43.
「エヴァ、さっきはごめんね。エヴァの気持ちを考えずに、困らせてしまったね。反省してる。私は本気で君と結婚したいと思っている。だから、そろそろ私との関係を真剣に考えてくれないか?」
帰ったはずの殿下が何故か私の部屋にいる。そして、何故か後ろから抱き締められている。
遡ること10分前。私が一喝したことで皆帰ったと思っていたのだけど、殿下だけはさっき私を怒らせたことを謝りに戻って来てくれた。護衛で一緒に来ていたミゲルは先に帰らせたそうで……。護衛がそんなことでいいのかと疑ってしまう。
不敬だと承知しながらも、殿下の顔を真っ直ぐ見れなくて後ろを向いていたら……。
ズルいよ。そんな風に優しくされたら……。
不敬罪で処罰されなくて良かった、とほっとしたのも束の間。
後ろから抱きすくめられて、身動きが取れない。
それから延々と殿下の謝罪を聞いている……。
そして……。殿下の吐息を後ろの首筋に感じたかと思ったら何か熱いものを押し当てられた。そこにチリッとした痛みを感じ、思わずビクッと身動ぎした。
「エヴァ、愛してる」
そう言って殿下は離れていった。
何が起きたのか分からずにキョトンとしてると
「無防備だなぁ。せめて私以外の男の前でそんな顔しないでよ」
と笑われてしまった。
「で、殿下……。今、何を……?」
「クリスと呼んでって言ってるよね?私の徴を付けただけだよ」
飄々としている殿下に、もう何も言い返せなかった。
好きな人に、そんなことされて怒れるはずがなかった。
さっき、ロザリンドと親しげに話す殿下を見て、ちょっとだけ嫉妬した。
だけど、殿下は相変わらず私のことを想ってくれている。
今だってこうして、謝りに来てくれた。たったそれだけの事がどうしようもなく嬉しい。
顔を真っ赤にして俯く以外、私は何もできなかった。
「また来るよ。それと、デビュタント用のドレスは私に贈らせてほしい」
「それは……。よろしいのですか?私は婚約者ではありません。もしもこの先一年の間で殿下に好きな方ができたら……」
ロザリンドは外聞を気にしていた。確かに婚約破棄した相手にドレスを贈るなんてことはしない。
殿下の沽券にも関わる問題なのではないかしら?
「エヴァ、可愛い。何をそんな心配してるの?そんなことは絶対にないから」
殿下に真剣な眼差しで見つめられ、いよいよ私も真剣に、これからのことを考えなければいけないなと思った。
殿下に対する気持ちも、ちゃんと伝えないといけない。
アルフレッドやアレクシス様、ミゲルにも私の気持ちをちゃんと知ってもらう必要がある。
そうしたら皆がうちに来て、毎日のように揉めることもないだろう。
「殿下……。私は殿下の事が……」
「ストップ。君が今誰を想っているのか、大体予想はついているよ。でも、私はエヴァを誰にも渡したくないんだ。だから、その先の言葉を言うのはもう少し待ってくれないか?」
へ?どういうこと?
私が殿下のことを好きだとバレバレとか恥ずかしすぎる。
でも、『待ってくれないか』と言われたら待つしかないよね。やっと本当の気持ちを言う決心がついたというのに……。
ちょっと肩透かしを喰らったような気持ちになりながらも、殿下の言葉に素直に頷いた。
殿下が帰ったあと、三人の侍女たちには非常に気の毒がられた。
「殿下もちょっとおバカですよねぇ」
スーザンが沁々と溜め息をつく。
「お嬢様が誰か他の方を想っていると勘違いされてますよね。アレ」
メリーも同意を示す。
「でも、面白そうなのでほっときましょう」
アンナは我関せず。
面白そうって……。っていうかメリーなんて言った?
「私が誰か他の方を想っていると殿下が勘違いしてるってこと?」
「そのようですよ。じゃなきゃあんなこと言わないですよ」
メリーが胸を張って答えるけど、それ、胸を張ってまで言う事じゃないよね。
殿下は一体誰を想ってると勘違いしてるの?
ものすごく気になるし、誤解は早いうちに解いておきたい。
だけど……。この後、殿下と会えなくなるなんて、このときは予想もしていなかった。
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