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34.

 無事家に帰りついて一週間。特に何事もなく過ぎていき、誘拐事件も婚約破棄のことも思い出す時間が少なくなってきたこの頃。それは突然やってきた。

「お嬢様、ガマダセル公爵家のアルフレッド様がお会いしたいそうです」

「分かった。すぐに行くわ」

 アンナに来客を告げられ、客間へと向かう。そこには父との話が終わったであろうアルフレッドが待っていた。

「お待たせ致しました。アルフレッド様」

 カーテシーで挨拶をする。

「やあ、エヴァ。久しぶりだね」

 相変わらずの透き通った青い瞳が、細められる。

「ご無沙汰しております」

 愛想笑いで返事をし、お互いにソファーに座る。

 世間話を少ししたあと、アルフレッドが尋ねてきた。

「王太子と婚約解消したんだって?」

「そうなんです。実は……」

 黙っていても仕方ないことだし、婚約解消に至った経緯を話した。

「粗方聞いていた通りだね。で、エヴァ。今日は大事な話があって、先ほど伯爵にも話をしたんだけど……」

 そこまで言うと、アルフレッドは私の側まで来て改まった。

「僕と結婚を前提にお付き合いしてほしい」

 と告げ、私の手をとり、指先に唇を押し付けた。

「あの、アルフレッド様?ご冗談ですよね?」

「いいや、本気だよ」

 アルフレッドの真剣な目が私を見つめる。

 この目でおねだりされてはイヤとは言えない。思わず了承しそうになる。

 ……ん?おねだり?一体どこからそんな言葉が出てきたのかしら?

「エヴァ、話中に済まない。ガマダセル公爵のアレクシス君から手紙が届いて、エヴァと婚約したいと書いてあるんだが……?」

 そこにお父様がノックもせず入ってきて話が中断した。

「さっきアルフレッド君から婚約の話を聞いたんだけど、どういうことかい?」

「チッ、兄さんも本気出してきたんだ?」

 訳が分からない私たち親子に、アルフレッドが説明してくれた。

 王太子との婚約破棄したことを知って、アレクシス様とアルフレッドは私が『傷物令嬢』の称号で世間に広まる前に婚約することで、私や伯爵家が嘲笑されないように婚約したいと言ってきているとのことだった。

 それだったら、公爵家として縁談を持ち込めば良いのだけど、なぜ二人ともバラバラに婚約を申し込んだの?

「僕は個人的にエヴァを愛しています。兄もエヴァと結婚したいと言っております」

 いや、以前そんなこと言われていたけど……。

「それに、王太子と婚約破棄したらエヴァをお嫁に貰うって約束したしね」

 ああああ、そうだった!そんな会話したことあったわ。随分前で、その間いろいろありすぎて、そんなことすっかり忘れていたわ。

「あ、あの、アルフレッド様?その件につきましては、私、少しお時間を頂きたいのですわ。婚約解消したばかりで、気持ちが……」

「エヴァは殿下のことが好きなの?」 

「はっ!?」

 核心をついたアルフレッドの質問に、素頓狂な声をあげてしまった。

「エヴァ、落ち着きなさい」

 お父様に窘められてしまった。淑女としての振る舞いではなかったわ。

「伯爵、先ほど申し上げた通り、僕も兄もエヴァとの婚約は本気で考えています」

「分かった。その二人の気持ちにはこちらも真剣に考えて答えを出さないといけないな。しかし、今は娘の気持ちを尊重したいと思っている。少し時間をくれないか?」

 お父様……。ありがとうございます。

「ああ、それと頼んでおいた刺繍、出来た?」

「あの、それが……」

「アルフレッド君、刺繍とはまさか家紋では?」

 アルフレッドが頷くと、お父様の目が怒りに燃えているのが見てとれた。

 どうしたのかしら?

「アルフレッド君、その話、今度詳しく聞かせて貰うとして今日はもう帰ってくれないか?」

 お父様に気圧されてはいるものの、アルフレッドは私に笑顔で手を振り帰っていった。

 良かった。実は数日前から、その刺繍しかけていたハンカチーフを失くしてしまったのよね。探しているのだけど見つからなくて困っていて、お父様がアルフレッドを帰宅させたことでハンカチーフの話が有耶無耶になってホッとした。

「エヴァ、物事は意味も分からず安請け合いしてはならんぞ」

 お父様は何を当たり前なことを言うのかしら?

 不思議に思いながらも、自室に戻った。

 家紋の刺繍って何か意味があったの?

「ねえ、アンナ。以前ハンカチーフに家紋を刺繍すると喜ばれるって話聞いたけど、それって何か意味があるの?」

 ほんのり頬を染めるアンナ、表情の変わらないスーザン、顔を真っ赤にして手で覆うメリー。

 なにこの反応……。

「お嬢様、ご存知なかったんですか?家紋の刺繍は“あなたの家紋を覚えてしまうほどにあなたを愛しています”って意味があるんですよ」

「別の意味としては、『いつでもあなたのところにお嫁に行けます』とも言われています」

 メリーとスーザンが交互に説明してくれる。

 し、知らなかった……。ただ頼まれて刺繍していただけなのに……。

「そのようなものを、迂闊にお渡しすると大変な誤解を生みますからね」

 と言って、スーザンはガマダセル公爵家の家紋の刺繍をしかけていたハンカチーフを取り出し、

「これは没収です」

 と再び仕舞った。

 失くしたと思っていたけど、まさかスーザンが没収していたとは。見つからないはずだわ。

「私としましては、殿下とご結婚なさって頂きたく……」

「それってもしかしなくても殿下の命令よね?」

「左様でございます」

 殿下もそんなこと命令しなくても……。でも、この場合、私がもしアルフレッドにそのハンカチーフを渡していたら、アルフレッドと結婚しなきゃいけなかったのかしら?

だとしたら、ある意味助かったのかも……。

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