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21.

「エヴァ様、失礼致します」

 侍女に連れられ、部屋続き浴室へと入る。破れた服を脱がされ、髪や身体を洗われ、薔薇の花びらが浮かべられた浴槽に入れられる。

 少し温まったところで、私は何をされているんだろう?と気付く。家に帰らないと、両親やアンナたちが心配するわ。

 浴槽からでると、今度は香油を塗られる。

「エヴァ様はお肌が柔らかくて、磨き甲斐がありますわ」

 ニコニコしながら私を磨く侍女に聞いてみる。

「あの、何故こんなことに?」

「それは殿下より直接お聞きになってください」

 笑顔を崩さないままで答えられ、どうしたものかと思案する。うちで着ているものより上質なシルクでできたナイトドレスを着せられ、ガウンをかけられる。

 すると、タイミングを見計らったかのようにノックの音がした。

「エヴァ、少しだけいいか?」

 先ほど出ていった殿下の声。

 侍女に視線を向けると、『お任せください』と言わんばかりにドアを開け、殿下を招き入れた。

「では、私はお茶を用意して参ります」

「いや、大丈夫だ。しばらく二人きりにして欲しい」

「畏まりました」

 侍女が殿下と短い会話をしたあと部屋を出ていく。

 二人きりになった部屋で殿下と向かい合わせにソファーに座る。気まずくて下を向いていると、

「エヴァ、君には今日からしばらくの間ここで生活をしてもらう」

 突然の言葉に耳を疑う。

「……。それは理由をお伺いしてもよろしいですか?」

「君を誘拐した犯人を捕まえるため、というのが表向きの理由」

 そういえば、今日(?)一日いろいろとあったわ。

 薬で眠らされ、少しだけ意識を取り戻したときに聞いたのは夢だったのか?殿下との婚約を解消しなければ、私は無事に帰らない。そんな話だった。

 それから荷物のように扱われて、男に襲われたんだ。幸いと言うべきか、服を破られただけで済んだけど……。

 やだ、思い出したらまた震えが……。

「エヴァ?ごめんね、ここで生活するの、嫌かもしれないけど、犯人が捕まるまで協力して?」

 首を振り違うんだと、主張する。

 私が震えていることに気づいた殿下は、私の隣に移動してきて、私を腕の中に閉じ込めてしまった。

 殿下の温もりに包まれる。あの男から助けてくれたときに抱き締められ、震えが治まっていったあの時のように、やっぱり落ち着くわ……。

「あの、……殿下?」

「エヴァ、怖い思いをした後でこんなことを言うのは凄く酷かもしれない」

 殿下の言葉に、婚約破棄の文字が過った。ああ、とうとう婚約を破棄することを告げられるんだわ。断罪イベントまでまだ時間があったはずなのに……。




「婚約を破棄して欲しい、二年間だけ」

 やっぱりね。いつかは言われると思っていたけど、面と向かって言われるとかなりへこむ。でも、それが殿下の決めたことなら、仕方ないわね。殿下に抱き締められたままという、不可解な状況だけど。

 ちゃんと言わなきゃ。

「その婚約破棄、謹んでお受けします…………ん?二年間?」

「そうだよ、二年間。それだけあれば十分」

 ふと顔を上げるとアメジストの瞳が、嬉しそうにこちらを見ている。

 何でそんな嬉しそうなの?私は殿下の気持ちに気づいたとたん失恋したのに。

 抑えきれない感情が渦巻く。

 殿下の手が頬に添えられ、指が優しく目元を拭う。

 その行為で、私は泣いていたんだと気付く。

「エヴァ、ごめんね。明日ちゃんと理由を話すから聞いて?」

 私は黙って頷いた。

「今夜はこのまま、ここで休んで。何かあったらそこのベルを鳴らすいい。それと伯爵家には事情を説明してあるから心配しなくていい」

 殿下はそう言うと私の額にキスを落とした。

「おやすみ」

 そう言い残して殿下は出ていった。

 そのあとすぐに先ほどの侍女が来て、ホットミルクを差し出してくれた。

 蜂蜜をたっぷり入れたホットミルク。

 気持ちが不安定なとき、いつもアンナが察してくれて作ってくれたホットミルク。

 一口啜ると、アンナの作るホットミルクと同じ味がした。

「不思議ね、同じ味がする……」

 そう呟くと、侍女は黙って微笑み、一礼した。

 侍女が退室し、何もすることがなくなった私はベッドに腰かけ、一人考えを巡らせる。

 殿下が、期限付きの婚約破棄を申し出たこと。その二年間、一体どうするというのか?

 ベッド横になり身体を伸ばす。一日中、拘束されていてあちこちがギシギシする。

 ふかふかのベッドで、悩んでも考えても出てこない回答を待っているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

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