13.
『親愛なるクリストファー様
初めてお便りを差し上げます。
殿下におかれましては恙無くお過ごしのことと存じます。
殿下の婚約者となり三年の月日がたちますが、私の我が儘を聞いてくださり、感謝しております。
近い将来、殿下のお隣に堂々と立てるよう、日々精進しております。
それではお会いできる日を楽しみにしております。
お身体ご自愛くださいませ。
エヴァ・ドゥ・レイ』
初めて殿下に宛てた手紙を何度も見直し、やっと綴った言葉はなんとなく味気ない。それでも日々のお妃教育頑張る意気込みと、そのための面会制限の理解への感謝は伝えられると思う。
封蝋を押し、メリーへ渡す。
「殿下からお返事いただけるといいですね」
メリーは自分のことのようにウキウキしている。
殿下からお返事来るかしら?驚かれるかしらね?
いろんな思いが複雑に絡みだす。今まで、断罪を避けるために殿下を避けていた。殿下を避けるのではなく、仲良くなっていたら、もしかしたら違う方向に向いたのかも知れないと今さらながらに思う。
でも、もし殿下に恋してしまったら……。ヒロインが現れて、殿下が攻略されるのを指を咥えて黙って見ているのは、性分じゃないわ。
…………。そうなったらやっぱり悪役令嬢の道まっしぐらね。別に意地悪をしたいわけではないんだけど、ヒロインに対してちょっとキツくあたってしまいそう。殿下にも嫉妬心を気付かれて、そんな束縛されるのは嫌だとか言われた日には立ち直れない。それをヒロインが癒してあげて、二人の仲が深まり、結局、私が断罪される……。
ああ、考えただけで気が滅入りそう。
「お嬢様、殿下はお優しい方ですから、ちゃんとお返事くださいますよ」
頭を抱えているとメリーが慰めてくれた。ホントにいい子だわ。
「お嬢様、そんなに落ち込まないでくださいませ」
メリーが今にも泣きそうな顔で励ましてくれる。
手紙を出して一週間。殿下からのお返事が届いた。
王家の紋章が入った上質な紙の封筒にちょっぴり緊張しながら封をあける。
『わかった』
たった一言だけ。初めての手紙にたった一言の返事。
そりゃ、今まで会うことを控えてほしいと言われていた婚約者からの急な手紙で、何を書けばいいのか分からなかったのかもしれないけど。
それでも、王太子という立場あるものが出す手紙ではないわ。
ショックやら情けないやら……。それとも、もう既に殿下はヒロインに恋してしまっているのでは?
やっぱり国外追放は免れないみたいね。
「お嬢様、良ければ二人だけでお話しませんか?」
その日の夜、アンナが蜂蜜入りのホットミルクを用意し、部屋を訪れていた。
かなり落ち込んでいたのだと気付いたのは、ミルクを受け取り、一口飲んだときだった。
どうしてこんなに落ち込んでいるのか、自分でも不思議だった。断罪ルートが確定してきてるから?
……ちがうわ。殿下に少し期待していたんだわ。恋心を抱いた訳じゃないのだけど……。
「ありがとう、アンナ。あなたがいてくれて良かったわ」
アンナは微笑むと一礼した。
本当によく気が付くできた侍女だわ。
「お嬢様、昼間に殿下からお受け取りになられたお手紙はございますか?」
「ええ、あるわ。……これよ」
机の引き出しからそれを取り出し、アンナに見せる。
正直、あの場でぐちゃぐちゃポイってしようかとも思ったくらいなのだが、キャロルから『殿下からのお手紙をぞんざいに扱うのは如何なものかと』と窘められ、机に仕舞っておいたのだ。
「失礼ですが、そのお手紙をしばらくお預かりしてもよろしいでしょうか?」
アンナが真剣な表情で問いかける。
何をするつもりなの?と視線を揺らすと、
「お嬢様のお心を乱すものを、お嬢様の目に付くところにおいておくのは偲びないと思いまして」
ああ、そうなんだ。私を気遣ってくれるアンナの優しさが嬉しくて、目から溢れてきたものを止めることができない。
「大丈夫です、お嬢様。例え国外追放になろうとも、私は一生、お嬢様についていく所存です」
アンナはそっと私を抱き締めてくれて、しばらくアンナの胸を借りてしゃくりあげていた。




