60.
「ミゲル、ロザリンドの様子どうだ?」
そこにタイミング良く現れたのはアレクシスだった。
ロザリンドに抱き付かれたままの格好を見られ、何故だか気まずい。
「アレクシス、こ、これはだな……」
「ミゲル様、お慕いしております……」
「ほう?ライバル争いからミゲルが脱落か。これは朗報だな」
アレクシスが一人で何か納得したように頷いている。
「違うんだってば、話を聞いてくれ!」
必死に弁明しようとすると、
「いや、分かっている。この馬鹿力も薬の影響なんだ」
そう言って歩みより、ロザリンドの腕を剥がす。
ロザリンドは赤子がイヤイヤをするように首を振っていたが、やがて再び眠りについてしまった。
その直後に、エヴァ様がロザリンドさんの様子を見に訪れた。ロザリンドさんに抱き付かれているところを目撃されなくて、若干ホッとしたが、エヴァ様の首には、先ほど目にした手形の痣を隠すためか、巻かれた包帯が痛々しい。
「エヴァ様、その首は……?」
「なんでもないわ。気にしないで」
なんでもなくはないはずなのに、明るく振る舞うエヴァ様。いつだって守ってあげたくなる存在だ。
しかし、今はそれどころではない。
「アレクシス、ロザリンドさんが言っていた薬とは?」
「ああ、植物の中には毒を持ってるものがあるだろう?そういった植物から作られた薬で、中毒によって幻覚や幻聴、精神異常を来すんだ。おそらく、ロザリンドが服用したのもその手の薬だろうな。飲んでいるうちに段々依存していき、その薬がないと落ち着かなくなり、終いには廃人になる、とても恐ろしいモノだよ」
アレクシスの表情は今までになく硬く、それが、どれだけ恐ろしいものかを雄弁に語っていた。
「バッグの中に薬がある、と言っていた。それと、彼女に似た症状というか……。気になったことがある」
「なんだ?」
「アガザエルト側の国境付近の、住民たちの様子がおかしかったんだ。皆、一様に活気がなくて、痩せ細っていて……」
アガザエルトで見た現状を話すと、アレクシスは益々難しい顔をした。
「あちらのことは国が違うから、迂闊に手出しはできないわね。ただ、その薬がルディスタンに流通しないように水際対策が必要よ。陛下にもその旨伝えてきたわ」
エヴァ様が先手を打っていたことにまた驚いた。彼女はいつだって私を驚かせてくれる。
「ロズウェル商会に探りをいれるか……」
ロザリンドは徐々に薬が抜け、薬を安易に使用したことを悔いていた。
「エヴァ様を襲ったこと、本当に申し訳ありませんでした。それにエヴァ様に助けていただかなければ、私は……」
「いいのよ、ロザリンド。助かって本当に良かったわ。反省しているのなら、デビュタント用のドレス、責任もって最後まで仕上げてくださる?」
悪戯っぽく微笑むと、ロザリンドは大粒の涙を流しながら何度も頷いた。
「それにしてもあの時のお嬢様は、鬼気迫るものがありましたね」
アンナが隣で感心している。
「そうですね、私も最初は何事かと思いましたけど、お嬢様の的確な判断が良かったのですわね」
スーザンとメリーも頷いている。
何だか気恥ずかしいけど、ロザリンドを助けられて良かったわ。
それにしても、何故ロザリンドはあの薬を手にいれることが出来たのかしら?
確かにロズウェル商会といえば、色んな物を取り扱っているけど……。あ、でもあの薬のことは内緒にしていて欲しいって言っていたから、商会が表立って仕入れているわけではなさそうよね。
でも、あの薬のことはアレクシス様やミゲルが調べてくれるはず。これ以上、首を突っ込まない方が得策よね。
「あ、ねぇロザリンド、あなた、ミゲルの事が好きだったのね」
アレクシス様に聞いた話だと、ミゲルに抱き付いて『お慕いしております』と、言っていたとか……。
ロザリンドは、真っ赤になって俯いた。
「……あれは失態でした。小さい頃から父の仕事について回っていまして、王宮でクリストファー様の護衛としてお側におられたのを見ておりまして……素敵な方です。いわゆる一目惚れってやつです」
と話してくれた。
「それはどうも……」
ふと扉のところにミゲルとアレクシス様が立っているのが見えた。恋バナに夢中で、来客に気付かなかった……。
侍女たちは、私たちに来客を告げようとしていたけど、話が盛り上がっていたから、タイミングを見計らっていたみたいだけど。
いや、来客はちゃんと告げましょうよ。ロザリンドが
「きゃあ!?ミゲル様!今のお聞きに……!?」
ロザリンドが慌てふためく。さっきよりさらに顔を真っ赤にして、恋する乙女って感じ。
「いつからそこにいらしたの?」
アレクシス様に問いかける。ミゲルもさっきの告白をどこから聞いていたのか、顔を真っ赤にしている。
「ああ、さっきな。『あなた、ミゲルの事が』辺りから?」
ってほぼ全部聞かれてるじゃない。ロザリンド、御愁傷様。
「ところでエヴァ、ロザリンド、調査に協力してくれないか?」
アルフレッド「だから僕の出番は!?」




