前世を思い出しました
"パシャッ……”
ぬるくなった紅茶を頭からかけられ、暫し茫然となる。今、起こった状況を整理しようと頭をフル回転させる。
エヴァ・ドゥ・レイ、レイ伯爵家の長女、10歳。今日は、王妃様主催のお茶会に招かれていた。お気に入りのパステルカラーのドレスで参加し、貴族の令息令嬢が集まるこの場で、ピンク頭の令嬢のマナーがあまりにもなっていなかったことを注意した。たったそれだけで、紅茶をかけられた。
その時、莫大な量の情報が私の頭の中に入ってきて、私はさらに茫然となる。
『中川めぐみ』16歳、日本にある普通の高校に通う女子高生。
確か、川の中洲に子猫がいたのを見つけ、助けようとして……。途中で急に流れが早くなって……。
それなのに、目の前にある光景は目を疑うものだった。
10歳前後の子どもが集まっていて、皆七五三ばりのドレスを着ていて、こちらに注目している。
"えっ?なにこれ!?”
情報を処理しきれなかった私は、そのまま意識をうしなってしまった。
「エヴァ、大丈夫か?」
気がつくと、サファイアブルーの瞳が心配そうに覗き込んでいた。
「あれ、ここは……?」
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回してみる。
見るからに高級な家具で整えられた広い部屋。
「ここは王宮の客間だよ。エヴァ、どっか痛いところはない?」
幼なじみの公爵家次男、アルフレッドが心配そうにこちらを見ている。
目の前にいる人物が幼なじみのアルフレッドだというのは分かる。
エヴァ・ドゥ・レイが私の名前だというのも分かる。だけど、私は『中川めぐみ』だった。これって、前世の記憶というものだろうか?
アルフレッドの、そのサファイアブルーの瞳とブルーブラックの髪は、私が死ぬ前の日まで遊んでいたお気に入りの乙女ゲーム『DESTINY LOVERS』の攻略対象のアルフレッドにそっくりで……。え?これって『DESTINY LOVERS』の世界なの?転生……してしまったの?
ちょっと待って。エヴァってヒロインを虐める悪役令嬢じゃなかったっけ?
ヒロインが王子ルートを選択すると国外追放で、アルフレッドを選択すると一生幽閉される運命だったはず。どちらにしてもバッドエンドしか道はない。
じゃあ、私はどうしたらいいの?バッドエンドなんて嫌だ~!
思考がぐるぐると回って、目眩がしてきた。
「エヴァ?」
アルフレッドの声で現実に引き戻される。
「まだ気分が優れないみたいだね。王妃様には僕から伝えておくから一緒に帰ろう」
ああ、そうだ。王妃様主催のお茶会の最中に、私倒れたんだった。
深呼吸して心を落ち着ける。
「ありがとうございます、アルフレッド様」
できるだけ淑やかに言葉を選ぶ。アルフレッドは一瞬、虚をつかれたような表情をしたが、すぐに笑顔で侍女を呼びに行った。