61.
アレクシス様たちは、ロズウェル商会を調べてはみたものの、全く手掛かりは掴めなかったとのことだった。
「それで、何故私まで?」
この件、私は関わらない方がいいと思っていただけに、調査協力依頼は意外だった。
「実は、あの薬について、詳しく知っている者が他にいなくてね。ロザリンドはその薬を誰から購入したのか詳しく教えて欲しい」
ロザリンドは了承して頷いたけど……。
「でも、私の知識ではお役に立たないかと思いますが……」
私が前世の看護師時代を思い出せていたら、もっと力になれていたかもしれないけど、今の私では本当に力不足としか言いようがない。
「エヴァ、君の知っていること、何でもいいから教えて欲しい」
そう言われても、私が知っていることと言えば、亜麻からリネンが、大麻からヘンプが作られるってことくらいだし、ヘンプも繊維化したものは無害だって事くらい……。
「あ、ロザリンド、あなたの商会でヘンプは取り扱ってる?」
「ヘンプですか?ええ、取り扱ってますよ」
「その仕入れ先はどこなの?」
「産地は主にアガザエルトですが……」
やっぱりだわ。アガザエルトで作られているのは間違いなさそうね。ロザリンドの薬もアガザエルトで手にいれたものだというし……。
「アガザエルトに行ってみるしかなさそうね」
「エヴァが行くのか?」
え?私が行かなくちゃならないの?
「いや、そこはアレクシス様とミゲルにお任せいたしますわ」
顔を引き吊らせながら愛想笑いをするが……。
「ロザリンド、エヴァも一緒の方が心強いよな?」
と、ロザリンドをダシに使われてしまって、嫌とは言えない雰囲気になってしまった。
何でこうなったかなぁ?
他国の事だから首を突っ込まない方がいいと思うんだけど……。
結局、私までアガザエルトに向かう羽目になってしまった。
途中、ユリウス辺境伯邸近くの宿に泊まることとなり、辺境伯邸がランシュアの家だということにやや不安を覚えた。
ランシュアは今、王宮の牢屋の中だし……。
でも、ジョエルと一緒にいるから本人は幸せそうだったと、ミゲルが言っていたけど。
ユリウス辺境伯には、ランシュアの起こした事件については、王宮で起きた陛下傷害事件の参考人として、身柄を預かっていることになっている。
ちょっと複雑よね。
「それじゃあ、ロザリンドと私は姉妹ってことでいいかしら?お姉さん」
「そうですわね、エヴァさ……、エヴァ」
一介の伯爵令嬢が、それもデビュタント前の女子が街を歩いていてもおかしくないように、ロザリンドと姉妹のフリをすることにした。服もロザリンドのお下がりを貸してもらっている。ロザリンドは『エヴァ様にお下がりを着せるなんて』と恐縮していたが、私は結構嬉しかったりする。前世でも兄弟姉妹がいなかったせいか、面映ゆい。聞けばロザリンドにも兄弟がいないとのことだった。
「結構長い道のりですけど、疲れてはない?」
ロズウェル商会の荷馬車の中で、ロザリンドが労ってくれる。
「ええ、大丈夫よ。姉さんはいつもこの道を通っているの?」
「そうですね。私は仕事で慣れておりますから平気ですけど……」
「姉さん、敬語になってるわよ?」
指摘をすると、
「私は仕事で慣れているから平気よ」
と、言い直す。お互いの顔を見合い、笑い合う。本当の姉妹になったようだ。
馬車がかなり揺れて、若干乗り物酔いしてるけど、ロザリンドと話していると気が紛れるわ。
「あと少しで宿に着くわ、エヴァ」
馬車の中での会話が弾み、あっという間に宿に着いた。
アレクシス様とミゲルは先に到着してチェックインを済ませてくれていた。
「エヴァさ……エヴァはこういったお宿に来るのは初めてでしょう?私と二人部屋なんて、嫌じゃなかった……?」
躊躇い勝ちに聞いてくるロザリンドに、私は笑顔で答えた。
「いいえ、ロザ……姉さんと一緒なら平気よ」
ロザリンドも微笑んでくれて、これが任務で来たことを忘れてしまいそうになっていた。
「あんまりはしゃぐなよ」
とアレクシス様に釘をさされてしまった。
その日の夕食の後、私たちは思いがけない来客に見舞われることになった。




