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カエルと再度の告白

 街の住人が固唾を飲んで、ダイザブロウとピカロのやり取りを見ているその時。

 次の招かれざる訪問者達が現れる。


「おいお前ら、そこを動くな!」


 ダイザブロウとピカロを白銀の鎧を身に付けた一団が取り囲む。


(今度は衛兵? いや、あの鎧は騎士団?)


「ここに反逆者がいると聞いたのだが?」


(この声は女? もしかして噂の白銀の刃とか言う奴?)


「騎士団の皆様! ここです、彼女こそ反逆者、ピカロ・ノスティールです」


「な、リチェル!?」


 先程まで顔を青ざめていたはずのリチェル。

 だが彼女もまた、一筋縄ではいかない猛者だった。


(ちっ、あの顔。形勢逆転てわけね)


「ピカロ・ノスティールだと? 確かゾズモズ島に流刑になったはず」


(私もちょっとした有名人ね。まあゾズモズ島への流刑なんて滅多にいないし、しょうがないか)


 リチェルの一言で周囲の空気が一気に変わる

 二人を囲む一団が各々の武器に手をかけた。


「おい、貴様。そこの女性が言っていることは事実か?」


 鎧兜を身につけた女性がピカロを問いただす。

 その一言が自分達の命に関わるとも知らず。


「おい、きさ、くっ?」


 再度ダイザブロウの殺気が溢れだす。

 二人を取り囲んでいた騎士達か腰を抜かし、地面にへたりこむ。

 先程同じ目にあっていた住民達は地面にへたりこみながら、騎士団を恨みがましい目で睨む。


「うーむ、ピカロ。この国の人々は、貴女に無礼な振る舞いをする者が多すぎますね」


「仕方ないわよ。わたしが反逆罪で島流しになったのは事実だもの」


「私にとっては、ピカロがどんな罪を犯していようと関係ありません。ですがピカロを侮辱する行為は万死に値します」


「はあ、ありがとう。それに約束も守ってくれたみたいだし」


 そう、ダイザブロウは殺気は放ったが、あの大剣は出さずにいた。

 だが、初めてダイザブロウと対峙した騎士団にはその事はわからない。

 わからないからこそ、今自分達が手加減されていることが理解できていなかった。


「え?」


 突如ピカロ達の足元に大きな魔法陣が現れる。

 そして魔法陣から溢れ出る光が、地面にへたりこむ騎士達に光が降り注ぐ。


「何をしたかは知らないが、この程度で騎士団が止められるとは思わないことだ」


 光を浴びた騎士達が次々と立ち上がる。


「さて、我々相手にここまでのことを仕出かしたのだ、その命を散らす覚悟はできているのであろうな?」


 騎士団全員が再度武器に手をかける。

 それが彼らにとって致命傷になるとも知らず。


「万死に値すると言ったはずですが?」


 ダイザブロウの静かな声が辺りに響く。

 その声に呼応するように、地面に広がっていた魔法陣が漆黒に塗り替えられれ、今度は黒い粒子が騎士達に降り注ぐ。


「なんだこれは? 私の魔法が!? ゲコ」


 ゲコゲコ。


 ゲコゲコ。


「こんなところでしょうかね」


 ダイザブロウの言葉とともに黒い魔法陣が霧散する。


「ちょっと、ダイザブロウ。なんなのよ、これは?」


「はて?」


「このカエルの山よ!」


 ピカロの指差した先には数多のカエル。

 そしてカエルが身に付けていたであろう、武具が散乱していた。


「先程の無礼な輩達の成れの果てですよ」


「騎士団をカエルに変えたって言うの?」


「ええ、ピカロに刃を向けようとするなぞ万死に値します。しかも二回もですよ。ピカロとの約束がなければ、魂も残さず消滅させているところです」


「確かに殺してはないけど……」


「大丈夫ですよ。皆様、人としての意識はありますので。その証拠にほら」


 ダイザブロウの指差した先では、カエル達が自分達の武具に張り付き、悲しそうに鳴いていた。


「それでこの人達は元に戻れるの?」


「ええ、もう二度とピカロに刃を向けないと誓えるなら」


(こいつ本気なの? どこまでわたし優先なのよ?)


「いつまでも貴女が最優先ですよ。ピカロ」


「なっ。あんた、まさか魔法でわたしの心を読んだの?」


 ピカロの目付きが変わる。

 その鋭い眼光に、強烈な怒りが浮かび上がる。


「はて? 出会って間もないとはいえ、どれだけ私が貴女と言葉を交わしたと?」


「だからなんだって言うのよ!」


「あまり私を馬鹿にしないでください」


 ピカロを見るダイザブロウの表情が今までにないものに変わる。


「な、なによ」


「言ったはずです、貴女に涙させる根源を全て消し去ると」


「それがどうしたって言うのよ」


「私の言葉を聞いた貴女が寂しそうにしていたからですよ。ですから私はその疑いを晴らしただけです」


「な!?」


「何度でも言いましょう。ピカロ・ノスティール」


「!?」


「貴女は自由に生きて下さい、貴女は自由に怒って下さい、貴女は自由に泣いてください」


「!」


「貴女がこれから進む道の障害を全て排除してみせましょう。貴女の怒りの源を全て叩き潰しましょう。貴女に涙させる根源を全て消し去ってみせましょう」


 再度のダイザブロウの告白。

 彼の目には微塵の嘘も感じられない。

 静かに響くやさしい声はピカロの心をじわりじわりと浸食する。


「ですからそのような顔をしないでください、ピカロ・ノスティール」


 ピカロの体をやさしい光が包み込む。

 その光の暖かさに、気持ちが和らぐピカロ。


(この光、大氷原の時と同じ。暖かく感じるのはどんな場所でもかわらない)


 そして彼女は気付く。


(どんな場所……。場所!?)


 今この場所が街の一角で。

 さらには多くの人達に注目を浴びていることに!


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