45.
「アガザエルトの動きが妙だな」
「と、言いますと?」
「いや、少しばかり気になることがあってな」
平和主義国である我が国。戦争をけしかければ、簡単に御せると思う国があるのは仕方ない。
だからといって、軍事力が他の国に比べて劣ることはない。
「陛下、いかが致しましょう?」
「そうだな、警備の強化とアガザエルトの目的を探る。クリストファーを行かせる。第二近衛騎士団精鋭も一緒だ」
「王太子殿下をですか……?」
「何か文句があるか?」
「失礼致しました。早速、そのように取り計らいます」
クリストファーであれば、的確な情報収集に長けている。また、剣の腕もこの国では右に出るものはいない。
だからといって油断できるものではないが……。
「アレクシス、アルフレッドは?」
「大丈夫だと思うがな。一人では伯爵家に来てはならんと言われているそうで」
アガザエルトとの国境へ向かう道中、気になったのはエヴァのことだ。
直ぐに出立せよとの命令で、私と護衛のミゲル、第二近衛騎士団精鋭二十名が行くことになった。
エヴァに何も告げずに移動しているため、不安に思うかもしれない。この任務が終わるまでは、しばらく会えないだろうと予測する。
ミゲルとアレクシスは同行しているが、アルフレッドだけが残っている。私たちがいない間に何もしないといいが……。伯爵から一人では来るなと言われているとか……。まあ、あの刺繍が原因だろうけど。
「昨日エヴァを怒らせたまんまだからなぁ、謝る暇もなかったよ」
「そうですね。エヴァ様も、突然来なくなったら愛想つかされたと思って、他の男性と……。うわぁ、考えたくないですね。ね、殿下?」
昨日、私はちゃんと謝ったし、エヴァに徴も付けてきた。その徴は帰る頃には消えるだろうけど……。
ああ、エヴァの顔を見たい。エヴァに触れたい。抱き締めたい、キスしたい。そしてもっとそれ以上のことも……。
「殿下、殿下ってば聞いているんですか?」
「あ、済まない。聞いてなかった。で、何か?」
ミゲルもアレクシスも呆れている。
「エヴァ様には何も告げずに来たんですよね?突然来なくなったらエヴァ様が何て思われるか、気になりませんか?他の男が言い寄ってきたりしたら……」
そうだった。エヴァの心の中にいるあの男……。
私たちがいないからと言って、エヴァに手出しするような度胸はなさそうだが……。エヴァの一方的な片想いだし。
「エヴァなら大丈夫だ。そんな簡単に他に靡くような女じゃない」
「殿下、余裕ですね……」
まあな。エヴァの想い人は、エヴァ以外の女性を見ているからな。エヴァの魅力に気づかないとはけしからんが、ライバルが増えないという点では助かっている。
せいぜい、エヴァの魅力に気づかないでいてもらいたいものだ。
「ところで、辺境伯邸までは、まだ遠いのですか?」
第二騎士団の団長、ウィリ-が尋ねる。
「ああ、もう少しだ。」
国境警備の拠点となる兵舎に突然人が増えたら、アガザエルトに不審がられる。
そのため、辺境伯邸から交替で兵舎に行くことになってる。
日が暮れるころ、ようやく辺境伯邸が見えてきた。
「ようこそお越しくださいました。たいしておもてなしできませんが、不都合などございましたら何なりとお申し付けください」
出迎えてくれたのは辺境伯のユリウス伯爵だった。
四十代後半といった感じの柔和な中年男性で、奥方と二人の子どもがいる。
奥方とは年の差婚だとかでユリウス伯爵より十歳ほど若いとか。
「紹介しよう。妻のミーシャと、息子のランシュア、娘のセラスティーアだ」
辺境伯の隣に中年の女性と、青年と少女が立ち挨拶を交わす。
「初めまして。妻のミーシャです」
「ランシュアです」
「セラスティーアです」
家族の全員が金髪碧眼、温和な印象で、仲が良さそうだ。
「こちらこそ。しばらくお世話になる。よろしく頼む」
こちらもミゲルとウィリー、アレクシスを紹介する。残りの団員は割り当てられた部屋で五人一組で過ごす。
お互いを紹介し終えたあと、晩餐に招かれた。
騎士団の皆も今夜だけは呼ばれるが、基本自炊だ。
長い滞在になるのに、そう毎回毎回食事の世話までしてもらうわけにはいかない。食材も持ってきているし、なんなら現地調達する手筈も整っている。
晩餐の席では豪華な食事が並べられ、急に訪れたことを申し訳なく思ったのだが。
「たまにはこういうこともないと、こちらにはあまり娯楽になるようなものがなくて、使用人達も喜んでいるんです」
とユリウス伯爵がいうので、ありがたく頂くことにした。




