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29.

「ションナサル皇帝陛下、皇后陛下の犯した罪は重い。だが、そなたの国の皇后を私たちが裁く訳にはいかない。英断を」

 陛下が、ションナサル皇帝へ言葉を向ける。どちらの国も戦争は起こしたくない平和主義国だから、裁量を相手に任せるのだわ。

「妻の犯した罪は、他国の王族を貶めることに他ならない。本来なら死刑にも等しいその罪の裁量を我に与えて下さり感謝いたします。妻は自国で外出を禁止し、今後一切の公的行事への参加を禁止とします」

 皇帝陛下は席を立ち、陛下に向かって一礼する。

 皇族が公的行事に参加できず、外出禁止ってこれは、事実上の幽閉だわ。

 陛下は無言で頷き返した。これで国際問題に発展せずに済みそうだわ。

「バッテンガー侯爵、宰相としての最後の仕事だ。お前も知っていると思うが、ノーサル共和国の国王からの縁談が来ておるのだが、何か良い案はないか?」

 陛下の言葉に、今度は侯爵が青褪める。

 ノーサル共和国の国王って正妻の他にも側室の数が両手では収まらないほどいる、精力旺盛な禿げ狸みたいな王様だと聞いたことがある。妻にしたが最後、王宮からは一歩も出られないほど傲慢で、独占欲の強い方だとも。

「どうしても我が国から娶りたいと言ってきていたのだが、誰か適任者はいないか?」

 陛下の言葉に侯爵か震えながら答える。

「……。それなら、我が娘のマリアが適任かと……」

「いやよ、お父様そんな……」

 マリアも禿げ狸、いや、ノーサル共和国の国王の話は知っているのだろう。必死に首を振り拒否する。

「例え娘にだろうと、王族の予定を漏らすとは軽率だったな」

「マリア、私やお前が犯した罪を考えると、これでも情状酌量して下さったんだ。甘んじて受け入れてくれ」

 侯爵に諭され、マリアは泣き崩れる。

「それとマリア、その色は今後一切身に付けないでくれ」

 追い討ちをかけるように殿下が指した色は、紫色……。

「その色が、似合うのはエヴァだけだ」

 思わぬところで自分の名前が出てきてハッとする。

 マリアが着ているドレスは毒々しいほど紫色を強調したドレス。

 私が今着ているドレスにも菫の花の紫色がついている。

 これって、殿下の瞳の色……?王族の者だけに受け継がれるヴァイオレットパープル。その色が私に似合うと言われ、何だかむず痒くなってくる。

 泣きじゃくるマリアを衛兵が連れていき、侯爵もそれに続いた。ションナサル皇帝陛下は呆然としている皇后陛下を促し、陛下に一礼して退室した。

 残ったのはメリーと、囚人服を着た男だ。

「メリー、君はマリアに、エヴァの誘拐に協力しないと妹の治療費を払わないと脅されていたね?」

 メリーは、殿下の問いかけに小さく頷く。

「君が働かないと、妹の治療費か払えない。だからメリーには今後伯爵家でエヴァ付きの侍女として働くことを命ずる。君の犯した罪が許されるまで、エヴァに仕えてくれ。もし、次にエヴァを裏切ることがあれば、そのときは分かっているな?」

 殿下の言葉にメリーの目が潤む。

「……はい、ありがとう……ございます」

 メリーが下を向き、ポタポタと落ちる涙を手で拭う。

「それから、エヴァを拐った男だけど」

 殿下がギロリと男を睨む。

「エヴァを襲っているお前を見たときは、侍従に殺してはならないと言われていなかったら殺していただろう。連れて帰ったときのエヴァの姿を見て、あのとき殺しておけばよかったと思ったが……」

 殿下、何か黒いものが渦巻いているのが見えるのですが……。

「メリーのために金が必要だったんだろう?」

「レイモン、あなた……!」

 レイモンと呼ばれた男は悔しそうに唇噛む。

「そうだよ、お前の笑顔が見たくて、お金が入るならと、仕事を引き受けた。いつも妹の治療費を稼がないと、と言って無理やり笑っていたお前を、本当の笑顔にしたかったんだ」

 俯いた男にメリーは「あなたってバカよ」と小声で罵った。

 レイモンとメリーは同郷の幼なじみで、メリーの妹が重い病に侵されおり、治療のためのお金が必要だったと話してくれた。多分、レイモンはメリーのことが好きだったんだと思う。だからマリアの甘い言葉に騙されて……。

「例え理由があるにしろ、人を害することは許されることではない。私の元で一から鍛え直してやる。覚悟しておけ」

 殿下の言葉で、レイモンは騎士の訓練施設に入ることが決まった。

 私にとって誘拐はすぐに許せることではないけど、二人の事情を汲んだ殿下の裁決はきっと良い方向に向かうのだろう。

「私の妻だって紫色が一番似合う」

 と陛下が惚気たことはこの際聞かなかったことにしておこう。

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