26.
「三年前、私は母上と共に教会で行われるバザーを視察に行ったんだ」
それって、あの時の……?マリアとの初イベントの時だわ。
「私はそこで、一人の女の子に恋をしてしまったんだ」
その女の子がマリア……なのよね。
「その時も、その女の子は物陰に隠れていてね」
ん?マリアは殿下に話しかけていたはず。淑女の礼もしてなかったことに失礼な子だわって思ったから覚えてる。
「物陰に隠れてなんかいなかったはずです。積極的に殿下に話しかけていたと思うのですが」
「エヴァは一体誰の話をしてるんだ?その女の子は確かに物陰に隠れていた。まるで私に会わないとするかのように」
何か引っかかってるような気がする。
「殿下こそ誰の話をしてるんですか?」
「私が恋した女の子の話だよ。その女の子は、蜂蜜色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしていてね。隠れてるつもりなんだろうけど、私からは丸見えで」
ちょっと待って、それってマリアのことじゃなくない?
マリアの容姿と全く違うわよ、それ。
「母上が何か合図を送っていたんだけど、何の合図だったの?エヴァ」
「へっ?」
間抜けな声が出た。間抜けすぎだ、もっとまともな返事はできないのか私。その女の子ってもしかして……私?
「エヴァ、あの時の女の子が君だったと分かったとき、私は天にも昇る心地だったよ。だって初恋の女の子がすでに婚約者だったんだから」
殿下の天使の微笑みは破壊力抜群だった。殿下の初恋が私だったなんて嘘みたい。
「殿下の……初恋……?」
「そうだよ、エヴァ。だから、父上に自分の伴侶を自分で見つけないうちは、なんてことを言われてすごく悩んだんだ。婚約者は母上が選んだ人だったから」
「え、でも、マリア様は……?」
「なぜ、ここでその女の話がでてくるの?」
「あの時、マリア様に声をかけられて嬉しかったんじゃないんですか?」
「そうだね。でもそれだけだ。彼女が王妃の座を狙っているのは最初から見え見えだったし」
なんだかゲーム展開とは随分違うな。あの時、殿下はマリアに好意を持つはず。王妃の座を狙うとかそんな設定はなかったような。でも、ヒロインが王子を選んだ時点でハッピーエンドは将来は王妃になるから、そういうことになるのかな?
「それから、エヴァのことを何でも知りたいと思っていたよ。何が好きなのか、普段何をして過ごしているのか……」
そう言って殿下はいきなり腕の中に私を閉じ込めた。
「こうやって閉じ込めて誰にも見せたくないなんて思ってたし、今でも思ってる」
えーと、どう対応したらいいかわからないんですが……。
突然の告白に私はオロオロするばかりだった。
「じゃあ、マリア様に私たちが婚約解消したことを告げたのは何故ですか?」
「ああ、あれはね、自白の誘導さ。あの女、まんまとひっかかったよ」
自白の誘導……?なんか……。殿下が腹黒く見えるのですが……?
「そうだったんですね、私、殿下がマリア様を正妻にしようとしてると思ってました」
「やめてくれ、冗談じゃない」
その言葉で、ホッとしている自分がいる。
「だって私より格式が上で、血筋も優れていて、私なんかよりよっぽど……」
つい、ポロリと零れた本音。こんなことを殿下に言うつもりはなかったのに。
「それは、妬いてくれてるの?」
ん?と覗きこまれた瞳に心臓が早鐘を打つ。腕の中に閉じ込められているため、今にも唇が触れそうだ。
「エヴァ、大好き」
チュッと額に口付けられ、殿下の腕に力が籠るのが分かる。私の心臓も持ちそうにない……。
「あー、早く私のものにしたいな」
私の心はすでに殿下に奪われてます、なんてここで言ったら大変なことになりそうだわ。
ドキドキしっぱなしで、ツラいので気を逸らそうと視線を泳がせると、スーザンと目が合ってしまった。
「殿下、もうそのくらいになさいませ」
スーザンの助け船に、ようやく殿下は離れてくれた。




