37.
変装した殿下と、ガマダセル公爵家の二人と、アンナと、街を見て歩く。祭りだけあっていつにも増して賑やかだ。
「あ、これ……」
アンナが出店の前で足を止めた。
「素敵ですね。お嬢様がこれを流行らせたんですよね。誇らしいです」
色とりどりの切子グラスから金色のグラスを手に取る。
「お客さん、目の付け所が違うね。その色は最近出たばかりの新色なんだ。どうだい?安くしとくよ」
店のおばさんが声をかける。
慌ててグラスを置き、
「ち、違うんです」
と首を振る。
「すごいだろ、このグラス。切子グラスっていうんだけど、発案したのが伯爵家のお嬢様ってンだから驚きだよ。お陰で街が潤っているのさ」
本人を前にしてるとは気づかないおばさんは景気よく喋る。
「あ、じゃあそのグラスください」
「まいどあり」
ちょっと照れくさくなって、アンナが見ていた金色のグラスを購入しその場を離れる。
「さっきのおばさんが言ってた伯爵家のお嬢様ってエヴァのことだよな」
アレクシス様が笑う。
「はい、そうです。恥ずかしながら……」
「エヴァ、すごいね!たった一つのことだけど、街がこんなにも活気があるのってすごいことなんだよ」
アルフレッドも褒めてくれる。
別に大したことをしたつもりではないのだけど、これで街が潤っているのは嬉しいことだわ。
「さすがは私のエヴァですね」
殿下が歩きながら、腰に手を回し引き寄せると、
「あ、ずるいぞ殿下」
アルフレッドにベリッと引き剥がされる。
こんな風に皆と街を歩くだなんて、想像もしてなかった。
それにしても、いつの間に殿下とアルフレッドたちは仲良くなったのかしら?
教会につくと、そこは人が多く、順番を待って参拝することになった。王太子様もいるのだけど、ここでは変装しているため、黙って順番を待つことにした。
奥の方で司祭様が祝詞をあげている。
入口に飾られているのは、あの薔薇の絵だった。
「これ、もしかしてあの天使の絵と対になってるの?」
「はい、よくお気づきになられましたね」
殿下の言葉にドキッとする。
パッと見ただけではその2つが対になっているなんて、中々気づかないと思うけど、殿下の観察眼に感心していると
「毎日、あの絵を見ているからね」
「殿下!やっと見つけましたよエヴァ様のお屋敷に行くと言って出ていったきり中々帰ってこられないので行ってみたら皆で出掛けたというではありませんか護衛もつけずにほっつき歩かないでください!」
どこで息継ぎをしてるのか、突っ込みたくなるくらい長いセリフをいい終え、ゼェゼエ息を切らしているのは、……男の姿のキャロル(?)だった。
「って、なんですかその目の色……」
遠目からでも変装した殿下を見破ったところはさすが護衛と言ったところかしら。
「ちょっと変装してみた。お前より上手いだろ。似合う?エヴァと同じ色にしたんだ」
にこにこと話す殿下に、護衛キャロルは深い溜め息をついた。
「キャロル、どうしたの?」
海溝よりも深そうな溜め息にちょっとだけ心配になって声をかけてみた。
「エヴァ様、私の名前はミゲルです。先日はろくなご挨拶もできずに失礼しました。アンナもご無沙汰しております」
「ええ、お久しぶりです」
アンナは動じずに応える。アンナは早い段階でキャロルの正体を見破っていたんだったわ。
護衛キャロルはミゲルって名前だったのね。
「ところで、その瞳の色は?」
私はミゲルにコンタクトレンズもどきの話をした。前世では医療機器扱いだったから、扱いには十分注意が必要なことも話した。
あれ?私、16歳で死んだはずなのに、なんでこんなに詳しいのかしら?目が悪かった記憶はないのだけど……。
「なるほど、さすがエヴァ様。切子グラスもそうですが、そんなことを思い付かれる発想力、嫁に欲しいですね」
いや、最後、何か不穏な言葉が聞こえたんだけど!?
「ミゲル、何か言葉を間違ってないか?」
早速殿下からチェックが入る。
「そうだろう?エヴァは俺の嫁に……」
「僕のお嫁に来てもらうんだ」
ガマダセル公爵家の二人も何か話が脱線してない?
皆が騒ぎ出したところで、
「あまり騒がれると殿下の正体がバレますよ」
アンナの鶴の一声に皆が一斉に沈黙した。
やっぱりアンナが一番強いかも……。




