39.アンナのひとり言
お嬢様はとても芯の強い方です。貴族の令嬢という身分に恥じないよう、幼い頃から淑女教育をとても頑張っておられました。
時々話す言葉が、高飛車に聞こえることもありました。
高飛車でワガママ。これがお嬢様に対する対外的評価でした。
しかし本当のお嬢様はとてもお優しいのです。
いつだったか、木に登り降りられなくなった仔猫を助けようとして、自分で木に登ろうとされたことがありました。ですが、生粋のお嬢様が登れるはずありません。
執事が止めようとしたのですが、お嬢様は泣きながら『仔猫を助けて』と訴えました。あの仔猫はその後庭師によって助け出されましたが、その時のお嬢様の笑顔といったら……。
王妃様主催のお茶会から帰ってこられてからお嬢様はお変わりになりました。
今まで大の苦手で、道具すら揃えていなかった刺繍をいとも簡単に刺して、前世の記憶を思い出し、この国は乙女ゲームとかいう世界らしいと話してくださいました。
言葉遣いもとても優しくなられましたので、これで完璧な淑女です。
お嬢様とともにバザーに初めて行った日、あの方にお会いしました。金色の髪に金色の瞳。いつもいらっしゃる司祭様の息子さんで、穏やかな笑みを浮かべておられました。
素直、とでも言いましょうか。お嬢様の作られた絵をみて感嘆されており、それを教会に寄付されたらとても大喜びで……。
見た目は素敵な殿方ですのに、子どもっぽいところありそのギャップにひたすら悶えたくなりました。(コホン)
司祭様は、お父様の代理だったはずですが、お嬢様とバザーに行くと必ず私たちを出迎えてくれました。
もしかしたら、本当に偶然だったのかも知れませんが、
毎回顔を合わせて行くうちに次第と打ち解けて、今ではまるでお友だちのように話すようになりました。
私は一介の侍女ですから、これ以上は望みません。
ですが、司祭様を思う気持ちは日に日に膨らんでいっておりました。
お名前をエリノアと教えてくださいまして、とても嬉しかったことを今でも覚えています。
先日、お嬢様の元に、いつもの三人が押し掛けてお嬢様をデートに誘っておられました。
その日は、街の祭りの日で教会に参拝することが通例でした。
お三方は、いつものようにお嬢様を奪い合い、お嬢様を困らせておりました。そこで私が、皆で一緒に行くように提案したところ、何故かお嬢様にドレスを着せられ、お供することになりました。
あくまでも私は侍女ですから、そのままでも良かったのですが、お嬢様の強いご希望で、僭越ながらドレスを貸して頂きました。自分でも鏡をみて似合わないことは承知しておりましたが、仕方なくその格好のまま出掛けました。
途中で、エヴァ様が流行らせた切子グラスなるものを売ってあるお店で、金色の切子グラスを見つけました。
手にとって眺めていると、最近でたばかりの新色だそうて、ふとエリノア様の瞳と重なってみえました。
お店の方に薦められましたが、自分のお小遣いなど持ち合わせておらずお断りしたのですが、お嬢様がそれをご所望され、購入なさいました。
エリノア様の瞳の色……。素敵でした。
そのあと、いつものガラス工房に向かうとお嬢様はガラスを薄く削ってもらい、あろうことかそれを目の中に入れてしまわれました。すると、お嬢様のエメラルドグリーンの瞳が片方、アイスブルーになられたのです。
とても驚いたのですが、一緒に来られていた王太子(お嬢様と婚約関係にあったが、勝手な都合で破棄したクセにお嬢様の元をほぼ毎日訪れ愛を囁いている、変た……もとい不思議な方)が、躊躇いもせずグリーンのガラスを目に入れて、お嬢様と同じ色だと喜ばれている姿を見たとき、私も金色を入れてみたいと思い、それがエリノア様の色だと気付いたときには、アレクシス様(お嬢様の幼なじみの兄で、近衛騎士団第二団の副団長を任されている、わりとまともそうな方)に悟られてしまい、クスクス笑われたのですが……。他には誰も気付いておられないようで安心いたしました。
その後教会へ行き、中でエリノア様とお会いしました。
「あ、アンナさんですか?見惚れましたよ。すごく素敵ですね」
と言われて、私が今、普段着ているお仕着せではなかったことを思いだし、急に恥ずかしくなってしまいました。
もしかしたら、勘のいいお嬢様には気付かれたかも知れませんね。
でも、私はただ見ているだけでいいのです。
こうしてエリノア様のお姿を、時折拝見できれば満足なのです。
ですから、想うことをお許しください。
と、人が物思いに耽っていると、変態王太子の護衛、ミゲルがお嬢様を嫁に欲しいと言い出したのです。
以前、女装してお嬢様にお仕えしていたミゲルは、その時からお嬢様に懸想していることを知ってはいましたが、極秘任務で変態王太子の命令で侍女になっていたので、手出しはしてないと思いますが、念のため確認です。
しかし、こうなるとお嬢様は一体どなたをお選びになるのでしょう?
一番盤石な地位なのはもちろん王太子。変態でなければなお良いのですが……。
次にガマダセル公爵家嫡男のアレクシス様。多分唯一まとも。
そしてその弟で、お嬢様の幼なじみのアルフレッド様。この方は以前、お嬢様に家紋の刺繍を頼んだ、ある意味強者。お嬢様は意味を知らずに刺繍をしておられたようで、それをスーザンに捨てられるというエピソードがありました。
この三名の方から夫となる方を選ばれるであろうと思っていたのですが、ここに来てミゲルという新たなライバルが現れ、てんやわんやです。
でも、面白そうなので暫く放っておくことにします。
生半可な気持ちでお嬢様に近づこうとすれば、私が全力で阻止いたしますので。




