24.
暇だわ。王宮にいるけど、私がここにいることは秘密だとの理由で、一歩も外に出られない。私がここにいることは、クリストファー殿下と、私につけられた侍女のスーザン、そして私を助けてくれた時に殿下と会話を
していた護衛の者だけとなっている。
国王陛下や王妃様までにも秘密にしてあるという徹底ぶりだ。
家にいるときは、王妃教育に刺繍やレース編み、キーホルダー作りなどすることはたくさんあったのだけど、今は手元に何もない。
本が何冊か書棚にあるけど、難しすぎて読む気になれない。
今日で三日目、ホントに暇すぎて死にそうだわ。
「暇ね」
そばに仕えてくれているスーザンにポツリと呟く。
「今しばらく、ご辛抱なさってくださいませ」
スーザンも困り顔で返答する。
「そうだ、ねぇちょっと………………」
「エヴァ様、私が殿下に怒られてしまいます!」
「黙っていればバレないわ。1時間だけ。ね、お願い」
必死にスーザンに頼み込んで三十分後、私はスーザンとお揃いのお仕着せを着て中庭へとやって来た。
髪を三つ編みにし、頭の下の方でお団子を作る。完璧な変装ね。
「こんなこと、バレたら私が首になります~」
「バレなきゃいいのよ」
外の空気も吸いたいし、すぐに部屋に帰るとの約束でスーザンに中庭を案内してもらっていた。
私がここにいることをバレないように、スーザンには普通に同僚と話すようにしてもらい、後をついてきただけなんだけど。
それにしても綺麗な庭だわ。四季咲きの薔薇や百合といった花が咲き誇っている。
三年前のお茶会のとき、この中庭であの事件があったのよね。
しみじみと昔を懐かしんでいると、人の話し声が聞こえてきた。
咄嗟にスーザンと植え込みの陰に身を隠し、バレないように息を潜める。
「ですから、クリストファー殿下にはバッテンガー侯爵家のマリアを娶っていただきたいのですわ。それも側室などではなく正室としてね」
「そうは申しましても婚約者であるエヴァがまだ……」
「殿下よりその幼なじみを取ったのではなくて?未だに殿下に会おうともなさらない方なんて、殿下には不釣り合いだと申しておりますの」
「ですが……」
「本人がいなくとも、さっさと婚約破棄をすればよろしいんじゃございませんこと?」
(帰れるわけないわ。他の男に傷物にされて……逃げたに違いないわ)
ストロベリーブロンドの後ろ姿しか見えないけど、あれは確か、隣国のションナサル皇后陛下だわ。なぜここに?それにこの声、あの倉庫で聞いた声にそっくりだわ。
そしてその会話の相手はプラチナブロンドが眩しいクリストファー殿下……。
「この婚約を解消するには本人の承諾がないとできないことになっていまして……」
えー?私、この前婚約破棄したわよね……。どうなってるの?
「では、婚約者がいなくなった場合はどうなさるんですの?」
「……そんなこと、あなたに話す必要を感じません」
殿下の声に怒気が混ざるのを感じる。
「ふん、そんなこと言っていられるのも今のうちよ」
聞き取るのがやっとな程の小さな声。それでも殿下にはしっかり聞き取れたようだった。
「それは、どういうことですか?」
「いいえ、こちらの話ですわ。お気になさらないでくださいな」
そう言ってションナサル皇后陛下は去っていった。
もしかして、私の誘拐事件に隣国の皇族が関わっているの……?
「あ、クリス様。ごきげんよう」
ションナサル皇后陛下が去ってすぐ、今度は若い女性が現れた。あのピンクの髪は……マリアだわ。皇后陛下といいあの子といい、なぜ王宮にいるの?
「クリス様、伯母様を見ませんでしたか?」
「ああ、それなら先ほどあちらに行かれたようだよ」
「そうでしたか?ありがとうございます」
思い出した。ションナサル皇后陛下の妹はバッテンガー侯爵夫人だった。だから、マリアにとっては伯母にあたるのね。それで謁見のために王宮に来てるのね。
「ねぇクリス様、私、ずっとクリス様をお慕いしておりますの」
おおっと、ここでいきなり愛の告白~?さすが王子、モテるわね。チラッと覗き見るとマリアは殿下の腕に絡み付いている。
やだ、何だろう……。胸がチクチクする。やめて、殿下に触らないで。
何、この感情……。
「それは知っている。これは秘密にしておいて欲しいんだけど……、実はエヴァとは婚約解消したんだ」
「それは……そうだったのですね」
「これがどういうことか分かる?」
殿下には見えていないマリアの表情は、今にも踊り出さんばかりの笑顔だ。
殿下……、どういうつもりなの?
慕っている人に婚約者がいて、でもその婚約が解消されたって知ったら……。
私はこれ以上、ここに居たくなくてコッソリ植え込みから離れた。殿下から姿が見えないところまで来ると、私に充てられた部屋まで走り出す。
スーザンも私についてきてくれた。部屋に入り、呼吸を整える。
行かなきゃ良かった。大人しく部屋に籠っていれば、あのような場面見なくてすんだのに。
「でも、エヴァは今は……」
「クリス様、私が慰めて差し上げますわ。エヴァ様もそのうちお帰りになられますわ」
「やっと本音を言ってくれたね」
「え?」
「明日、また来てくれ。大事な話がある」
「はい!」
中庭でこのような会話が続いていたことなど、私には知るよしもなかった。




