5.
ブクマ、評価、ありがとうございます。とっても嬉しいです(*^^*)
「アンナ、今聞いた通りよ。ヒロインは王太子を攻略対象に選んだみたい」
お父様が出ていったあと、傍に控えていたアンナへ声をかける。
「その侯爵家のご令嬢がマリア様なんですね」
「どうやらそのようね。でも、私、先日のお茶会で殿下のお姿はおろか、声すらも聞いていないの。どう思う?」
「どう思う?と聞かれましても。おめでとうございます、としか言い様がありません」
本当に、ゲームのスチルだけでしか姿形を知らない殿下と婚約を結ばれ、私としては不満だらけだった。だけど、婚約者として選ばれたとあっては、お妃教育は意地でも完璧にやらないと気がすまない。
エヴァも、刺繍以外の淑女教育では人並みならぬ努力をしていた。
こういうところはエヴァと私の共通点とも言える。
悪役令嬢って嫌な役だわ。
「ヒロインは以前より殿下との交流があったのかもしれないし、本当にお互いが想い合っているのなら私は邪魔者でしかないわ」
ため息をつきながら話す。
「お嬢様、だとしても世の中は政略結婚など当たり前です。ましてや王族ともなると、個人の感情は二の次になることは仕方ありません」
それはそうだけど……。断罪される可能性が限りなく高い未来において、平気でいられるかと問われれば答えは否である。王太子ルートでの断罪は、私のデビュタントの場で起こる。私がそれまでに殿下と仲良くしなければ、ヒロインと殿下の仲睦まじい様子を見ることもないし、悪役になることもないだろうし。だから殿下との面会を控えたいと申し出た。
「立場上、マリア様が私に直接攻撃を仕掛けてくるなんてことは……」
「ないとも限りませんよ。何せお嬢様にお茶をかけた張本人ですからね」
食い気味にアンナが答える。そうだった。あの令嬢、侯爵令嬢なのに伯爵令嬢である私よりマナーがなってなかったし、直接仕返しをするような子だったわね。
「そうね、十分気をつけるわ」
今後、決して私が1人にならないように話し合いをした。ヒロインからの直接攻撃を避けるために。
「アンナ、最近の刺繍のモチーフは何が流行っているの?」
「そうですね、薔薇の花は年代時代問わずに人気がありますが、百合の花も人気ですよ。男性には家紋などを刺繍すると喜ばれます」
私の刺繍の腕前がいきなり上がってもおかしいので、まずは簡単なモチーフを刺繍していた。次の刺繍のモチーフを何にしようかと考えつつ、手元を見ながら会話する。
「アンナは誰かに家紋を刺繍したことがあるの?」
「……!?ありません」
アンナをチラリと見やると、ほんのり頬を染めていた。
まあ、アンナが私より8歳年上で結婚適齢期であることを考えたなら、恋人の一人や二人いてもおかしくはないけど。それに、アンナは結構モテる。この事は本人には内緒なんだけどね。
「……コホン、そう言えば、先日お嬢様がお願いされていた品が届いていますが……」
刺繍道具とともに頼んでいた品物がようやく届いた。
レイ伯爵領はガラスが特産品で、とてもカラフルなガラスができる。そのガラスでビーズを作ってもらっていたのだ。そのビーズはキラキラと輝いており、形も綺麗に米粒ほどの四角い大きさに揃えられていた。
大量のガラスビーズを作るのに工房の職人さんにはかなり無理をしてもらった。
厚紙にイラストを描き、そこに糊をつけ、ビーズを並べていく。微妙に色を変えながら。先の細いピンセットはガラスビーズを掴むのに最適で作業を楽にしてくれる。
少しずつ姿を現すそれは、かなり根気のいる作業だが、完成したときの達成感がなんとも言えない。
アンナはとても不思議そうに見ていたが、完成したアートを見て嘆息していた。
天使をガラスビーズで作ってみたのだ。キラキラと煌めくそれは光の加減で微妙な色合いとなり、とてもガラスビーズには見えないほどの出来栄えだった。
出来上がったものを額に入れる。近くで見るとモザイクのように見えるが、少し離れてみるとちゃんと絵になる。これがこの絵の特徴でもある。
刺繍とガラスビーズでできた天使の絵と、他にもう一つ、薔薇の花をガラスビーズで作成し、アンナとともに教会のバザーへと向かう。
「エヴァ・ドゥ・レイ様ですね、お待ちしておりました」
教会につくと司祭様が出迎えてくれた。20代前半と思われる、若い司祭様だ。
「すみません、父が腰を痛めまして……。今日は私が代理です」
少し長めの黄金色の髪を一つに纏め、金色の瞳で優しく微笑む姿は、一幅の絵画のようでうっとりとなってしまった。
「こちらこそ、初めてのバザーで分からないことばかりです。よろしくお願いします」
スカートの裾をつまみ軽く腰を落とす。
「じゃあ、こちらにどうぞ」
司祭様にバザーの一角へと案内された。
どうやらここで商品を売るようだ。
この御話に出てくるガラスのアートですが、一般的にダイヤモンドアートと呼ばれています。実物はガラスビーズではなく樹脂でできたビーズです。私がハマった手芸の一つです。検索するとすぐ見つかりますので、ご興味のあられる方はぜひご覧ください。