48.
旅の行商として無事入国した私たちは、街の様子に唖然とした。
人々の目はどこか曇っており、生きる気力すら感じられない。そして一様に皆痩せ細っている。
私は町民の一人に声をかけた。
「済まないが、少しばかり話を聞きたい。私たちは行商しながら旅をしているんだが……」
「なんだぁ?余所者か。貴族街ならこの道を真っ直ぐ行ったところだよ。最近、ここら辺じゃあ、国王様がルディスタン国に攻め入る準備とかで兵士が多い。物騒なんでさっさと行きな」
しっしっと追い払う動作をしながら、町民が答える。
「ありがとう」
礼を言い、町民の言葉を伝える。
「やはり、アガザエルトは我が国、ルディスタンに攻撃を仕掛けようとしていると?」
ミゲルの言葉に頷く。
ただ、理由が分からない。
攻撃するならとっくに攻撃されていてもおかしくないのだが……。
「…………。何かを待っている、とか?」
「そうだな、それも考えられるが……。何を待っているのか想像がつかない」
ランシュアの言葉に何か引っ掛かりを覚えたが、今ここでグダグダ考えても仕方ないので、移動することにした。
「そろそろ、この辺りで宿を取りませんか?」
ランシュアの提案に、すっかり辺りが暗くなりかけていることに気づいた。
国境からは随分と離れるせいか、こちらの方は普通の街だった。
宿は二人部屋が二つあり、私とミゲル、ウィリーとランシュアがそれぞれ泊まることにした。
ランシュアは若干不満そうだったが。
夕食を取るため、宿の一階へと降りると、そこは居酒屋となっていた。
エールとつまみを適当に注文し、他愛ない会話をする。
「よぉ、兄ちゃんたち、どこから来たんだい?」
近くにいた酔っ払いに話しかけられた。
正直に、ルディスタンと答えることにリスクを感じたため、違う国の名前をだし、ルディスタンを通ってきたと伝える。
「ルディスタンを通ってきたんなら、あの噂、知ってるかい?」
噂?
「どんな噂ですか?」
ウィリーが興味深そうに尋ねる。
「ルディスタン国の王弟殿下が生きていた、って話さ。何でもその王弟殿下がアガザエルト国王にルディスタン国を一緒に討ち取らないかって話を持ちかけているらしくてな」
酔っ払いがそこまで話すと、
「あんた、いつまで呑んでるんだ!さっさとうちに帰らないと明日の朝飯抜きだよ!」
と奥さんらしき人が引っ張っていった。
その様子を見送り、部屋へ戻る。
「さっきの酔っ払いが言っていたことは、本当なんですかね」
ウィリーが言う。
「どこまでが正確な情報か分からないが、正式には父上の義理の弟は五歳の時に死んだことになっている」
先代の国王の側妃が、産んだ子の瞳の色を理由に不貞を疑われ、母子ともに殺された。
王家の男子に受け継がれる筈の紫色の瞳が、その子にはなかった。
そう表向きはなっている。しかし……。
「王弟殿下が生きていたとして、今更……」
ランシュアも考え込む。
「しかし、クリス様が正統な後継者であることには変わりありません」
ミゲルの言葉は、心強かったが……。
私の心の中は複雑だった。あの人がそんなことをするわけがない。確証はないが、どことなく確信はあった。
「ウィリー、起きろ。そろそろ出発するぞ」
ウィリーが中々起きてこないので部屋まで行くと、ウィリーは気持ち良さそうに鼾をかいていた。
「さっきから私も起こしているんですけど……」
ランシュアが申し訳なさそうに項垂れる。
「良いさ、ランシュアのせいではない。ウィリー、起きないか。夕べ、そんなに呑んではいないだろう?」
揺り起こすと、やっとのことでウィリーが目覚めた。
「ふああ、おはようございます。クリス様、ミゲル、ランシュア殿」
まだ眠たそうな眼を擦りながら、欠伸をする。
「どうした?珍しいな」
第二騎士団団長ともあろう者が、こんなに寝起きが悪いとは聞いたことがない。
「いやぁ、普段なら小さい物音にでも起きるんですけど……。疲れてたんですかね……?」
罰が悪そうに、頭をかきながら朝支度をする。
私たちは朝食を取り、宿を出た。
「さて、どうしますか?」
ミゲルに問いかけられ、私はある決断を下した。




