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22.

 "にゃ―にゃ―にゃ―にゃ―"

どこかで、猫の鳴き声がする。高校の帰り道、耳が捉えた小さなSOS。辺りを見回すが、猫の姿は見えない。川のせせらぎがこのときばかりは煩くきこえる。

 その川を流れる一つの段ボール箱。その箱が、川の中洲に引っ掛かり止まった。その箱からキョロキョロしながら白い仔猫が顔を出した。そしてもう一匹の黒い仔猫。

 白と黒の二匹は、心細そうに鳴き声をあげる。


 箱が中洲に引っ掛かってくれてラッキーだわ。でも、一体誰がこんな残酷なことを……。すぐ助けにいくからね!

 私は靴や制服が濡れるのも省みず川へと飛び込んだ。

 泳ぎには自信があったけど、それは学校のプールなどの流れがない場所での話。川の流れは思ったより早く、なかなか前に進まない。

「あと少し……。わっ!?」

 中洲にもう少しで着くと言うときに急に流れが早くなった。

"ヤバッ”と思う暇もなく流れに飲み込まれ、私は多分、死んだのだと思う。

 あの時の二匹の仔猫たちはあれからどうなったのだろう?助けてあげられなくてごめんね。






「エヴァ様、朝でございます。失礼します」

 ノックの音と侍女の声がする。

 あれ、夢か……。

 カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込んでいる。

「おはようございます。エヴァ様。ただいまより、朝のお支度をさせていただきます」

 侍女はテキパキと朝の支度を整えていく。冷たい水で顔を洗い、パステルカラーのワンピースに着替えさせられ、鏡台の前に座らせられる。

薄く白粉をはたかれ、紅を引く。

「お髪はどのように整えましょうか?」

 侍女からの問いに

「お任せします」

 と答えると、ハーフアップに紫色のリボンを結われた。

 さすが、王宮勤めの侍女だわ。あっという間に支度が終わる。

 まあ、うちのアンナも負けてないけどね。

 アンナは今頃どうしているかしら?殿下は家には伝えてあるから心配しなくていいと仰ったけど……。

 支度が終わるとモーニングティーが運ばれてきた。

「ダージリンでございます」

 カップに紅茶を注がれると、爽やかな香りが漂う。

「ありがとう」

 ダージリンのキリッとした渋みが目を醒まさせてくれるのにちょうどいい。

「美味しい」

「ありがとうございます」

 美味しい紅茶に自然と顔が綻ぶ。

 紅茶を楽しんでいると、殿下が現れた。

「エヴァ、おはよう。良く眠れた?」

「はい、おかげさまで」

「それは良かった。じゃあ、早速だけど話をしても構わないかな?」

「はい」

 そうだった、私、昨日婚約破棄されたんだった。

 二年間という謎の期限つきで。

「まずは、昨日エヴァを誘拐した犯人についてだけど、大体のところは分かっているんだ。ただ、証拠がまだ足りなくてね。表向き、エヴァは病で臥せっていることにしてある。伯爵家でも、夫妻とエヴァの侍女だけしか知らない」

 そうなんだ、私がここにいることを両親やアンナたちは知っているのね。

「それから、私たちが婚約を解消することを知っているのも、その者たちだけなんだ。エヴァが行方不明になったときに、私たちとの婚約を解消するよう、脅迫状が届いた」

 そんなことがあっていたのね……。

 驚きすぎて声もでない。

「だから婚約を解消したら、エヴァが()()に戻ってくる筈だった。だけど、犯人はエヴァを傷物にしようとした」

 なんとなく、あの暗闇の中で聞いた殿下の言葉を思い出した。

 婚約を解消すれば、私は無事に帰れる筈だった。

「だから婚約破棄なんですね?」

 と確認する。

「ああ、そうだ。私がエヴァの部屋に入ったとき、君はクローゼットの中にいた。聞こえているかどうか分からなかったが、婚約破棄するのはエヴァのためだ」

 あのとき、私はクローゼットの中にいたのね。通りで身動き取れないはずだわ。でも、何でそこで助けてくれなかったのかしら?

 殿下を訝しげに見ると私の言いたいことが分かったようだった。

「あのとき、エヴァを誘拐した仲間がそこにいたんだ。エヴァの周りの不穏分子がね。誰か不審な人物に心当たりはないか?」

 問われて“ハッ”と思い出す。早朝に私の部屋にやって来た侍女……。

「メリー……」

「ご名答。メリーは君に睡眠薬のようなものを使って眠らせた。君を外に運び出すのは、女一人の腕力じゃかなわないから君を引きずってクローゼットに押し込めたんだと思う。クローゼットの扉の前にこれが落ちていた」

 そう言って殿下が取り出したのは小さなガラスビーズだった。工房のおじさんが、やっと出来たと言っていたそれは、私以外に持っている人がいない。

「でも、良くそれが私の物だとお気付きになられましたね」

「君の家に行く前に工房に聞き込みにいったんだ。そこでこのビーズを見せてもらった。企業秘密とか言っていたんだけど火急を要することだったからね」

 そうだったんだ。

 だから私がそこにいるってわかったのね。


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