表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/81

4.

 翌日から、私とアンナは部屋に籠りがちとなり、刺繍に励んでいた。

「エヴァが刺繍をするなんて、どうしちゃったの?」

 と母に言われ、

「うーむ、こりゃ何かの凶兆かもしれん」

 と父が悩む。


 たかが刺繍一つで私って一体どんな評価なの?


 それでも今まで苦手だったものを克服しようとする私(今の私は得意なもの)を、両親は生ぬるい眼差しで見つめていた。


「アンナが教えてくれますの。お父様もお母様も、アンナの刺繍の腕前はご存知でしょう?」

 意気揚々として話すと、両親は

「あまり根を詰めるではない」

との言葉をくれた。基本、優しい(私に甘い)両親で良かった。




 あのお茶会事件の5日後、お父様が血相を変えて部屋にやってきた。

「お父様?どうなさいましたの?」

「エヴァ、先日のお茶会で何をやらかしたんだ!?」

 お父様の手には一通の手紙が握られていた。

 その封筒に、王家の紋章が窺い見えた。

 

 あの日、マナーのなっていない令嬢をちょっとだけ指摘して、お返しに紅茶をかけられ失神したことは、お父様もご存知のはずだけど……。

 あの令嬢が何か言いがかりをつけてきたのかしら?



「クリストファー王子の婚約者に内定した。家としては辞退するわけにはいかないが、お前の性格を考えると、とても王太子妃など務まらないではないか」

 えーと。いろいろ突っ込みどころがございましてよ?お父様。


「お父様、どうして婚約者になったのか理由をお聞かせ願えませんか?」

 私がそう問いかけると、お父様の顔色は一層青くなった。

「お前がマナーを指摘した令嬢だが、侯爵家のマリアというらしい。王妃様が、そのお前の物怖じしない性格をいたく気に入られたと。そう書いてある」

 身分で言えば、伯爵家より侯爵家の方が上になる。普通なら私の言動はあり得ないことで、それもマナー違反にあたるのではないか?

 おまけに、殿下に気に入られたとかではなく、王妃様が気に入ってくださったとのこと。

 あれ?そう言えば、あの日のお茶会で殿下をお見掛けしていないわ。

 でも、家の立場としてこの婚約を辞退できないことは明白だし。

「お父様、そのお話、謹んでお受けいたしますわ」

 口元がヒクつくのをこらえながら、淑女らしい返事をする。

 お父様は心配そうにしているがやがて

「分かった。お前がいいのなら、そう返事をしよう」

 と言ってくれた。もしかして、私が嫌だと言ったら断るつもりだったの?

「お父様、一つお願いがございます。私が社交デビューをするまでの間は、殿下との面会を控えたいのです」

「それは何か理由があるのか?」

 私が将来、断罪された後の人脈作りのためとは言えず、

ましてや殿下には他に恋人が出きるなどということを言えるはずがなかった。逡巡して、

「私はまだ、淑女としてのマナーを完全に身に付けてはおりませんし、社交デビューもまだです。完璧にマナーを身に付け社交デビューを果たしたあかつきには堂々と王太子の婚約者として隣に立てるかと思いますので……」

 我ながら苦しい言い訳だな……。まあ、今までのエヴァの性格を考えると、この言い訳は効果があるかもしれない。

 如何せん、娘に甘いお父様は渋々といった表情で首肯した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ