42.
「初めまして。エヴァ様。ロズウェル商会から来ましたロザリンドと申します。よろしくお願い致します」
「エヴァ・ドゥ・レイです。こちらこそよろしくね」
ロザリンドと名乗った女性は、溌剌としていて人好きのする笑顔で挨拶をしてくれた。
スタイルが良く、前世で言えばモデルさんみたいだ。
ロズウェル商会といえば、この国で一番大きな商会で、王家御用達にも関わらず、取り扱っている物も宝石から食料品といったものまで幅広い。
もちろん、ドレスもオーダーメイドで作ってくれるし、そこにいるデザイナーは超一流だと聞いている。
「早速、エヴァ様のご希望をお聞きしたいのですが、何かございますか?」
「特にこだわりはないのだけど、濃い色合いがいいかなって思ってるわ」
「なるほど、濃い目の色味ですね、デザインは……」
彼女はデッサン帖を取り出し、私の希望を元にサラサラとデッサンしていく。
「それでは、また明後日お伺い致します」
デッサン帖をしまい、ロザリンドが帰る準備を始めたとき、いつも来ているあの方たちの来訪が告げられた。
「エヴァ、そろそろ私に落ちましたか?」
「エヴァ、僕と結婚しよう」
「エヴァ、俺の嫁に来るか」
「エヴァ様、奴らはほっといて私と……」
ああ、頭いたい。嫌な予感しかしないんだけど……。
「で、こちらの方は?」
闖入者にあんぐり口を開けているロザリンドに、殿下が問う。
「あ、私はロズウェル商会でデザイナーをしておりますロザリンドでございま……。で、殿下?」
ロザリンドが途中で殿下を凝視する。どうしたのかしら。
「ああ、君か。久しぶりだな。お父上は息災か?」
「はい、お陰さまで。殿下こそ、ご壮健で何よりです」
「ありがとう。今日は何しにこちらへ?」
「はい、エヴァ様のデビュタント用のドレスを依頼されまして」
会話が弾み他人の入る隙すらない。それに心なしか殿下が嬉しそうに見える。
ロズウェル商会が王家御用達だから、会ったこともあるのかもしれないけど、やけに親しそうに話すのね。
なんだか心がもやっとする。
「そうか、そろそろそんな時期なんだな。そのドレス、私がエヴァに贈りたいのだが……」
「ご婚約されていたときなら、それもよろしかったかと。ですが、今はご婚約者ではありませんので外聞はよろしくないですよ?」
ツキン……。胸の奥を何かが刺す。何だろう、この感じ……。前にもあったような……。
「それでも構わない。そのうちまた婚約するからね」
殿下が何でもない風にのたまう。
婚約破棄をしてから、殿下が『落とす』といっていた期間まであと一年。本当にまた婚約できるのだろうか、とても不安だけど、殿下の態度が相変わらずなのが救いだわ。
「ちょっと待った。エヴァのドレスは俺が……」
「僕が」
「私が」
三人の声が被る。
それぞれ、お互いを睨み合い、一触即発の雰囲気を醸し出している。
「皆さんは、エヴァが私のモノであることをお忘れですか?」
殿下が目が笑ってない顔で皆を見る。皆の視線が一斉に殿下に集まる。
「俺のモノだ」
「僕のだ」
「私のです」
殿下も含め、何故か私の意志が無視されている気がするのですが。
ごちゃごちゃ言い出した男どもにだんだん腹が立ってきた。
「私はモノではありません。すみませんが、皆さんお引き取り願えますか」
一つ深呼吸をし、皆を一瞥する。
さっきから人をモノみたいに言って。それに私、誰ともお付き合いしてないし。どうしてこう毎日毎日家に押し掛けて来て、私を取り合うの?私の意思は尊重してくれないの?心の中で叫んでも聞こえないだろうけど。
多分、心のもやもやが原因ね。
普段ならこんなことくらいで怒ることないのに。こんなに冷静さを欠くなんてどうかしてるわ。
私の滅多にない迫力に気圧された男性四人は、すごすごと帰っていった。
皆、口々に『ごめん』と謝罪の言葉をくれたけど。
「お嬢様、よろしかったんですか?」
アンナの言葉に、そういえば皆、私より位が上の方たちばかりだったと思い出す。
「不敬罪で処罰されない…………よね?」
一人蒼白になってしまった。
「殿下ならエヴァ様を閉じ込めて、人の目に触れさせない位のことは朝飯前ですよ。それらしい理由をつけて、いつでもエヴァ様を独り占めしたいとお考えですから」
何気にスーザンの言葉が、ゲームの幽閉エンドを思い起こさせた。
あれ?私、バッドエンド回避したよね?ゲームの強制力なくなったんじゃなかったの?
今度はそっちが気になりだしてしまった。




