40.ミゲルのひとり言
エヴァ様に最初に出会ったのは、殿下の命令で侍女に変装し、エヴァ様のお付きになったときだ。
蜂蜜色の輝く髪に、エメラルドグリーンの意思の強そうな瞳がやや吊り上がってキリッとした印象だった。
話してみると、とても柔らかな口調で優しい人柄が窺えた。侍女に扮した私にも気さくに話しかけてくれていた。
この任務は極秘で行っていたが、エヴァ様は時折私を不思議そうな表情で見ておられることがあった。
まさか、極秘任務がバレたのか?でも、エヴァ様の対応は相変わらずだった。
任務初日にアンナに呼び出され、一体どういうつもりか聞かれたときは正直に答えるしかなかったけど『お嬢様に害するつもりがないなら』と見逃してくれた。アンナ、恐るべし。
それから、エヴァ様のちょっと変わった仕事のオーダー表をまとめる仕事をさせられるようになった。
伯爵領の名産のガラスをビーズ状にしてオーダーメイドのキーホルダーを作っているエヴァ様に、お客様の希望と必要なガラスの量を纏めた表だった。殿下が毎日のように愛でている一枚の天使の絵に似たそれは、最初は全く訳が分からなかったが、それが巷で流行しているものだと後から知った。
そして、貴族の間で流行しはじめていた切子グラスというものがあり、緻密に入れられた文様は、複雑になればなるほど高価で取引されており貴族は挙ってこのグラスを買い求めた。
このグラスのお陰で、街が活気づいているのだとか。
それを流行らせたのがエヴァ様だと知ったときの衝撃は、忘れられない。
貴族のお嬢様が、なぜこのようなモノを知っているのか不思議だったし、そのような発想力がある人は見ていて飽きなかった。
そして、私と同時期にエヴァ様付きとなった侍女、メリーが怪しい動きを見せ始めた。
今まで殿下と交流のなかったエヴァ様に執拗に手紙を書くことを勧めていた。封筒を出しに行くと言ったのでメリーの後をついていくと、一旦自室に戻ったあと、手紙を出しにいった。
勝手に部屋に入るわけもいかず、殿下に事の経過を報告しておいた。
届いた手紙は、とてもエヴァ様が書かれるような内容ではなかった。やはりメリーは……。
殿下の返事もあまりに素っ気なく、エヴァ様がすごくショックを受けておられることが明白だった。
ただ、その返事も殿下の書かれたものではないことに気付いたため、火急を要すると判断しメリーの部屋に侵入した。そこで見つけたものは、エヴァ様が書かれた本物の手紙と、殿下からの本物の手紙だった。そして、メリーが公爵令嬢のマリアに脅されている証拠も掴んだ。
メリーが持っていた香水の瓶が怪しくて調べていたら、匂いを嗅いだとたん、クラクラしてきた。ヤバいことになったと思い、伯爵に暇をいただいてその場を立ち去った。
ここで倒れて男だとバレたら何もかも水の泡だしな。
そしてエヴァ様が誘拐された。正確にはクローゼットの中に隠されていたのだけど、その後本当に連れ去られてしまった時には、頭が真っ白になったけど。
なんとか無事に助け出されたエヴァ様を、殿下が愛おしそうに抱きかかえているのを見て、それ、私がやりたかった。と殺意が沸いたのは嘘偽りのない感情だった。
苦し紛れに『見せつけないでください』といったけど、
心中穏やかではなかったな。
その後、事件が解決したため、私はエヴァ様から離れる事になり、通常の業務に戻ることとなった。
あれから一年が過ぎ、殿下がエヴァ様のお屋敷に行くことはほぼ毎日だった。
しかし、今日に限って、なかなか戻ってこられなかったので連れ戻しに行ったら、ガマダセル公爵家の兄弟たちも一緒に街に出掛けたとのことだった。
祭りがあっている今日なら、多分教会に行くだろうと踏んで待ち伏せしていたら、エヴァ様を見つけた。
久し振りに見る彼女は、少し大人びた感じがしてより一層美しくなられていた。
そのすぐ側にはアンナと、ガマダセル公爵家の兄弟と、茶髪になっているけど間違いなく殿下がそこにいた。
殿下は相変わらず、エヴァ様を愛おしそうに見つめている。だから、どんなに変装していてもすぐに分かった。
近づいてみると、殿下の王家特有の紫色の瞳が、エヴァ様のエメラルドグリーンに変わっていた。
一体どういうことか尋ねると、エヴァ様がガラスを入れていると説明してくれた。
本当にどこからそんな発想ができるのか、感心するとともにエヴァ様を自分のモノにしたい欲求が大きくなっていっていることに気付いた。
もし、この方たちがモタモタしているなら、横からかっ拐うなんて容易いことだ。
この女性が側にいてくれたら、毎日が楽しいだろうな。
私は彼らに宣戦布告することにした。




