乙女と子猫のカタクリの花。
布団の中で枕を抱きしめて、乙女と子猫はテレビを見ていた。
「ほへぇ、カタクリのお花、可愛いですね。ねぇ、ふらふーたん」
「カタクリ粉の花ニャァ? お腹空いたニャァ」
春告げるカタクリの花が咲いたというニュースに、うっとりする乙女とヨダレを垂らす子猫。
「もー、とことん食いしん坊ちゃんですね、ふらふーたんは」
「クルクルだって、花より団子ニャァ」
「失礼しちゃいますね! わたしはちゃんと、団子も花も、両方とも食べますね!」
「……花より団子って、そういう意味だったかニャァ?」
1人と1匹は、もそもそと布団から出る。
「ふらふーたん。せっかくですから、カタクリの花を見に行きませんかね?」
乙女のくるくる頭に乗った子猫は、うーん、と首を傾けてから、イヤイヤと震えた。
「まだ寒いから、やだニャァ」
「フワッフワな毛の塊のくせに、何言ってるんですね? というかもう春ですから大丈夫ですね」
白のブラウスに緑のカーディガン、黄色のスカート。春の装いに身を包んだ乙女は、えっへんと胸を張る。
「春だから、こーんな薄着しても大丈夫ですねっ!」
「それなら、玄関のドアを開けてくれるかニャァ」
「お安い御用ですね! きっと春一番の暖かな風が、わたしを待ってますね!」
意気揚々と、玄関扉を開ける乙女。その頭髪に顔を埋める子猫は、震えて身構える。
その瞬間、冷たい突風が、1人と1匹を襲った。
……ぱたん、と扉は閉められた。
「……お出かけは、また今度にしますかね」
「ほーら、我の言ったとおりだニャァ?」
でも、と乙女は言葉を紡ぐ。
「でもカタクリの花は見たいですよねぇ……困りましたね、どうしましょうかね」
「我は、花なんかに興味ないから、別に見なくてもいいのニャァ」
子猫がピョンと乙女の頭から飛び降りる。布団の上に綺麗に着地してから、ふわふわ白い子猫は、毛玉のように丸くなる。
子猫が丸くなってから、しばらく考え込んだ後、乙女はポンッと手を打った。
「よしっ、こういう時は人類の発明を利用して、お出かけしましょうね、ふらふーたん! じゃじゃーん、半月前に新しく買ったコートです!」
「我の話、聞いてたかニャァ!?」
春の装いの上にコートを羽織り、マフラーも巻いて、乙女は子猫に手を伸ばす。
「ほらほら行きましょうね、ふらふーたん。コートの中なら、あったかいですよね?」
「……仕方ないニャァ」
乙女のコートの胸元に入り込み、子猫は頭だけを出して、上を見上げた。
「これなら一緒に行ってあげるニャァ」
「下から上目遣いで、上から目線のお言葉ですね。なかなか、あざと可愛い手を使いますねー、ふらふーたん」
1人と1匹は少し歩いて、大きな公園へ出かける。
「確か、ここの公園にも、カタクリの花があったはずですね」
「知らなかったニャァ」
黄色の小さな蝶が1匹、ゆらゆらと空を舞う。まだ風が冷たいのに飛ぶその姿は、眠たそうである。
「ふらふーたん、ありましたね、カタクリの花!」
花弁がくるりと上向きに反り返り、首をもたげた、紫の花。美しく可憐な花は、公園の木の近くで、密やかに咲いていた。
「綺麗ですね、可愛いですねぇ。さすがは春の妖精ですね」
「これがカタクリの花、ニャァ……食べられるのかニャァ?」
乙女は、子猫の食欲に苦笑いして、頷いた。
「ふらふーたんが言ってた通り、カタクリ粉の元は本当はコレですね。鱗茎から取り出した粉が、カタクリ粉なんですね」
「持って帰って、食べるのニャァ?」
「ここの公園のは、採るのを禁止されてるから、ダメですね」
そっと指先で花弁に触れるため、しゃがんだまま、乙女は言葉を紡ぐ。ふわりと小さな花が身を揺らした。
「まぁでも、採ったところで、ちょっぴりしか粉は取れないので……スーパーで売ってるカタクリ粉の原料は大体ジャガイモなんですよね」
「……ホンモノがこっちってことニャァ?」
「そうですね」
なんだかお得感を感じないニャァ、と呟く子猫に、乙女はクスクスと笑った。
「幸せの花って呼ばれることもあるらしいですね。採れる幸せは、ちょびっとで良いってことですよね」
「何ニャァ、今日のクルクルは哲学ちっくだニャァ」
子猫の言葉に、ドヤァと乙女は胸を張る。
「そりゃ、わたしですからね!」
「そういえばクルクルが言ったこと全部、ニュースで聞いた内容だニャァ?」
「そうそうニュースでやってた話ですね……って、全部パクった訳じゃないですね!」
どこまでも失礼ですねぇ、ふらふーたんは! と乙女はわめく。
「そんなこと言ってると、今日のご飯は、何の工夫もしてない只のネコマンマになりますね!」
「我は、ネコマンマ好きだから、問題ないニャァ」
「ムキャァァァ、いっそいっぱい食べて、でぶでぶ猫になっちゃえばいいですね! どんどん太らせてやるですね!」
やれやれと、子猫は乙女を見上げる。
「我それ知ってるニャァ、幸せ太りってやつだニャァ」
「なんだか違う気がしますが……仕方ないですねっ、愛し尽くしてやりますね!」
舐めないでくださいね、わたしの猫愛!
乙女は勢いよく立ち上がり、ふんっと腕を組んだ。
「我もクルクル大好きだニャァ」
「……きゅーんって、ときめいちゃいますからね? 不意打ちの告白はやめてくださいね!」
乙女と子猫。
今日も春を楽しんだ1人と1匹に微笑むように、カタクリの花が風に揺れた。
あとがき。
どうも皆様、こんにちは! 緋和皐月です。
またもや、ご感想をいただきました! 今度は、2つも!しかも驚くことに、レビューまでいただきました。ありがとうございます!
ご感想第2号と第3号! (=´∀`)人(=´∀`=)人 (´∀`=)
レビュー第1号! ♪(*^^)o∀*
「うらうらと、乙女と子猫。」を応援していただけて幸せでございます。有り難や〜っ!
それぞれ別々の方々ですが、共通して仰るのは……「ふらふーたん可愛い」。
流石は、天下の綿毛の子猫。ふらふーたん、男女問わずモテております。
ふらふー「そりゃ、ニャンコは可愛い正義だからニャァ! 我は生まれたときから、無意識に人間を癒す能力を持ち合わせているのニャァ(ドヤァァ」
クルクル「ふらふーたんが世界1可愛すぎるおかげで『可愛いニャンコと、ついでの乙女』みたいな扱いになってませんかね? このままだと……わたし、ちょっぴりピンチじゃありませんかね?! 次回で削られませんかね?!」
ふらふー「ニャム? でも、『クルクルの考え方すき』っていうご感想もいただいたニャァ」
クルクル「わたしのことも、お気遣いくださったのですね! よかった、嬉しいですねっ」
乙女と子猫、1人と1匹。ゆるりとする春の当たり前の1日を、お茶目も織り交ぜながら、楽しみます。
どうぞ次回も、宜しくお願いします!
緋和皐月