14.
「お嬢様、朝でございます。お支度を始めてもよろしいでしょうか?」
翌朝、アンナはいつもより早い時間にドアをノックした。
「ええ、入ってちょうだい」
アンナを迎え入れるとスッと濡れたタオルを差し出した。
「冷たいタオルでございます。冷やすと少しは腫れも良くなるかと思います」
「ありがとう」
タオルを受け取り、瞼にのせる。ほどよく冷たいタオルが心地よい。
しばらくすると、瞼の腫れも随分とよくなった。昨日、泣いていたことはアンナしか知らない。メリーとキャロルには、心配かけるわけにはいかないから。
「お嬢様、本日の予定ですが、旦那様の母君に招かれております。午前中に向かいますので、家庭教師はお休みです」
メリーが今日の予定を告げる。
「こちらがオーダー表です」
キャロルがオーダー表を渡してくれる。
二人が来てから毎日変わらない日課。
当たり前の1日が今日も始まる。メリーがお茶を淹れるため退室する。
続いてキャロルも朝食を準備するため退室しようとした時だった。キャロルのお仕着せのポケットから白い紙がヒラリと落ちた。
「キャロル、何か落としたわよ」
私が拾おうとすると、物凄い勢いでそれを掠め取った。
「すみません、お嬢様。侍女が落としたものなど拾おうとされないでください」
「あ、ええ。分かったわ」
キャロルはそれを隠すかのようにポケットに仕舞いこんだ。侍女の落としたものをわざわざ主人が拾うなってことだろうけど、それにしても随分と慌てていた。
そして……。キャロルが落とした白い紙が封筒であり、それが先日、クリストファー殿下に宛てた手紙であることに……。気づいてしまった。
どうして……。キャロルがその手紙を持っているの?ときどき向けられる冷たい視線は、気のせいじゃなかったの?
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
アンナはキャロルが落としたものが手紙だってことに気づいてないみたいだわ。どうしよう、アンナに相談した方がいいかしら?いいえ、見違えた可能性もあるし、これ以上アンナに心配をかけたくないわ。
「何でもないわ」
首を振り、微笑んで返事をして、気を取り直してオーダー表を見る。
ガラスビーズが足りなくなりそうだなと思った私は、おばあ様の家からの帰りにガラスビーズを工房に買い付けにいくことを伝えた。
朝食を終えると、メリーがドレスを準備してくれた。それは、レースが黄色のグラデーションになっているドレスだった。アンナ達がメイク施しドレスを着せてくれる。髪をハーフアップに結われ、真っ赤な薔薇の髪飾りを付けられる。
「おばあ様に会うだけで、これはちょっと派手じゃない?」
私が恐る恐る聞いてみる。
「そんなことありませんよ。王太子殿下の婚約者たるもの、これくらい普通です」
「僭越ながら、髪飾りを菫の花のものに変えませんか?」
珍しくキャロルが発言した。
「えー?そうかな?私は薔薇の花が華やかでいいと思うけど……」
コーディネートしてくれたメリーが反論する。
薔薇の髪飾りも素敵なんだけど、今日はそんなに着飾らなくても良いので私はキャロルの案を採用した。
メリーも渋々といった表情で髪飾りを付け替えてくれた。




