44.
「今日も殿下を始め、皆さんお見えになりませんでしたね」
メリーが残念そうに呟く。
「あれ程お嬢様をお構いになっていたのに、どうなさったのでしょう?」
ほっておくと言っていたアンナも不思議がる。
「お忙しいのでしょう。王太子としての仕事も山積してますから」
スーザンは相変わらず冷静だ。私の侍女だけど、殿下の命令でここにいるため、時おり王宮と連絡をしあっているとのことだった。
「スーザンがそう言うのなら、心配しなくても良いかしらね」
でも、ほんとは寂しい。皆が丸二日、姿を見せない。毎日のようにうちに来ていたのに、急に来なくなるなんて何かあったのかしら?
殿下の護衛であるミゲルも当然来ない。
アレクシス様も、騎士団の仕事が忙しいのか来ていない。
アルフレッドは、何故かお父様に一人で来ることを禁止されているとのことだった。
そのため、私の周りは殿下と婚約していたときのように静かだ。
ロザリンドがデザインしてくれたドレスは、どれも素敵で選ぶのにとても迷った。
その中から、殿下の色である紫色を基調としたグラデーションの綺麗なドレスを選んだ。
「ねえロザリンド。この布と同じものが余ってないかしら?少し分けて欲しいのだけど……」
躊躇い勝ちに言うと、不思議そうな顔をされた。
「何にお使いなのでしょうか?」
「私がちょっとした小物を作るのに頂きたいのです」
アンナが私の言うべきセリフをそのまま言ってしまった。
私が手芸用に欲しいと言ったら、それこそそういったものを貴族の令嬢が作るなんて……。と思われてしまう。だけど、侍女が使いたいと言えば、別におかしいことはない。
アンナの咄嗟の機転がありがたかった。
「分かりました。そういうことでしたら、次回お持ちします。他にご希望はございませんか?」
さすが商会No.1のデザイナーだ。商魂逞しい。
「でしたら、これとあれと……」
アンナが私の欲しているものを的確に要望してくれたお陰で、私が手芸するなんて思われずに済んだ。
彼らが来なくなったことで、随分と時間が余ってしまうけど、自分のやりたいことをやれる絶好の機会だと思うことにしよう。
最近はバザー用の刺繍も、レース編みも、逃亡用の資金作りも?頑張りすぎてるし、少し息抜きしようと思う。
「エヴァ様、差し支えなければ教えて頂きたいのですが、エヴァ様はデビュタント用のドレスを、殿下が贈られることについてはどうお思いですか?」
ロザリンドが直球で聞いてきた。そういえば外聞が良くないって言ってたわね。でも……。
「確かに外聞は良くはないけど、殿下のお気持ちを無碍にはできません」
嬉しい、なんて言ったらそれこそ何て思われるだろう?
当たり障りのない返事をして、私の気持ちを誤魔化した。
「そうですか」
ロザリンドの瞳が曇ったように見えた。
何か気に障ることでも言ってしまったかしら?
どうしてエヴァ様だけが選ばれるんだろう?
私---ロザリンドは独り言た。
エヴァ様のどこがいいのか全く分からない。
つり目のキツい印象の……。飛び抜けて美人と言うわけでもないし、スタイルだって私の方が良いのに。ただ、伯爵令嬢という肩書きしか持たない小娘の癖に……。
ミゲル様も殿下も、ガマダセル公爵家の兄弟も、揃いも揃ってエヴァ様を取合いしていると聞いた。
まさかあの人がエヴァ様を……。話をチラッと聞いたときは俄には信じられなかった。
エヴァ様のデビュタントまであと一年と迫ったある日、そのエヴァ様からのドレスのオーダーが入った。
エヴァ様の元を訪れていれば、偶然あの方に会うこともあるかもしれない。
そこでまた、あの方と少しでも話ができたらいいなと思っていたけど、あの方が、エヴァ様に本気だと分かってしまった。
そして、その状況を楽しんでいるかのようなエヴァ様の表情……。
許せない。あの方を弄ぶなんて……。




