6.
「これは……、素晴らしいですね!」
刺繍とアートを並べていると、司祭様がガラスビーズアートを見て感嘆の声をあげる。
「こちらは、特産品のガラスを使いましたの。初めて作ってみたのですが、いかがですか?」
「ガラスですか?まるで宝石を散りばめたようですね。とても綺麗で売るのがもったいないな」
司祭様はしきりに感心してくださっている。
よし、これなら上手くいきそう。
「司祭様、よろしければ教会に飾っていただけませんか?初めて作ったもので、売れるか不安でして……」
少し上目遣いで、お願いしてみる。
「そうですか!?それじゃあ早速飾らせてもらいますね!」
「あ、司祭様、もし、そのアートを作ったのは誰かと聞かれても、私であることは秘密にしておいてほしいのです」
「分かりました。それくらいお安い御用です」
司祭様は、嬉々として二つのアートを持っていった。
「お嬢様、よろしかったのですか?」
アンナがボソッと呟く。
「ええ、そうよ。予定通りだわ」
売れてしまえば人目につく確率は下がるが、教会に飾ってもらえれば皆の目に止まるはず。多くの人に見てもらわなければ意味がないのだ。
司祭様が教会に行ってすぐ、一台の馬車がバザーの入り口に着いた。四頭立ての立派な馬車で、王家の紋章が付けられている。司祭様が慌てて教会から出てきて、侍従らしき人に挨拶をしている。そこに、プラチナブロンドの髪を煌めかせた男の子が降りてきた。続いて、先日のお茶会でお会いした王妃様がお目見えした。
……ということは、あれは王太子殿下!?婚約が決まったけどデビュタントまでは面会を控えたいと言ったばかりなのに、なんてニアミス!
私は思わず物陰に身を隠した。
そこにストロベリーブロンドの髪を緩やかに靡かせた女の子が駆け寄っていく。
「クリストファー様、お会いしたかったですわ!」
あろうことか、王妃様にご挨拶せず殿下の元へ一直線。わぁ、失礼極まりないわ。そして何やら親しげに殿下の手を取り話し出す。
殿下にもカーテシーすらしない。ホントにマナーを知らないわね、バッテンガー侯爵家のマリア様。
「マリアさん、クリストファーには婚約者が決まりました。それについては侯爵家にもお伝えしてあります。ですので、これからは立場をお考えくださいな」
王妃様が言葉を選ぶ。叱るわけではなく、諭すように。
王妃様の優しさが窺える。やはり国のトップにおられる方はこうでなくちゃね。
「わ……私はただ、クリストファー様をお慕いして……」
ルビーの瞳に涙を浮かべ、私は悪くないアピールをするマリア様。そして悲劇のヒロインばりに、教会へと逃げていった。
それにしても、ゲームのスチル通りの麗しさね、殿下。王家の男子にしか受け継がれないアメジストの瞳が神秘的だわ。
王子の容姿に感動していると、王妃様と目があってしまった。もしかして私も隠れている時点で不敬なんじゃ?
心臓がドキドキしているが、王妃様は私にウインクを一つ寄越すと、私に気づかない振りをしてくれた。