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56.

「エヴァ、私を助けてくれたことを感謝する」

 右腕を押さえた陛下に、感謝の意を述べられる。

 あれ?でも何で紫色のカラコンを作ったのかしら?

「陛下に憧れていた……とか?」

 無意識のうちの呟きは陛下と王弟殿下の耳にしっかり届いたようだ。

「はは、まさかそんなことまでバレてしまうとはね」

 王弟殿下は、バツが悪そうにしている。

「お前、そうだったのか……。気付いてやれずに済まなかったな」

「義兄上……。確かに義兄上に憧れていた。太陽の元でしか紫色に見えない私の瞳が、常に紫色だったら……母上も苦労しなくて済んだのかと、思うことはあった。だけど……もう、いいんだ。私はガラス弄っている方が性に合ってるさ」

 王弟殿下の表情は晴々としていた。




 三日後、王弟を名乗る男の裁判が行われるため、私も証人として出席することになった。

 あれから、色々と忙しくて、アレクシス様とはゆっくり話をする機会がなかった。あの日、大量出血を見たときのエネルギーのようなものは、あれ以来感じない。何故あのとき、的確な応急処置ができたのかは謎のままである。



 裁判の席に見知らぬ男性がいた。おそらく、あの男性がランシュアという人だろう。

 裁判が進んで行き、やはりランシュアがあの王弟を名乗る男に話を持ちかけ、乗り込んできたとこが分かった。

 ランシュアとジョエルが道ならぬ恋人同士で、ジョエルが一ヶ月前までアガザエルトの第一王妃に仕えるため引き離されていたが、急に解雇された。王妃に仕えている間、ジョエルと会うこともままならず、恨みを溜め込んでいたという。

 王弟を名乗る男の名前がジョエルで、本物の王弟殿下の名前と同じだったことから、この計画を思い付いたらしい。瞳の色をどうしようか悩んでいた時に、たまたま私がミゲルにカラコンの話をしていたのを聞き、ガラス工房に行ってみると、偶然にも出来上がったばかりの紫色のカラコンを見つけ盗んだという。

 つまり、王弟の地位を確立し、アガザエルト第一王妃に『謝罪させる』ことが目的だった。実際に私兵を増やしていたものの、ルディスタンに攻撃することなく引き下がらせているわけだし、こんな穴だらけの計画、すぐに見破られるのがオチだわ。

 それにしても大仕掛けな計画ね。

「では、エヴァ、そなたならどう判決を下すか?」

 いきなり陛下に話を振られた。

 ちょっと待って。何も考えていなかったわ。

「……僭越ながら、ルディスタンを謀り陛下に傷を負わせた罪は軽くはありません。しかし、彼らがもし反省しているのなら、この国で保護することはできませんか?」

「何故だ?」

 うーん。こんなこと言っていいのか分からないんだけど……。

「もしかして、ジョエルさん、第一王妃に命を狙われていますか?」

 私の言葉にジョエルが瞠目する。

「なぜそう思う?」

「第一王妃が突然解雇しただけなら、二人は元の恋人同士に戻ることができるでしょう?それだったら、王妃に謝罪させなくても、わざわざそんな危険なことしなくていいはずだと思うんですよね」

 話を聞いていて感じた違和感。それの答え合わせをする。

「命を狙われでもしない限り、王弟などの地位を必要としない。ですよね?」

 確認するように問いかけると、ジョエルもランシュアも顔を見合せ、肯定した。

「私も貴族の端くれですから、誰かに殺されたとなると第一王妃が真っ先に疑われます。ですから、呪術師に私の命を狙わせています」

「ジョエルさんが、第一王妃の何かしら秘密を知っている、というわけですね?」

 ジョエルが首肯した。

「だからこの国で二人を保護すれば、第一王妃も手を出せない、というわけです」

「でも、相手は呪術師だ。どうやって身を守ればいいんだ?」

 この世界に魔法が存在しない設定だったから、多分呪術師というのも、実際に呪いをかけることはできないだろう。相手に何らかの心理的な恐怖を煽って、いかにもな演出をするくらいが関の山だと思う。

「一度、その呪術師にお会いしてみたいですね」

 どんなトリックを使っているのか分かれば身を守ることは容易い。危険を伴うかも知れないけど、それが一番確実な方法に思えた。

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