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16.

「おばあ様、お久しぶりでございます」

 久しぶりに会う祖母にカーテシーで挨拶する。

「今日は来てくれてありがとう。ガマダセルの坊や達もようこそ。エヴァもお淑やかになったもんだね」

 おばあ様は、みんなを笑顔で迎え入れてくれた。

「さあさ、とっておきのお茶を用意したんだ。楽しんでおくれ」

 客間に案内されると、とてもいい香りのする紅茶を出してくれた。

 お茶菓子も、バターの芳醇な香りが鼻を擽る。

「ところでエヴァ、あなた、王太子殿下の婚約者になって、まだ一度もお会いしたことがないんだってね?」

「はい、そうなんです」

「それはまたどうしてだい?妃教育なんて、お前には簡単なもんじゃないか」

 うっ、おばあ様……。お見通しなのね。

「完璧に何でもこなそうとするエヴァの性格は知ってるからね。でも、本来なら殿下と親交を深めていった方が、後々良かったんじゃないか、と思ってね、今日は呼んだんだ」

「お心遣いありがとうございます」

 愛想笑いで誤魔化す。

 でも、それだったら何故アレクシス様とアルフレッドまで呼んだの?

「それで、もしもお前がその婚約が本当に嫌だった場合、ガマダセルの坊やたちに協力して貰おうと思ってね」

「一体何を……?」

「婚約者略奪」

 おばあ様、それ不敬ですから!!

「申し訳ありません、おばあ様。それ本気ですか?」

「本気も本気さ。愛のない結婚をして殿下が側室を娶った場合、お前、耐えられるかい?」

 おばあ様の言葉は、冷水を浴びせられたようだった。

 考えてもみなかった。殿下が側室を娶るなど……。

 今の陛下には側室はおられない。だけど、先代の王様には確か側室がおられた。すっかりその可能性も忘れていた。断罪イベントが起きて国外追放される可能性は高いけど、もしもイベントが起きなかったら?殿下との愛がない私より、側室に先に王子が生まれたら?政権を巡って争いの火種となることは明白だった。

「いいかい、エヴァ。よく考えるんだよ。貴族社会において、好きだの嫌いだの言ってられないのは事実だよ。それでも、エヴァには幸せになってほしいんだ」

 側室など耐えられないかも知れない。そんな不安が胸をよぎった。

「で、ガマダセルの坊やたちは?エヴァのことをどう思っているんだい?」

「僕はエヴァのことを愛していますよ。殿下の婚約者でなければ結婚を申し込みたいくらいに」

「俺もです。小さい頃からずっと……」

 馬車の中で二人が言っていたことは、冗談じゃなかったの?

「だそうだよ、エヴァを小さい頃からお嫁さんにしたいといっていた二人ならエヴァを幸せにしてくれるんじゃないかと思っていたんだけど、エヴァはどうしたい?」







 考える時間が欲しいと告げ、近くの森を抜けた湖をそぞろ歩く。

 湖面がキラキラと光を反射して、そこだけ別世界のよう。

 "パキッ”

 小枝を踏む音が聞こえた気がした。耳を澄まして辺りを見回すけど、だれもいない。気のせいだったのかしら?

 今はアンナもアルフレッド達もいない。

 湖を眺めながら過去に思いを馳せる。

 小さい頃、アルフレッドと一緒に遊んだっけ。アレクシス様はあそこの大木の根元で本を読まれていて……。幸せだったわ。大好きな人たちに囲まれて。いつも私を見守っていてくれた……。懐かしい……、これはエヴァの記憶ね。

 エヴァはこの二人のどちらかを好きだったんだろうか?

 時々交錯するエヴァとめぐみの記憶。めぐみはゲームの攻略対象としては、みんな好きだった。

 今のヒロインは私ではなく、バッテンガー侯爵家のマリア。私はライバルの悪役令嬢。

 その事実から目を背けては何も打開しない。

 どうすることが最善なのか。

 ここはゲームの世界ではなく、現実なのだから。

 ……そして、私は答えを出した。





「結局、僕たちは当て馬にされただけだったね」

「ま、それも分かっていたことだけどね」

 帰りの馬車の中で、二人が残念そうに呟く。

 私の出した答えは、最後までエヴァらしくあること。一度決めたことを途中で投げ出すのは、性分じゃない。殿下の婚約者となったからには最後までその役目を全うする。

 それには、殿下とお会いして少しでも仲良くなれるよう努力する。今まで、断罪されたあとのことばかりを考えて、断罪されないように努力してこなかった。

 私に覚悟が足りない。とおばあ様は言いたかったんだわ。

「エヴァ、婚約破棄されたらいつでも戻っておいで」

「待ってるよ」

 ふふ、この二人はブレないなぁ。二人の優しさがありがたかった。


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