表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

ピカロの罪

 いまだ続く喧噪の中、ピカロは一人離れて壁際の椅子に腰掛ける。

 そしてジョアンナとのやり取りを思い出し、小さなため息をつく


(はあ、なんだか無駄に疲れたわ)


 その小さなため息を聞き逃さない男がいた。


「どうかしましたかピカロ?」


「なんでもないわ」


「大丈夫ですよ。たとえなにが相手でも私はあなたの障害を排除します」


「じゃあ、ジョアンナは障害じゃなったってこと?」


「ええ。こちらに多少の警戒はしているようですが、まあ今のところぶつかることはないでしょう」


「そうだと嬉しいわね」


 ダイザブロウの話に投げやりに答えながらピカロの表情が和らぐ。


(って、わたしなんでちょっと安心してるのよ!)


 内心の焦りを取り繕うように、硬い表情に戻るピカロ。


「さて、ピカロ」


「なによ」


「ピカロはこの後どうするつもりですか?」


 いきなり目の前に現れたダイザブロウの黒い瞳。

 その瞳がピカロの心を揺さぶる。


「ど、どうするって、なにがよ!?」


「ええ。このままここで、ずーっとお酒を飲んで騒ぎ続けますか?」


「それは」


「教えて下さい、ピカロあなたの望むものを」


 穏やかで力強いダイザブロウの声が。

 自分がやりたいことは何なのかという問いが。

 ピカロの心の奥底に響く。


「わたしは築き上げたものを取り返したい! そんなに凄いものを築いたわけじゃないけど」


「かまいませんよピカロ。私は物事の大小を聞いたわけではありません。あなたの望みを聞いているのです」


「うん、わたしは学園に戻って、ちゃんと卒業して普通に仕事に就きたい!」


「わかりました」


「え?」


「あなたの望みをかなえましょう」


 そう言っておもむろに立ち上がるダイザブロウ。

 ダイザブロウの声にいままで騒いでいた酒場が静まり返る。


「でも、わたしは反逆者なのよ?」


「ふむ、ではその罪を撤回させましょう」


「は?」


「たしか王族の求婚を断ったせいで反逆罪に問われたと」


「ええ」


 二人のやり取りを聞いていた、酒場の人々が騒ぎ出す。


「は? 嬢ちゃんそんなことで罪人扱いされてたのか?」


「フラれた腹いせにこんなお嬢さんを、罪人にしちまうなんて。王族っての何考えてるんだい!」


「おい、にいちゃんそんな不届きな野郎なんざ、騎士団の連中みたいにカエルにしちまいな!」


 だがピカロは酒場の人々が自分の味方になってくれることに少し後ろめたさを感じていた。

 そんなピカロの表情をダイザブロウが見逃すはずもなく。

 心配そうにピカロに問いかける。


「ピカロ、なにか不安があるのですか?」


 その優しくも力強い声はピカロが、その後ろめたさを解放するために十分な効果を持っていた。


「あのねダイザブロウ。わたし求婚を断るときにね、使者の人に()()()はっきりと伝えたの」


「ふむ」


「脂ぎったデブの第五夫人になんて、なれるか!って」


 ピカロの一言に酒場の人々が凍り付く。

 王族にむかってそんな口をきけばどうなるかくらいは、酒に酔っていてもわかる。

 だがそんなものものともしない男、ダイザブロウがそこにはいた。


「その相手は脂ぎってもいないし、太ってもいないということですか?」


「いや、私が最後に見た限りでは脂ぎってたし、太ってた」


「では、あなたが罪に問われたのは嘘をついたからでしょうか?」


「違うわ。王族に暴言を浴びせたということで不敬罪と、そこに王家を罵ったということも追加されて反逆罪に」


 ピカロの話を聞いたダイザブロウは不思議そうに言葉を発する。


「うーむ、真実を話すとこの国では不敬罪になるのですか。おかしいですね」


「でも、裁きの使者からそう言われたし」


「使者? 裁きの神ではなく?」


「うん」


「はあ、使者ですか。どうりでおかしいと思いました。さすがにあの石頭の裁きの神が、今のような訳の分からない判決を出すはずあがありませんから」


 ダイザブロウのその言葉に周囲の人々は驚愕する。

 もちろんピカロも。


「? どうかしましたか、みなさん」


 神の使者は、神からその力の一部を委任されている存在。

 たとえ神に及ばなくとも、その力は絶大。

 使者の言葉を否定するなど、この世界の住人にはありえないことだった。


「ダイザブロウ、あんた使者様にそんな口きいて大丈夫なの?」


「はて? 何か問題でも?」


「問題って、あの使者様よ?」


「うーん、あのと言われましても。あったことありませんし」


 さすがのピカロもダイザブロウのこの言葉には驚いた。

 そして、もっと驚いたのはダイザブロウが本気で使者を恐れる様子がないことだ。


(何なのこいつ。本気で使者様なんてどうでもいいと思ってるみたい)


「では、ピカロあなたの罪を撤回してもらいに行きましょう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ