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うらうらと、乙女と子猫。  作者: 緋和皐月
うらうらと。
4/11

乙女と子猫の洗濯日和。

 



 雲などひとつも見当たらない、青い空。チチチ、と何処からか鳥の声が聞こえる、午前の時間。

 小柄な乙女が、大きな水色の布を張る。物干し竿に勢いよく掛けられたのは、水色の布団シーツである。



「ふう、全部干し終わりましたね。いやー、晴れた日に洗濯物を干すのは、大変、気持ちが良いですね!」



 うんうんと1人頷き、背伸びする。腰まであるクルクルした焦茶の髪が、ふわりと柔らかく、風にそよいだ。



「さてと、第2弾の洗濯物も終わりましたし。ふらふーたん、そろそろお昼ご飯にしますかね……ふらふーたん?」



 どこですかね、と首を傾げて、乙女はベランダから室内を覗く。

 乾いて取り込んだ洗濯物の山。そのてっぺんが、今にも崩れそうなほど揺れている。



「ふらふーたん、そこに居ますね?」



 ベランダの網戸を開けて、訝しげに乙女が、山となった洗濯物の上にあった、タオルを捲る。


 色とりどりの布の山に、ふんふん、と白い子猫が顔を突っ込んでいた。お尻を突き出し、無我夢中で何かを探している様は、無邪気で愛らしく、微笑ましい。


 平和な光景に、乙女は目を細めて、優しく問うた。



「ふらふーたん、可愛いですね。何してるんですねー?」

「トレジャーなのニャァ!」



 子猫がようやく、顔を上げて、乙女の方を向く。その顔は、どこか得意げである。

 その様子に、乙女は、満面に驚愕を表した。



「ふらふーたん、何を(かぶ)ってるんですね!?」



 子猫が被っているのは……その幼い頭には少し大きい、フリルがついた白布。



「トレジャーなのニャァ!」

「いやいや、それ、わたしのパンツですよね!? 返してくださいね!」



 サッと電光石火の勢いで、乙女の手の中に白布が収まる。白布を奪われた子猫は、しょんぼり床に伏せた。



「……我のトレジャーだったのニャァ」

「ちっがいますよね!? いくら可愛くても、他人の下着を被るような変態さんになったら、いけませんね!」



 ギュッと眉を寄せて怒る乙女を、子猫はぺたりと耳を倒して見上げる。



「ごめんニャァ……次はフリルの付いてないやつにするニャァ」

「そういう問題じゃありませんよね!?」



 もーう、と乙女は溜息をついた。仕方のないという諦めとを含み、可愛らしい子猫に降参したことを表す溜息である。



「そこまでパンツが欲しいなら、ふらふーたんに作ってあげますね」

「我のぱんつ、なのニャァ?」



 洗濯物の山を、どっかりと横に置いて、乙女が戸棚から裁縫箱を取り出してきた。

 珍しそうに子猫が中を覗く。



「あっこれ我、知ってるニャァ。嘘ついたら痛いやつニャァ」

「嘘つかなくても、触ったら痛いですね。ふらふーたん、触っちゃダメですからね?」

「……ちょっとだけ、ニャァ?」



 注意されても触るタイプですね、と乙女は困ったように眉を下げる。そして唇の端を釣り上げて、意地の悪い顔をして見せた。



「……実はこれは、針オバケっていいましてね。むやみに触ると、とんでもなく痛い目に合うので、注意しなきゃいけないのですね」



 瞬間、スサササッと乙女の側にある裁縫道具から距離を置く子猫。その綿毛のようなフワフワの体が、わなわなと震えている。



「トゲトゲオバケ、さては、いじめっ子だニャァ!?」

「可愛いこと言いますね、ふらふーたん。そのまま暫く、近づかないでくださいねー」



 チクチク縫い縫いと、素早く針を進ませる乙女。子猫に対する扱いが、すっかり、子どもに対する母親の対応である。



「なんで、クルクルはいじめられないのニャァ?」

「そりゃ、わたしは、針オバケより強いですからね」



 縫い物に集中していると、返答が雑になる乙女であった。


 子猫は何やら落ち着かないのか、そわそわと辺りを行ったり来たり。ふわふわ尻尾をくるくる回って追いかけたり、小さな肉球を枕に押し付けたり。

 そっと乙女に近づいて、その太腿に前足を片方掛け、頭をもたげた。


 乙女は、針を動かす手を止めて、それをしばし凝視する。

 そして、スマホをさり気なく手に取って、レンズを子猫に向け……パシャッ。



「ニャァッ!?」

「よっしゃ! ふらふーたんの甘える写真ゲットですね!」

「今すぐ消去ニャァ、何を撮ってるんニャァ! 我の純情をもてあそぶなんて、ひどいニャァ!」



 子猫が気づくと、小さな白布は出来上がっていた。いわゆるカボチャパンツの形で、前に、小さなリボンがついている。

 履かせてみれば、無言で尻尾を揺らす子猫に、乙女がクスクス笑った。



「まぁ一度、洗いましょうか」



 乙女と子猫のベランダに、小さな白布もちょこんと干されて、風に揺れた。


 乙女が子猫の背中を撫でる。ふわふわ撫でていると、子猫は体をくねらせて、その手のひらに鼻を押し付けた。



「ふんふん……石鹸の匂いがするニャァ」

「柔軟剤ではないですかね?」



 扉を開けたままのベランダから、あたたかな微風(そよかぜ)が吹いた。空の真上に昇った太陽が、朗らかに笑いかけてくる。

 乙女は仰向けに、子猫はうつ伏せに、ごろんと寝転がり、揺れる洗濯物をのんびりと眺めた。



「ふらふーたん、今日のお昼ご飯は、何が良いですかね……」

「うぇっとふーど、が良いニャァ……」

「ウェットフード好きですねぇ、ふらふーたん……」



 ごろごろと転がりながら、昼食の話をする1人と1匹。眠いのに、お腹は空いて、よだれが垂れる。



「クルクルにも分けてあげるニャァ」

「いやー、さすがのわたしも、にゃんこフードは遠慮しますね」



 ゆるりと流れる時間を、幸せに感じながら、乙女と子猫は微睡み始める。

 ベランダの洗濯物の下、赤色と黄色のチューリップが、花壇の上で微風に揺れた。








あとがき。


どうも皆様こんにちは、緋和皐月です。

最近、私のいる地方では雨が降り、気温は下がり……見事に風邪をひきました。おのれ、鼻水ゥゥゥ……!



さて。

昨日もご感想いただきました! ご感想、第4号、有り難や!

‹‹\(*'ω'* )/›› ‹‹\( *'ω'*)/›› ‹‹\(*'ω'* )/›› ‹‹\( *'ω'*)/›› ワーイ



ふらふー「我の名前とか、クルクルの呼び名とか、そういうのは、珍しく緋和皐月が素早く思いついたんだニャァ。……いつもは1ヶ月くらい悩むのに、ニャァ?」


クルクル「あとがきだからって、メタい発言しますねぇ、ふらふーたん……まぁ、わたしたちの物語は、ぶっちゃけ作者の日々の閃きで生まれてますからね、閃くのが早くても遅くても、良いんじゃないですかね?」


ふらふー「ま、ま、そういうことは置いといて、ニャァ。やっぱり、我は人気者だニャァ!(ドヤァァァ」


クルクル「そうですね! ふらふーたん、ご感想の中でも断トツトップで人気ですからね!(泣」



「うらうらと、乙女と子猫。」。気づけば、もう4話目ですね。ストックはもうありませんが、おかげさまで筆も進みます。

ご覧下さる方々がいるからこそ、途中でやめてしまわずに「書き続けたい」と思えます。ありがとうございます。



乙女と子猫は、のんびりゆったり、のほほんと春を過ごします。この連載は、ひとつふたつと春の日常を切り取ったまで。

良ければ、あなたの「のんびりした春」も、教えてください。


それでは、次回も宜しくお願いします。



緋和皐月


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