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「殿下、ここの令嬢にとても気に入られたみたいですね。エヴァ様を諦めてこちらのセラスティーア嬢を娶られたらいかがですか?」
晩餐が終わり部屋に戻ると、ミゲルは開口一番に言った。
晩餐で、セラスティーアに熱い視線を送られていたことに気付かないフリをしていたのだか、ミゲルはわざとからかっているようだ。
「冗談じゃない。ユリウス殿やセラスティーア嬢には悪いが、私はエヴァ以外の女性を娶る気はない」
キッパリと答える。それにセラスティーアは何か引っ掛かりを覚える。
どんなに他の令嬢が美しかろうと、私はエヴァ以外の女性は考えられないのだ。
「ミゲルこそ、ランシュアから好意を寄せられているみたいだが?」
「それこそやめてくださいよ。私は男色ではありません」
「なんならいっそのこと、キャロルの格好をしてみたらどうだ?」
去年、エヴァ付きの侍女となった護衛の姿を思いだし、けしかけてみたが、ミゲルはゲンナリとしている。
まぁ、なんというか……。ランシュアはどうもミゲルのことを気に入ったらしく、やたらとボディタッチしていた。
これでミゲルが脱落してくれれば、ライバルが一人減っていいんだがな。
そうなれば、ミゲルほどの優秀な護衛は他にいないから、彼も王都に来ることになるのだろうか?
ミゲルとランシュアの将来に思いを馳せていると、ミゲルが話の核心をついた。
「ランシュアのことは一旦置いといてですね……。アガザエルトのことはどうするんですか?」
「そうだな、明日国境で、兵士に事情を聞いてみないとな。場合によっては情報を得るため、敵地に乗り込まなければならないが。もしもの時は、私が人質にならざるを得ないだろうな」
もし、戦争をするなら、とっくの昔に攻撃されている。しかし今の状態は、向こうもこちらの出方を窺っているとみた方が良いだろう。
平和的な交渉ができれば良いが、万が一の時は私が人質となり、皆を逃がさなければならない。
それ相応の身分でないと、交渉に使えないからだ。
「殿下、分かっておられるとは思いますが、あくまで最終手段ですからね」
ミゲルが念を押す。
私だって、好きで人質になりたい訳じゃない。
万が一人質にでもなったら、エヴァに会えなくなるじゃないか。
私が人質になる事態なんて億分の一の可能性もないがな。
「分かっているさ。その時が来ないことを祈ろう」
「もし、殿下が人質になったら、私がエヴァ様を慰めて差し上げますのでご心配なく」
チッ。食えない奴め。
「ランシュアを今から呼ぼうか?」
言い負かされるのは性分じゃない。今のミゲルが思いっきり嫌がりそうなことを言うと、それはそれは効果覿面だった。
「ねぇお父様、私、殿下のお嫁さんになりたいわ。あんな素敵な方だったなんて。もっと早くに知っていたら、いろいろアプローチできたのに」
「そうか、殿下のことを気に入ったのかい?」
「ええ、とても」
「それなら可愛い娘のために、何とかしないとな」
セラスティーアの瞳が妖しく光る。
こんなに早くにこちらに来てくれるとは、なんと好都合なのだろう。
一度はどこぞの伯爵令嬢と婚約していたけど、その後婚約破棄。それから婚約者の席はずっと空席のままだった。
その席を狙う者は多い。こんな辺境にいては殿下とお会いする機会はないからと、諦めていたけど今回のことはチャンスだわ。
王太子という肩書きもだけど、見た目も素敵な方だったわ。お兄さまは護衛のミゲルって人の方がタイプみたいだけど。私が狙うのはクリストファー殿下ただお一人。
「明日の視察に付いていってはダメかしら?」
「うーん。まあ、聞いてみよう」
私はにっこり微笑んだ。




