妃様。ロズウェル商会ロザリンドの妹でエヴァと申します。この度はお招きいただきありがとうございます。以後お見知り置きを」
ロザリンドに合図され、王妃様の前に歩み出る。
妖艶と言った表現が相応しい、豊かなボディを強調するようなドレスを身に纏った王妃様は、品定めするかのように私を上から下まで視線を流した。
時は少し遡り、アガザエルトに入国した私たちは、国境付近の住民たちの異様さにすぐに気付いた。ミゲルが言っていたように活気が見られず、暗い雰囲気だ。街の人は皆、痩せ細っている。
ロザリンドは仕事でアガザエルトと交流はあるけど、この辺りでは、誰も話を聞こうとしないし、余所者を見ると追い払われると話していた。
しかし、このような街になったのは数年前からで、付近では原因不明の病気が流行っているとの噂で、どんな医者が治療しても治らないことから、『呪われた土地』と呼ばれているそう。
街の人たちに話を聞こうにも、誰も相手にしてくれない。
以前、ミゲルがここに来たときは、話をしてくれた人物がいたそうで、その人を捜そうとしたが、結局、それすらも叶わなかった。
街の人に話を聞けなかったので、隣の街まで移動し、そこで聞き込みをしていたら、王城からの使いという人が私たちを、『王妃様がお招きだ』と言ってきたため、その『呪われた土地』の調査を一旦置いといて、登城することとなった。
ミランダ王妃と言えば、ランシュアとジョエルを呪い殺そうとしているんじゃなかったっけ?
こっちの件も片付けなきゃいけないけど……。それとも何か繋がりがあるのかしら?
「ところで、今回はどのような物を持ってきたのだ?」
王妃様に問いかけられ、ハッと我に返る。
「今回は、特殊な薬の仕入れでございます。ご所望でしたらご用意させていただきますが……」
「そうか、薬か。私には専属の薬師が付いているから不要だ」
ミランダ王妃が興味なさげに扇を閉じる。
「しかし、長旅で疲れたであろう?しばし滞在して行くが良い」
ミランダ王妃の目が、アレクシス様を見てキラリと光った。
え?アレクシス様、狙われてます?
王妃の言葉に甘えて、数日、王城に留まることにした。
案内された部屋は、小綺麗な物置小屋といった感じの部屋だったが、ロザリンドが言うには、アガザエルト王城で取引をすると、いつもこの部屋に泊まらせてもらっているんだとか。
城に滞在している間は、中庭と図書室、城下町への出入りは自由にして良いとのことだったので、アレクシス様とロザリンドは大麻を売った人物について調べることになり、私はミゲルと共に図書室に行ってみることにした。
もしかしたら呪術に関する本があるかもしれない。
僅かな期待を込めて、図書室へと足を踏み入れた。
図書室というくらいだから学校の図書室をイメージして、そんなにスペースは広くないだろうと思っていたのだけど、二階建ての別棟一つが丸っと図書室になっていて、図書室というより図書館といった方が相応しいような建物だった。
何でも、第二王妃がかなりの本好きだとかで、その王妃様のために建てたらしく、建物自体はまだそんなに古くない。しかし、中はどこから集めたのかというくらいに本が埋っていた。
これならどれか一つ位、呪術に関する本がありそうだけど。
ミゲルと二手に分かれて、本探しをしようということになり、私は二階への階段を登った。
二階にも本が所狭しと並べられていて、滞在中はここに籠りっきりになりそうだと、嘆息した。
王城を出れば、また近くの街で聞き込みしたり、実際に大麻が自生しているのか、栽培されているのか、ロザリンドに薬を渡した者がどういった人物なのか調べなければない。呪術の本もだけど、大麻に関する本も時間があれば読みたいけど……。
二階の奥の方に古い本がありそうな気がする。なんとなくそう思って、奥の方へ進む。
一つ一つ背表紙を確認していく。その中に古代文字で書かれた本を見つけ、手に取ってみる。
ページを開くとそれは呪術に関する本だったようで、魔方陣のようなものが描かれていた。
あった、これだわ。ミゲルに知らせなきゃ。そう思って振り返ろうとしたとき、後ろから何者かの手によって私の口が塞がれてしまった。
“マズイ”
全身に緊張が走った。




