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5.休み時間、婚姻届けを渡された俺への級友たちの反応


「オッス、はる先輩。また同じクラスだなー」

「あ、はる先輩、おはよー。昨日の後輩ちゃん、美人だったねえ」

「はる先輩、現国の教科書持ってる? 俺、忘れちゃってさ」

「次のページ、頭から訳してくれ。あー、じゃあ、はる先輩」

「教師までもかよ!?」


 始業式の翌日、

 一時限目の授業が終わったところで、俺は机に突っ伏した。

 わずか一日で噂は怒涛の勢いで広がり、今や同級生どころか教師にまで『はる先輩』扱いされる始末である。


「……これ、学校ぐるみのパワハラって言えば、メディアが騒いでくれるだろうか」

「いやぁ、無理じゃない? パワハラの前にまず条例で君がつるし上げになると思うよ、はる先輩?」


 色白な優男風の男子が隣に座って、俺の計画に否を唱えた。

 名前は竹内(たけうち)。中学からの腐れ縁だ。

 俺は淀んだ目で竹内に懇願する。


「頼むから先輩呼ばわりはやめてくれ。真面目に学校生活歩んできたのに、留年した気分になる」

「いいけども、朝倉(あさくら)は実際どうするつもりなんだい? 姫川(ひめかわ)由衣(ゆい)ちゃんと付き合うの?」

「……馬鹿言わないでくれ。付き合うわけないだろ」

「どうして? 嫌いなの?」

「……竹内、わざと言ってるだろ?」

「うん、わざと言ってる。だってウチの中学じゃ有名だったもの。美術界の天才少女・姫川由衣を堕落させた、朝倉春斗(はると)。彼は一体どう責任を取るつもりなんだ、って」

「ひどい悪評だ……」


 俺が姫川と出逢ったのは中学三年生の時。

 あの桟橋の一件以来、姫川は絵を描いていない。代わりに俺にべったりと懐くようになり、周囲はそれを分かりやすい形で捉えたのだろう。男ができて絵を捨てた、と。


「俺は姫川を嫌ってないよ。むしろ嫌うわけないだろう。あんなふうに懐かれたら誰だって可愛いと思うさ」

「あらま、大胆発言」

「でも付き合うつもりはない」

「え、どうして?」


 俺は机から顔を上げ、細く息を吐く。

 これは出逢った時からずっと思っていることだ。


「姫川は今、寄り道してるだけなんだよ」

「寄り道?」

「ああ。いつかはきっと絵の道に戻る。天才少女・姫川由衣は在るべき場所に還っていく。今は俺っていう寄り道をして休憩してる最中なんだ」


 中学の頃、美術部の部室で絵に向かい合っていた、あの真っ直ぐ瞳を今でも覚えている。

 出来ることがあるなら、なんだってしてやりたい。

 逆にしてはならないことがあれば、絶対にしない。


「だから付き合わないんだ?」

「そうだよ」

「健気だね、朝倉は。頑固者ともいうけれど」


 竹内からねぎらうように肩を叩かれた。

 どうやら分かってくれたらしい。


「でもさ、朝倉。一応、姫川さんからは結婚を前提に告白されたわけだよね? それはどうするの?」

「断るよ。必要であれば、距離も置く。それが姫川のためになるのなら」

「紳士だね。……でもそれはたぶん無理だと思う。中学からの友人としては」

「なんで?」


 だってさ、と竹内が言いかけた時、渡り廊下の方から声が響いてきた。

 姫川の声だ。


「うわあああああん! どうしよ、どうしよ、もう限界っ。助けて、はるせんぱーい!」

「姫川!? どうした何があった大丈夫か!? 今いくからそこにいろーっ!」


 俺はわき目も降らず反射的に教室を飛び出した。

 残された竹内が苦笑交じりにつぶやく。


「だって朝倉って面倒見のいいオカン属性だもん。姫川さんみたいな危なっかしい子、放っておけるわけがないよ。――頑張れ、はる先輩」


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