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55.

 陛下にカラコンであることを見破るように言われ、前世の日本だったら、カラコンというだけでかなりの違和感があるからすぐに分かるけど、こちらの世界じゃ間近で良くみないと分からない。

 その事を陛下に告げると、策があると言われて連れてこられたけど、真っ白なドレスに着替えさせられ、聖女のフリをしろと言われてしまった。

 いや、この国に聖女なんていないでしょ?ってツッコミはさすがにできなかったけど。

 涙を大量に流すとコンタクトが落ちることがあるから、もし近寄れなかったらその方法をとろうと思ったのはいいけど、涙を流す=玉ねぎしか思い付かなかったんだもの。

 王弟を名乗る男が王宮に到着したと報せが入り、最初は謁見の間の続き部屋に控える。かなり目立つ格好だしね、これ。でも、私の体に誂えたようにフィットするドレスがあるのも変な感じだわ。

 暫く待っていると、第二騎士団が王弟を名乗る男と思われる人物と共に現れた。そこにアレクシス様の姿を見つけた。

 なんだ、アレクシス様は仕事でこっちにいなかったのね。

 あれ、でもクリストファー殿下の姿は見えないわ。一緒じゃなかったのかしら?

「最近は偽物が出てきてな、少々困っている。そなたのその瞳が本物かどうか確かめさせてもらう。聖女をここに」

「はい」

 陛下の呼び掛けに、緊張しながらも、声が震えないように気を付けて返事をする。そして、ジョエルと名乗った男に少し近づいて、 

「すみませんが、目を良く見せてはいただけませんか?」

 と、問いかけた。

「は?何を言っている。側に寄るな、無礼者ッ!」

 案の定、ジョエルは拒否してきた。

「ジョエル、この者は我が国の聖女だ。人の目を見ることで嘘を見破る力がある」

 陛下も聖女設定が付け焼刃だが、信憑性を持たせるためかもっともらしく宣う。

「目を、良く見せていただかないと分かりません」

「っ寄るな!」

 ジョエルが慌てて後退りする。カラコンを入れっぱなしで、多分カラコン自体にホコリがついていたのか、白眼のところが真っ赤になってきている。痛そう……。

「あら、白眼が赤くなっていますね。何か異物が入っているときの症状です。異物を取り除かなければ……」

「そ、そんなもの入ってない。これは私の眼だ!」

 尚も私が近づくのを拒む偽物に、これは奥の手を使うしかないか、と覚悟した。

「すみません、手荒な真似はしたくなかったのですが……」

「うわあああ、眼、眼がぁー!」

 ジョエルは顔を押さえ、叫び声をあげた。

 みじん切りにされた玉ねぎが功を奏し、ジョエルの眼から涙が零れていた。

 そして“カツンー”と何かが落ちる音がした。

 やった、カラコンが落ちたわ。

「これが入っていたんですね。もう大丈夫ですよ」

 落ちたカラコンを拾い上げると、ジョエルは懐から何かを取り出した。それが短剣だと気づいたときには、彼は奇声をあげながら陛下に向かって突進していっていた。

「危ない!」

 思わず飛び出してジョエルに体当たりする。短剣と共にジョエルが転がる。陛下は無事か確認すると、陛下の右腕正中辺りから血が吹き出していた。

「早く止血しないと!動脈を切ったようだわ。清潔な布と包帯を!急いで!」

 陛下の右腕から拍動するように溢れだす血液をみた瞬間、私の中で何かが弾けた。私の中で何か物凄いエネルギーが渦巻く。反射的に体が動き、陛下の右腕の出血を止めるべくドレスの裾を破り、その切れ端で傷口を押さえ圧迫した。白い布が赤く染まっていく。圧迫する手に力を込めた。

 誰かが持ってきた清潔な布を当て、上からややきつめに包帯を巻き、腕を持ち上げた。

「心臓より下にすると出血量が増すから、腕をやや上に持ち上げてください。それと早く医師の診察を」

 陛下の顔色は出血量の割には、青褪めておらずホッとした。

 ここまで、ほぼ無意識のうちに手当てをしていた。

「めぐ……」

 私の名前を誰かが呼んだ。いや、違うわ。今の私の名前はエヴァ。『めぐみ』じゃない。いったい誰が?

 振り返ると、そこにはアレクシス様が立っていた。

「アレクシス……様?」

 アレクシス様は何か懐かしいものを見るような穏やかな眼差しを向けていた。

 一体どういうことなの?

「おい、さっさと歩け」

 兵士の声がした方を見ると、拘束されたジョエルが兵士に連行されようとしていた。

「待って。もう片方、ガラスが入ったままでしょう?取り出しておかないと、失明する可能性があるわ」

 ジョエルに駆け寄り、カラコンを外すように促す。

「どうやって外すのか分からない」

 とボソッという彼に、目に入れたときのように指で外すことを伝えると、兵士が片手だけ拘束を緩めてくれた。

 ゆっくり外されたカラコンを受け取り、

「後で清潔な水で目を洗うといいわ」

 と、伝えると彼は寂しそうに笑った。

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