15.
家の前には公爵家の大きな馬車が来ていた。そして何故か我が伯爵家の馬車は用意されていない。不審に思っていると、扉が開いてアルフレッドが馬車から出てきた。
「エヴァ、今日はおばあ様のところに行くんだろ?僕も呼ばれているから一緒に行こう」
「いくら親戚とはいえ、男性と同じ馬車に乗るのは……。殿下の婚約者という立場でありますし、あらぬ誤解を受けることは避けたいと思いますし、帰りに少し寄り道をしたいと思っておりまして」
「そう言うと思ったけどね。今日は兄も一緒だし、アンナも連れていくんだろ?二人きりじゃないから大丈夫だよ。帰りもその場所まで付き合うよ」
と手を差し出された。
馬車の中にはもう一人、アルフレッドのお兄様のアレクシス様が乗っていた。
アルフレッドと同じサファイアブルーの瞳、アルフレッドよりやや明るいコバルトブルーの髪を短く揃えた、三歳年上のアレクシス様はこちらを見てニコッと笑った。
「やあ、久しぶりだね、エヴァ。小さい頃は可愛かったけど、最近では一段と綺麗になったんじゃないか?」
「お褒めいただきありがとうございます、アレクシス様」
ドレスの裾をつまみ、腰を落として挨拶する。
その様子を、興味深そうにアレクシス様が見ている。
いや、そんなに面白くもないので見ないで頂きたい。
「へえ、噂で聞いた通りだね」
どんな噂か気になるところではあるが、あまり時間を取っては、向こうに着くのが遅くなってしまう。
それに、うちの馬車は用意されていないみたいだし……。
アンナとアイコンタクトをとり、
「では、よろしくお願い致します」
と、返事をするとアルフレッドにエスコートされ、馬車に乗り込んだ。
馬車はうちの物より上質なベルベットが座面に使われており、乗り心地は最高に良い。おばあ様のお家が郊外にあることを鑑みれば、こちらの馬車の方が断然いい。
「で、何故アレクシス様とアルフレッド様が私の隣なのですか?」
六人乗りの広い室内だか、何故か公爵家の兄弟に挟まれる形で座っている。
「ちょっと、アンナ、場所代わりませんこと?」
「恐れ多いことでございます」
さっきから幾度と繰り返されている会話。
アルフレッドもアレクシス様も私が気まずい思いをしているのを分かっていながら、私の手をがっちり繋いで離してくれない。
アンナは公爵家の者と席を同じくしていることに恐縮している風を装っている。あれ、絶対内心じゃ笑ってるわよね。
「ねえ、エヴァ?最近会えなくて、僕、寂しいんだよ?」
アルフレッドが言うと、
「ホントに綺麗になっちゃって、俺のところにお嫁に来ない?」
とアレクシス様が宣う。
「あの、私、一応王太子殿下の婚約者なんですけど……」
と私が言うと、
「でも、殿下とはまだ一度もお会いしたことはないんだよね?」
「そんな愛のないまま結婚なんかしたら、エヴァが不幸になるよ」
「婚約破棄されたら僕がお嫁に貰うんだからね」
「何それ、アルフだけズルいぞ。エヴァ、公爵家嫡男の嫁って手もあるぞ」
と二人は言いたい放題。
終いには
「エヴァ、王太子殿下より幸せにしてあげるから、エヴァの方から婚約破棄しちゃえば?」
と言い出す始末。
「だって。小さい頃からエヴァをお嫁さんにするのが僕の夢だったのに、簡単に王太子の婚約者になっちゃうから……。手の届かないところに行っちゃうのが寂しくて……」
「俺だって、エヴァのことずっと見てきたんだ。アルフと結婚するなら離れることはないからって、可愛い弟のために諦めようかとも思ったんだけどね。相手が王太子なら、エヴァを渡したくないよ」
王太子殿下の婚約者になって三年、今までだってそんな素振り見せたことなかったのにどうしちゃったの?二人とも。
もう、何コレ?何の罰ゲームなの?イケメン二人に挟まれて。誰か私をここから助けて!
心の声は誰にも聞かれることがないまま、馬車に揺られ続けた。
揺られること約二時間。やっとおばあ様の住む屋敷が見えてきた。公爵家の兄弟は相変わらず私の両隣にいたから、馬車を降りる頃には体のあちこちが軋んでいる気がした。




