32.
「ただいま帰りました、お父様、お母様」
「お帰りなさい、エヴァ。よく帰ってきてくれた」
随分と久しぶりに感じる我が家で、両親と再会を喜ぶ。母の目にはうっすら涙が浮かんでいる。相当心配をかけたんだろう。
「心配かけてごめんなさい」
「いや、いいんだよ。殿下から話しは聞いていたからね。無事で何よりだ」
お父様はそういって私を抱き締めてくれた。
「アンナも心配していたよ」
お父様に言われ、親子の再会もそのままに部屋に急いで戻る。
「アンナ、ただいま」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ああ、アンナ。会いたかったよぉ……。
アンナにハグをし、心配かけたことを謝る。
「いいえお嬢様、私の落ち度でございます。処罰なら何なりと」
「いいの。私がちゃんとアンナの言うこと聞いていれば良かったのよ」
あの事件の前の日、アンナはすぐ夢中になって時間を忘れる私を何度も注意してくれていた。
寝不足になると判断力が鈍るからご注意ください、と耳にタコができるほどに。
特にあの二人がうちに来たときから、用心するように言われていたのに。
「アンナさん、ごめんなさい」
メリーが『今日から心を入れ替えてがんばります』と挨拶をして、私の日常は戻ってきた。
ただ、キャロル(?)の代わりにスーザンがついてくれることになった。
そりゃ、キャロル(?)男だもんね。
殿下が、私が代わりに侍女のフリをしたかったと大真面目な顔で言ったときは返す言葉も見つからなかったけど。
「と、いうわけだったの」
アンナに事件の顛末を話すと、
「それで、殿下とは何もございませんでしたか?」
と尋ねられた。
「婚約解消しました……」
黙っていても仕方ないので正直に話す。
「なんですってぇ!?」
「あ、アンナ?落ち着いて?」
アンナが通常ではあり得ないくらいの声を出す。断罪イベントが起きたと思ってるのかも。びっくりしながらも、アンナを落ち着かせようとする。
「殿下は、二年間をかけてエヴァ様を落とすと、仰いました」
スーザンが口を挟むとそちらに向き直り、
「詳しくお聞かせ願えますか?」
と、咳払いをしてアンナは姿勢を正す。
「殿下曰く、婚約者のままだとエヴァ様とお会いできないので、会ってスキンシップしたいがために婚約を解消なさいました」
ちょっと待て、その言い方だとかなり語弊あるわよ!?
「そうだったんですか、それなら納得しました」
ちょっと、それで納得って!
「ちょっと待って。あのね、アンナ。陛下に自分の婚約者は自分で見つけるよう言われたそうなの」
と訂正する。
「そうは仰いましても、実際、殿下のスキンシップは過剰でしたし、あながち間違ってはいないと思いますが?」
「いや、そう思うのなら止めて欲しかった」
「あの殿下を中途半端に止めたら後が怖いですもの」
スーザン、私付きの侍女になったのに殿下贔屓なのね。
「なるほど。先の婚約関係は王妃様がお決めになりましたものね。一度婚約解消して、ご自分の意思でエヴァ様と御婚約なさりたいと、そういうわけですね」
アンナは妙に納得している。スーザンも『そうです、その通りです』と言わんばかりに頷いている。
確かにそんなこと言われたような気もするけど、何か違う気がする。
私を差し置いて、アンナとスーザンは意気投合したようだった。
「「二年後が、楽しみですわね」」
二人の笑みに、背筋がゾクッとしたのは気のせいじゃないと思う。
メリーはガッツポーズで、私にエールを送っている。
ダメだ。周りから殿下との仲を固められてしまったみたい。




