3.アルフレッド視点
蜂蜜色に輝く髪に、エメラルドグリーンの瞳。若干つり目なところが、勝ち気な印象をより一層強くみせる女の子。パステルカラーのドレスがお気に入りで、淑女としてのダンスもマナーも完璧にこなそうと努力している、だけど刺繍だけは苦手な女の子。
気が強い言動のせいか、周りからは高飛車だとかワガママとかいろいろ言われているけど、本当の彼女を知っているのは僕だけでいい。
レイ伯爵家とは遠い親戚にあたる。三年前、両親とともにレイ伯爵邸を訪れたときに、その可憐さに一目惚れした。庭で転んだとき、真っ先に駆けつけて手を差しのべてくれた女の子。
「男たるものメソメソしないのですわ」
と、ハンカチを渡してくれたあの瞳が僕を捕らえて離さない。
エヴァ・ドゥ・レイ。それが彼女の名前だった。
昨日、王宮の庭で開かれた王妃様主催のお茶会で、ある令嬢が花を無断で手折った。もちろん、王宮の花を無断で手折ることはマナーとしてよろしくない。王妃様は子どものしたことだから、と責めたりすることはなかったけど、エヴァはそれとなくマナー違反であることを彼女に指摘した。それをその令嬢は恥をかかされたと思い込み、仕返しとしてエヴァの顔に紅茶をひっかけた。
そしてエヴァは意識を失ったのだ。
いつものエヴァなら、これくらいで気を失うなんてことはないはずだった。それだけに僕はエヴァが心配になったと同時に、その令嬢に強い憤りを覚えた。自分がマナー違反をしたことを棚に上げ、仕返しするなんて。
そしてエヴァが気がつくまで傍にいたいと申し出て、エヴァが運ばれた客間についていった。
エメラルドグリーンの瞳が閉じられたまま、規則正しい呼吸をするエヴァ。掛けられたシーツを少しだけ剥いで、そっと手を握る。暖かい。
握った手にそっと唇を寄せ、指先にキスを落とした。
エヴァ、何があっても僕は君を守るからね。
シーツを掛け直すと、やがてエヴァは目を覚ました。
「エヴァ、大丈夫か?」
「あれ、ここは……?」
グリーンの瞳が不安そうに揺れる。
「ここは王宮の客間だよ。エヴァ、どっか痛いところはない?」
何かを考え込んでいる。まだ具合が良くないのかな?
「エヴァ?……まだ気分が優れないみたいだね。王妃様には僕から伝えておくから一緒に帰ろう」
不安を取り除くように声をかけると、
「ありがとうございます。アルフレッド様」
と、まるで花が綻んだような笑顔をみせてくれたのだった。いつもは上から目線な物言いをするエヴァの殊勝っぷりに、僅かながらも驚いたけど。
その笑顔にもっと魅了された自覚はある。
他の誰にもその笑顔をみせたくないくらいには。
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