53.囚われたクリストファー
「ミランダ様、お呼びでございますか?」
あのあと、アガザエルトの第一王妃に捕まった私は、情報を得るためにミランダの下僕となることを了承した。
幸い、カラコンもつけたままで、他に身元がバレるようなものを身に付けていなかったため、ルディスタンの王太子とは分からなかったようだ。
こんな素性の知れない、他国のスパイかもしれない者を、堂々と囲うミランダはとにかく美しいモノが好きで、美しければ何でも良いといった風であるが、腹心に私を二十四時間見張らせている。王城の一画と思われる豪奢な部屋に連れてこられ、ミランダの指示に従う。
おかげで命拾いしたようなものだけど。
「ミッシェル、お前の顔はいつ見ても美しいな。そこにナルディと並んで立ってみろ。うん、いいぞ」
ミランダのところではミッシェルと名乗り、同じくミランダの侍従であるナルディ(男)との絡みをさせられている。ナルディは小柄な男性で、顔も女性っぽい。髪が長ければそのまま女性でも通るくらいだ。
どうやら、ミランダは男同士のそういったものに興味があるらしいが、こればかりはどうにも解せない。
ランシュアもミゲルに色目を使っていたけど、奴の本命はこの国の貴族だと思われるが……。
そうやってミランダの要望に応えることで、少しずつ警戒心を解かし、ランシュアが企てたであろう計画の真相を探ろうとしているところだ。
しかし、この国でも同性同士の婚姻は認められていないことしか分からなかった。
要求は段々エスカレートしていって、ハグをしろだとか、お互いを見つめろなど、そのまま顔を近づけろだの……。この事をままいったらキスでもさせられるのではないかといった雰囲気だ。
ミランダに呼ばれる前、ナルディは言った。
「ミッシェルさん、僕はミランダ様を愛しているんです。だから、ミランダ様の要求にはできるだけ応えたいのです。しかし、男性とキスをするなんて死んでも御免ですので、そういう要求があったときは口元が見えない角度でフリをお願いします」
そういう要望があったときは、そのようにしなければならないのかと、落胆した瞬間だった。
どうせ、ハグやキスをするのなら、相手はエヴァがいい。いや、エヴァ以外は嫌だ。エヴァが恋しい。あの私を真っ直ぐに見つめるエメラルドグリーンの瞳、可愛らしい唇、少しずつ大人びてきている体を余すことなく愛でたい。エヴァと会えなくなることがこんなにも辛い。
「ミッシェルさんは好きな人がいるんでしょう?」
エヴァに思いを馳せているとナルディが問いかけてきた。質問の真意を見極めようとナルディを見遣る。
「見ていれば分かりますよ。ですが、あの方があなたに飽きない限り、手放してはくれません。今までの人もそうでしたよ。あなたが監視していた家の男も、あなたが来る一ヶ月程前までは、ミランダ様のお気に入りだったんですから」
何だって?衝撃の事実だな、おい。
「ミランダ様の不興を買ったあの男は、ここを追い出されました。普通の貴族になった彼は、恐らくミランダ様に復讐しようとするでしょう。最近私兵を国境付近に増やしているとの情報もあります。元々恋人がいたらしく、長い間離れ離れにされていましたしね。それも隣の国の辺境伯の息子って話です。ミランダ様は、自分の性癖が世に知れ渡るのを恐れて、その男と恋人を亡き者にしようとしています。僕は、ミランダ様が人殺しに手を染める前に何とかしたいと思っているんです」
ナルディの独白は、もしも私がここから逃げたら私も殺される可能性がある、と言っているようなものだった。
国境付近にいた民は、あの兵が国の兵だろうが、私兵だろうが関係ないのだろう。隣国に攻め入ると嘘の情報を流しても気づかないほどに、国政に興味がないのだろう。
私が考え込んでいると、
「ミランダ様には、お抱えの呪術師がいます。僕はそんなもの眉唾物だと思っているんですが、その呪術師が様々な薬を持っていることは事実です。あなたに使われた眠り薬などもそうです。その様々な薬の実験を、国境付近の国民たちに行っているとの噂もあるんですよ」
それは、かなり信憑性が高いな。あの国境付近の者たちは生気がなく痩せ細っていた。それが薬の実験のせいだとしたら……?
「それにしてもなぜ国境付近の者が実験台に?」
「それは分かりません……」
ナルディは困った表情をして私を見た。
アルフレッド「最近僕の出番なくない?」




