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57.

 ランシュアとジョエルの一件は片付いたけど、依然としてクリストファー殿下の行方は分からなかった。

 裁判のとき、ジョエルが渓谷に落ちていったと言ったときは、泣きそうになったが、ミゲルから『あれは木偶人形だ。本物の殿下はランシュアの後を追っていた』と聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。

 では、一体どこにいるのかと聞いても、その答えは誰も持っていなかった。



 時間ばかりが立ち、不安な気持ちがどんどん膨らんでいく。

 気を落ち着かせるために、デビュタント用のドレスの共布でコサージュや花飾りを作ってみるけど、一向に気分は晴れなかった。

 アレクシス様が我が家を訪れたのはそれから十日を過ぎた頃だった。




「久しぶり、エヴァ」

「お久しぶりです、アレクシス様。お一人ですか?」

 一人でうちに来ることを禁止されていたアルフレッドは、アレクシス様と一緒ならついてくるものとばかり思っていたけど……。

「今日は大事な話があってきたんだ。弟には遠慮してもらった」

 と告げた。

 部屋に入ると、侍女たちにも席を外してもらう代わりに扉を開けておく。

 こうすることで、疚しいことはしないと証明するのだ。

「では、改めて本題なんだけど……。エヴァ、君は前世の記憶があるよね?」

 え?今何て……。私の前世の記憶があることはアンナしか知らないはず。まさか、アンナが喋ったの?

「ああ、落ち着いて、エヴァ。これは誰からか聞いた話ではないんだ。俺も転生者なんだ」

「はあー?」

 淑女にあるまじき奇声を発してしまった。

「ななな、何て?ど、ど、どゆこと?」

 びっくりし過ぎて滑舌がうまく回らない。

 アレクシス様は穏やかに笑っている。

「エヴァ、君は『中川めぐみ』で間違いないよね?」

 私の前世の名前!あのとき、『めぐ……』と呼んだのは聞き間違いじゃなかったの……?

「……確かに私は『中川めぐみ』でした。アレクシス様は?」

「俺は『中川めぐみ』の夫だった、二宮諒だよ」

「夫?私、16で死んだのよ?そんなに早く結婚してたの?」

 私の記憶は16歳まで。猫を助けようとして、川で溺れたことしか憶えてない。それに結婚していた記憶はない。

「そうか、そこで記憶が止まっているんだな。じゃあ確認な、『めぐみ』は16のとき、仔猫を助けようとして、川で溺れた?」

「はい」

「じゃあ、先日陛下が大量出血したときに、適切な処置を行ったときは?どんな記憶だった?」

 あの時は体が自然と動いて、何も考えてなかったわ。

「あの時は無意識でした。何であんなに適切な処置をできたのかは分かりません」

「そうか……。記憶が戻ったと思ったんだけどな。でも、俺のことも分からないみたいだしな」

 アレクシス様が少し寂しそうに笑う。

 アレクシス様といて、懐かしい気持ちになるのはそのせいだったの?

「アレクシス様、知っていることを教えていただけませんか?」

「そうだな。一つお願い頼みがあるんだが……」

「何でしょう?」

「今だけ、『めぐみ』と呼んでいいか?」

 何だ。そんなこと。

「いいですよ」

 私は拒否する理由を見つけられず頷いた。

「めぐみ……」

 その声は、とても心地よく鼓膜に響いた。

「当時、俺は大学一年生だった。川で女の子が溺れてるって誰かが叫んでて、俺も川に飛び込んだんだ。めぐみを中洲に引き上げたときは、お前は意識がなかったんだ」

 初めて聞かされる私の止まっている記憶の先。なんだか他人事みたい。

「それから消防の救助を待って、病院に運ばれたんだ」

「え?じゃああの時の仔猫たちは?どうなったの?」

 自分のことよりまず仔猫が助かったかどうかが気になった。

「お前、相変わらずだな。病院で意識を取り戻した時も、開口一番『仔猫は!?』って言ったんだぞ」

 あれ?そうなの?記憶がないから分からないわ。

「あの時の仔猫は、一緒に助け出された。そしてその仔猫はめぐみの家で飼うことが出来なかったから、俺がひきとったんだよ」

「ああ、そうなの。助かったのね、良かったわ」

 助けられなかったと思っていたから、安心して涙が零れた。

 アレクシス様がその一雫をそっと拭いてくれた。

「白と黒って名前をつけたんだけど、それじゃあ捻りがないって言ってめぐみが『クリス』と『アルフ』って名前をつけたんだ」

「それって……」

「その時、ハマっていたゲームからとったとか言っていたな。その世界がここなんだろ?」

 そんなことまで知っていたなんて……。

「それがきっかけで俺たちは付き合いだして、めぐみが高校を卒業すると同時に結婚した。めぐみは人を助ける仕事がしたいと言って看護学校に進学して、ちゃんと看護師になった。俺は、夢を叶える努力を惜しまないめぐみに影響されて、警察官になったんだ」

 そうなんだ……。看護師に……。小さい頃からの夢を、叶えていたのね。そして、アレクシス様は警察官……。ふふっ、アレクシス様らしいイメージだわ。

「それと、その時のゲームにえらくハマり込んでいて、ゲームのキャラクターにコスプレしたこともあったんだぞ」

 え、なにそれ?私がコスプレ?

「カラコン入れてかなり本格的だったぞ」

 ギャー、恥ずい。めっちゃ恥ずい。

 羞恥心に身悶えするとアレクシス様はクスクスと笑った。

「エヴァが、ガラス工房でカラコンを作らせた時はその時のことを思い出して、可笑しかったんだ」

 穴があったら入りたい……。

「それからめぐみが28歳で事故で死ぬまで、幸せだったよ」

 え、何?私事故死なの?それも28歳で?

「だから、もう一度、この世界でめぐみに会えた時は嬉しかったんだ。早く前世を思い出さないかなってずっと思っていた」

 アレクシス様が真剣に見つめる。

「ごめんなさい。やっぱり思い出せないわ」

 前世の記憶が全て思い出せないことが歯痒い。アレクシス様が前世の夫だったことも思い出せない。

「そうか。それでもいいんだ。俺は前世のめぐみも愛していたけど、今のエヴァも愛しているんだ。だから、結婚してほしい」

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