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約束

「ここがレンブール王国で間違いありませんか? ピカロ・ノスティール」


(うそ? なんで? さっきまでの氷原はどこ?)


「ピカロ・ノスティール?」


(これは夢? 私が寒さの中で見ている幻?)


 あまりの突然の出来事にピカロはそれが現実だと認識できずにいた。

 だがそんなピカロを無視して事は動き始める。


「な、ピカロさん!? あなた反逆罪で島流しにされたはずじゃ?」


(!?)


「一体どうやってここに?」


(リチェル・シャパーニ!? ということはここは本当にレンブールなの?)


「ピカロさん?」


「ひ、久しぶりね。リチェル」


「久しぶりもなにも。それより、あなたどうやってレンブールに戻ってきたの?」


 いまだに状況をうまく飲み込めていないピカロ。

 自分自身が理解できていないことを答えられるはずもなく、ピカロはただ戸惑うことしかてきずにいた。


「そ、それは」


 口ごもるピカロを見て、リチェルが後退りし始める。


(まずい、なにか言わないと……って何を言ったらいいのよ!)


「私がこちらまでお連れしました」


(は?)


「え? あの『最果ての大氷原』から?」


「その通りでごさいます」


 最果ての大氷原ことソズモズ島は、文字通りこの世界の最果て。

 そこに流されるということは死を意味する。

 したがってソズモズ島からの帰還者などあり得ない。


「ピカロ・ノスティールのご希望で、こちらのレンブール王国までお送りさせていただきました」


 ダイザブロウの言葉でリチェルの顔に困惑が浮かぶ。


「ソズモズ島から、ここまでですか?」


「その通りです」


 ダイザブロウの言っていることはあり得ないこと。

 だが現実としてピカロはリチェルの目の前にいる。


「……」


 訳がわからなくなったリチェルは、考えることを放棄した。

 そして、一番分かりやすい行動にでる。


「衛兵! ここに反逆者が!」


「ちょ、ちょっとリチェル」


「誰か! 衛兵を! ここに反逆者がいるわ!」


「リチェル」


 慌てたピカロはリチェルを止めようと、リチェルの肩に手をかけた。

 最悪のタイミングで。


「リチェルさんから手を離せ!」


(ノートン・レンブール!? このタイミングで王族のはしくれなんて、また面倒なやつが!)


「この反逆者め! その汚い手をリチェルさんから離せといっている!」


「ノートン様!」


(剣を抜いた!? リチェルの前でいい格好したいからって張り切りすぎでしょ)


 ピカロの予想通りノートンは自分をよく見せようと張り切っていた。

 相手は自分に危害わ加えることもできないだろう相手で、しかも自分の剣で傷つけたとしても、咎められる心配もない。

 ノートンにとっては自分をよく見せる最高の機会だった。


 普通ならば。


「誰の手が汚れていると?」


(ダイザブロウ?)


 だが、今この場は普通ではなかった。


「誰に剣を向けているのですか?」


 強烈な殺気が溢れだし、街の一角を覆い尽くす。

 馬車の馬が泡を吹き、空を飛ぶ鳥は猛烈な勢いでその場から逃げ去り、街行く人々が腰を抜かしその場に座り込む。


「ひ、き、は」


 その殺気を直接向けられたノートンに至っては、まともに言葉を発することもできなくなっていた。


(ノートン? リチェル? それに街のみんなも!? ってダイザブロウ!?)


 いつの間にかダイザブロウの手には巨大な剣が握られていた。

 禍々しくも美しいその巨大な剣は、ピカロが見てもその危険性が理解できた。


「ひ、ひは」


 ノートンの目に涙が浮かび、地面に水溜まりを作り出す。


「では」


 ノートンもリチェルも街行く人々も自分達の命が終わることを覚悟した。

 ただ一人、以外は。


「では、じゃないわよ!」


 ダイザブロウの後頭部を叩く、小気味いい音が周囲に響く。


「何をするのですか? ピカロ・ノスティール」


「ダイザブロウ、あんたなにするつもりなのよ!」


 周囲の殺気が霧散し、いつもの空気が街に戻る。


「何をするといわれましても、無礼者を手打ちにするつもりでしたが」


「この辺一帯全部吹き飛ばして?」


「あなたを侮辱する行為を止めもしない連中など。何か問題でも?」


「大有りよ!」


 再度小気味いい音が周囲に響く。


「ふむ」


「いい、ダイザブロウ。私の側にいるつもりなら、今後は私の許可なく命を奪う行為は禁止よ!」


「それを守れば、あなたの側にいることを許していただけると?」


「ええ、許すわ」


「わかりました、お約束いたします。()()奪う行為はピカロ・ノスティールの許可なく行いません」


「はあ、それと今後は私のことはピカロでいいわよ」


「ピカロ」


「なによ!」


「いえ、折角許可をただいたので。一度呼んでみたかっただけです」


「はあ、なによそれ。ただの名前でしょ」


「ただの名前でもですよ」


 普通に見れば微笑ましい男女のやり取り。

 だが今この場でこの光景を微笑ましいと思える者は誰一人存在しなかった。

 人々の目には、猛獣とそれをしつける調教師にしか見えなかった。

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