38.
「お待たせいたしました。次の方、どうぞ」
司祭様に呼ばれ、礼拝堂の奥へと進む。
「おや、皆さんお揃いで、ようこそお越しくださいまし……?あ、アンナさんですか?見惚れましたよ。すごく素敵ですね」
司祭様がアンナを見つけ、感嘆の声をあげる。
言われたアンナは顔を真っ赤にして、『ありがとうございます』と小声で返事をしていた。
私がバザーに来る度に、司祭様とも良く話すのだけど、アンナの司祭様を見つめる瞳は、慈しみに溢れている。
もしかして、と思っていたけど間違いなさそうね。
司祭様の金色の瞳が優しく細められると、司祭様は祝詞をあげ始めた。
あれ?あの金色のグラス、司祭様の瞳を思っていたんじゃ……?私が勢いで買ったけど、何か悪いことしちゃったみたい。
司祭様のアンナを見る目も、かなり好意が窺えるようだけど。
やっぱり絵になる二人だわ……。
「エヴァ、何を余所見しているのですか?私というものがありながら……」
殿下の腕がスッと伸びてきて、私の腰に回される。そしてそのまま引き寄せられ、抵抗する間もなく耳元で囁かれる。
「ダメですよ、私以外見ないでください」
そしてそのまま耳をペロッと舐められる。
な、何やってるんですか殿下!こんなところで……。
思わず出そうになった声を必死に堪える。
その様子に気付いたのか
「ちょっとエヴァから離れてください。殿下」
反対側にいたアレクシス様が、殿下を睨む。
「俺の嫁なんで」
いや、アレクシス様、それは違いませんか?私、まだ誰とも結婚してませんよ?
「それは……」
クスッと笑い殿下が離れていったことに、少し戸惑いを覚えた。離れたくないって気持ちが、心の奥に見え隠れしていたから。
それなのに、アレクシス様の俺の嫁発言が、妙にくすぐったい。
「何してるの?二人とも……。」
すぐ後ろからアルフレッドの声がする。
さすがに礼拝中なので皆すぐに静かになったけど、アレクシス様は皆から見えない位置で、私の手に指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎってヤツで、礼拝が終わるまでその手を離してくれなかった。
以前、アルフレッドとアレクシス様に挟まれて馬車に乗った時も手を握られていたけど、その時よりも成長した剣ダコのできた手を何故か懐かしく思った。
ドキドキするというより、安心感。
近衛騎士団で、第二騎士団の副団長に先日昇格したのだと、嬉しそうに話してくれたときも、その笑顔を懐かしく感じた。
エヴァの幼い頃の記憶かとも思ったけど、何か違う。少しだけ違和感のある懐かしさ。その違和感の正体はわからないけど……。
礼拝が終わり、皆と帰路につく。
「今度は二人きりで出掛けたいですね」
と殿下が言うと、
「そうは俺がさせない」
とアレクシス様が言う。
「エヴァは僕のだから。二人には渡さないよ」
とアルフレッドが言う。
「エヴァ様、なんでしたら私の嫁になりませんか?」
と言われて、一斉に声の主を見ると、その主はミゲルだった。
「ミ、ミゲル、本気なの?」
「ええ、もちろん。その発想力もさることながら、優しい心を持ち、何にでも努力を怠らない姿はお側で拝見しているときから惹かれておりました。エヴァ様の涙を見たときは、もっと泣かせてみたい衝動に駆られましたけど」
晴天の霹靂とはこの事を言うのだったかしら?
まさかのミゲルの告白に、いち早く反応したのはアンナだった。
「ミゲル様、お嬢様をそのような目で見ておられたこと、薄々感じておりましたが……。まさかお付きになっている最中にお嬢様に手を出してはおられませんよね?」
ちょっとアンナ、気付いていたって……。それに手を出すって?
「それは誓って。当時は殿下の婚約者でおられましたし、殿下がエヴァ様を抱き締めてるところを見て、若干殺意沸いたくらいです」
「それならよろしいのです」
いや、よろしくないわ!何納得しちゃってるの!
「やっぱりミゲルをエヴァの側に置くべきではなかったな」
殿下は悔しそうにしており、残りの二人はポカーンとしている。
「皆がエヴァ様を取り合っている最中に、横から奪い取って見せますよ」
とミゲルはあっという間に私を抱きすくめ、頭にチュッとキスを落とした。
「ミゲル、クビにしますよ」
「そんなことしたら、エヴァ様を連れて国外に高飛びしますので、ご心配なく」
何がご心配なく、よ!それって国外追放じゃない。ミゲルってば何考えているの!?
「エヴァに触れるな」
アレクシス様がミゲルに掴みかからんとする。
「おや、第二騎士団副団長のあなたが私に勝てるとでも?」
「王太子の護衛ってだけでその力量はわかっているつもりだが、エヴァだけは譲れねえ」
「こんなところでケンカはお止めください!そして、ミゲルもいい加減、私を離してください」
ミゲルの言動に怒りを顕にしたアレクシス様。このままだと殴り合いのケンカに発展しそうな二人を一喝する。
そして、やっとのことで私は解放された。




