表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母は魔王なんだけど最弱らしい  作者: 白羽
少年期
4/6


 彼女に稽古をつけてもらうようになってから、はや二年にが経過した。

 半年ほど前に一発打ち込んでから、彼女は鞘を固定しなくなった。打撲は切り傷や流血に代わり、死にかける事なんてざらである。その代わりか、稽古の時間は二時間ほどに減少した。半年前は数をこなし体に染み込ませていたのに対し、現在は質を重視している。無駄に動いて無駄に力を使うのを止めて、最小限で、効率よくという彼女の戦闘スタイルが目標だ。まぁ、実際全力を出しても最小限にすら至れないのだが。 

 僕の主武装は短剣だ。と言っても、愛剣がある訳ではない。何を狙っているのか、彼女は毎回僕に違う武器を渡すのだ。今日は両刃か片刃か、長さはどうだろう。この厚さと刃の鋭さならば、これだけの力に耐えられる。この形状ならば、こんな使い方ができるかも――なんて考える必要がある。もしかしたらそうして、武器の状態を見て、戦術を練る力を鍛えるためなのかもしれない。

 だからだろうか、体術の向上が目覚ましいように思える。短剣で同じ行動ができるとは限らないが、体は基本的に変化しないため、蹴りや突きの動きに大きな変わりはない。とっさにできる行動は、そうしたいつでもできる行動なのだ。だから彼女に打ち込めたのは拳だった。

「……また新しい魔道具」

「え? あぁ、ちょっと陣変えただけ……」

 座り込む僕の足を指差して聞いて来た彼女に、怠さに耐えながら答える。最近は、二時間戦っても体力切れで完全に戦闘不能となることは滅多にない。稽古後に二言三言交わすことが増えてきた。最近気づいたのだが、彼女は戦闘後にかなり言葉数が少なくなる。疲れを全力で隠しているのだろうか。子供の前では見栄を張ってしまう普通の親で可愛らしく思えてしまう。僕は貴女が本当の親でないと知っています。なんて言ったらどうなるだろうか――興味で言うのは止めよう。悲しませたくない。

 僕が今装備している魔道具は、グローブ、ブーツ、シャツ、靴下のみだ。これにインクで魔法陣を刻んでいる。利点は、洗剤で洗えば簡単に落とせて、また新たに書き直せることだ。

「ん、そう。頑張ってるね……」

「なんの嫌味じゃい」

「褒めているつもり。さようなら、次は四日後」

「りょーかーぃ」

 しっかり短剣を回収し、ポニーテールを揺らして去っていく彼女。今気づいたが、前より少し短くなっている気がする。髪を切ったのだろうか、戦闘で斬られたのだろうか……どっちでも結局可愛いのだけれど。 

 陽はまだ西の空高くにある。彼女が戻って来るのは毎度日暮れ後と決まっているから、少なくとも二時間は余裕がある。今日は……魔術にしよう。稽古場を整地しつつそう決めた。

 魔術は、魔法と大きく変わりはない。しかし、魔法でできることは魔術ではできるのだが、魔術でできることが魔法でできるとは限らないのだ。魔法は魔術から派生した技術であることが原因だろう。

 本によれば、本来の魔術とは、魔法陣を組み立て、魔力を流し込み、詠唱をトリガーとして現象を引き起こすものだ。僕のように無詠唱で行うのは一般的に見れば外道だ。だが僕からすればこれこそが王道だ。

 そもそも魔法陣とは何なのか。有り体に言えば作文だ。

 物にはキャパシティがある。一年かけてその要素を解析したところ『文字数・魔力量・作動時間』の三つのことであると判明した。

 文字数とは、魔法陣を形成するのに必要な魔術言語の制限だ。ピッタリじゃないと魔法陣として成してくれないのが厄介極まりない。因みに魔術言語とは、日本人から見たアラビア語というイメージが最も近い。この言語を読み解くのが一番苦労した。もはや僕はマルチリンガルである。魔術言語に発音法はないのだがな。

 魔力量とは、魔力によって生じる負荷の制限だ。引き起こす現象の強さにほぼ正比例すると言っていい。因みに制限をオーバーすると魔法陣から爆ぜる。これを魔力爆発と言う。ここ試験に出るぞー、というレベルでこの世界ではよくあるらしい。僕も一度やらかした。しかしここには裏技があり、瞬間的に注入し、一瞬で開放すると制限以上の威力を出すことができる――はずなのだ。理論上。怖くてやってない。

 作動時間とは、チャージと連続発動の制限だ。例えば僕のグローブは、連続発動の制限が存在しなかった。存在しないというのは、無制限という意味ではない。できない、という意味だ。一方でチャージの制限は存在し、限界で四秒間の待機時間がある。この限界を超えると魔法陣は正しく作動してくれない。連続発動の制限があったのはブーツだ。平均してニ十分ほど効力を発揮し続けられる。だがやはり、これにはチャージの制限は存在しなかった。因みに調べ方は簡単だ。どっちも試しに発動させてみればいい。発動するほうに制限がある、それだけだ。

 これにさえ従えば、あらゆる魔法陣が理論上形成可能なのだ。そう、無詠唱によって効力を発揮する魔法陣も。これに気付くまでそう時間はかからなかった。なにせ本に書いてあったのだもの、無詠唱――つまり、『魔力を流し込むと起動する』ことを意味する式句が。推測するに、彼女が常に発動している障壁の魔道具も、この実質無詠唱が可能となる式句が組み込まれているのだろう。

 ……そう考えると、魔術の名著に反する彼女の魔道具って、かなり異端なのではないか。

 いや、今更驚くことじゃない。彼女に対していちいち驚いていたら体力がもたない。

「……そろそろ、付与以外も手を出してみるか」

 魔法陣はさまざま系統分けされている。

 魔道具を作成する付与系、転移や召喚を行う神秘系、結界を張る孤絶系、攻撃を行う殺傷系などなど多くある。魔道具を作成することばかりが目的だったため、僕は付与系に傾倒していた。現状、付与を手直しして調節しているだけで、正直これといった進展はない。ならば他の魔術の知識を取り入れて、新たな発見を探した方がより有意義だ。

「……そうだな、攻撃系が役に立つか。」

 僕の持つ魔術書『魔術事典』には、出版当時に一般公開されていた魔術がほぼすべて記されているらしい。そしてこの時点の六割近くは殺傷系の魔術について載っている。この世界でどれだけ殺しを求められているのか感じられる。しかしこの際都合がいい。彼女と戦うには必要だ。

「あれ、僕の目的って、戦うことだっけ?」

 いや違う、本当は武術を習うはずだった……どうしてこうなった。それもこれも彼女が悪い。彼女をどんな卑怯な手でも打ち負かして、武術を教えてくれるようお願いしよう。なに、何日かかけて彼女にこう約束させればいい。「僕が勝ったら、何か一つお願いきいてくれない?」と。彼女は圧倒的に強い、自分でもその自覚があるだろうから、おだてりゃ恐らく受け入れてもらえる。後は僕が頑張ればいい。

 さて、そのためにも攻撃魔術だ。結局戻ってきちゃったよ。


―――ざっと見たところ、上級までの殺傷系は最大七十六の式句によって構成されるようだ。

 

 勇級以上の魔術は載っていなかった。恐らく、上級以下も全ての殺傷系が載っているわけではないのだろう。巻末に『更なる知を求む者は、魔術学院へ』と書かれていた。実にいい商売をしてやがる。発刊元も魔術学院のようだし、相当稼いでいるんだろうなぁ。

 殺傷系は付与系とは毛色が違い、ちょっとばかり文法も違うようだ。といっても、付与系がどんなという現象を中心に書くのに対し、殺傷系は何をという目的を中心に書く、というだけの違いだ。

 しかしなんだ、ここまで読んで、言うのもなんだが、

「これ魔法でいいじゃん……」

 という感想に完結した。見た限り、殺傷系の魔法陣は、より少量の魔力で、より高火力に、より確実な魔法を目指しているように感じたのだ。確かにそのほうが効率的に殺し続けられるだろうが、いくつか弱点がある。

 一に詠唱が長くなる。二に魔法陣が高位なものほどデカくかさばる。三に魔法陣の一部でも欠損すれば使い物にならない。一つ目の問題は何とかなるが、それ以外はどうにもならん。罠や遠距離攻撃など移動する必要のないモノには役立つかもしれないが、近接主体の彼女との戦闘ではほとんど意味を成さないだろう。

 それになによりも、だ。これ全部、魔法に変換可能だと思う。というか読みながらの片手間でいくつか魔法化――つまり陣ナシでの発動が可能であった。世界常識をひっくり返す大発見である。論文書いて魔術大学とやらで発表すれば、ノーベル魔術学章を貰えるんじゃないだろうか。なんだそりゃ、この世界にノーベルさんはいない。せっかく式句全種書き写したのにまったくの無駄であった。

 殺傷系から学ぶことは、その効果の多彩さと罠としての有用性くらいか。

 そういえば、一つ自分の考えを訂正しなければならないらしい。殺傷系の魔法陣の構成を見るに、どうやら物のキャパシティに対し、少しばかりルーズな感じなのだ。魔力量に関しては相変わらずなのだが、文字数制限はかなり適当な可能性が高い。と、いうのも、厳密に何に魔法陣を書け、という気まりが記されていないのだ。干渉系は事細かに記されており、物にキャパシティがあることを発見するのにつながったのだが、これにはない。何に書いても発動する、という推測はかなり有力なはずだ。まだ検証してないけれど。この違いが何によって生まれるかも研究しなくちゃな。

「ただいまー」

「あ、おかえり」

 っと、どうやら読むのに長く時間をとられてしまったようだ。今日の研究はここまで。

「ふふっ、今日はね、麦が手に入ったの! 明日はパンを作りましょう!」

「明日が楽しみだね。じゃあ今日のご飯は作るの手伝おっかなぁ」

「おぉ? えらい、えらいよレイ! その心意気、お母さんとっても嬉しい!」

「じゃあとりあえず、オヌオンとキョロットとって、切ってあげる」

「その心意気はそんなに嬉しくないかも……」 

 日本語で言うと玉ねぎと人参だ。お母様は玉ねぎと人参が大の苦手なのである。因みに僕が嫌いなのはパクチーのような臭いがするバッグ草だ。前世のころからの苦手意識が中々抜けない。

 渋々ながらも頑張って野菜を食べるお母様、可愛かったです。



 僕の右手には現在、短剣が握られている。その短剣は刀身が非常に短く、先は刃ではなく平面だ。鈍く光を反射しており、滑らかな面ながらも、眠気の残る猫のように力がない。

「……うっそーん」

 久しぶりに呆けてしまった。そりゃぁ、切り札何枚も切って、あと一歩でチェックメイトを言い放てたのに、一撃形勢逆転だもの。どうしようもないわ。それも、斬鉄なんて離れ業だ。現状白旗挙げる以外に僕にできることはない。『魔導』という攻撃手段はあるのだが、それをしたら今度は一週間以上インベットの引き籠りコースだ。そこまでやる必要はない。

「……びっくりした。鉄を斬ったの、久しぶり」

 要約すると『とっても成長したね! あなたほど私を追い込んだ人は他にいないんだから、誇っていいのよ』という感じだ。最近ようやく彼女の言葉の解釈法を見つけた。

 日光で眩い刃が僕の首筋にあてられていた。攻守は完全に入れ替わり、同時にフィニッシュ。僕の武器はゼロ、刀身がパッツンされてしまった。斬鉄ってそんな簡単にできることだっけ? わけわからん。   

「今日は、終わり。次からは武器破壊もあるから、覚えておいて」

 事前勧告があればっていう問題じゃないと思うんです。だって見えなかったし、斬られた時の抵抗感なんて少しもなかった。次の稽古日が僕の命日になってしまいそうだ。胴の辺りがすぱっ、と。 

「さようなら、また三日後に……期待してる」

「あはは……ぜんっぜん嬉しくない」  

 半壊した短剣を渡すと、にっこりと、とっても嬉しそうに笑って去った。ツボが全く分からない。まさか僕に追い詰められたことを悦んだわけではなかろう。

 今日はかなり頑張った。

 彼女と戦いながら一時間かけて彼女の障壁すらも突破できる魔術――意識干渉魔法陣を地下深くに形成し、確かに嵌めることに成功した。意識に空白を作る魔術。彼女はそれをすぐ跳ねのけることくらい解っていたが、その一瞬の隙で、僕は賭けに出た。『魔槍』という魔術を魔法化したもの。発動条件は対象に直接触れていること、効果は魔道具の無効化。彼女の障壁がどの魔道具によって成り立っているのかは分からず、障壁が魔道具の一部である可能性に賭けて放った。予想は的中、ガラスにハンマーを撃ちつけたかのような音が障壁の無効化を告げた。それは右手の結果、左手では彼女のブーツに触れていた。魔道具であることは確かで、そちらにも確かな手ごたえがあった。

 そして最後の一突き……の、はずだったのに。あれは反則だ。

「……万策尽きた、次だ次!」

 せっかく殺傷系魔術を全部魔法化、というより無詠唱非魔法陣化したのに全部効かなかった。組み合わせもあるだろうが、そんなの全部検証していられるほど時間があるわけじゃない。

 となると手数を増やすしかない。半年でだいたい殺傷系は習得した、なら次だ。そうだな……効きそうなのは、孤絶系だろうか。あっちはこれから斬撃も加えて来るのだから怪我をしないためにも丁度いいだろう。僕だって痛いのは嫌いなのだ。

 『魔術事典』には孤絶系は、総じて外界との分離に関するもの、と書かれている。うーむ、次元ずらす事とかできそうな予感がする。

 今まで防御手段と言えば、まんま刃で受けるか返す、受けながすといったものだ。防御と攻撃が分離している状態。例えば結界を張れるようになり、彼女の刃をそれで防げるようになれば純粋に手数を――つまりはチャンスを増やせる。まぁその代わり僕の脳味噌はオーバーヒート寸前まで酷使することになりそうだが。

 この本を読むと孤絶系ニアリーイコール結界術、みたいなイメージを植え付けられてしまいそうだ。一般的に結界としてしか利用されないのだろう。もしくは難しすぎてそれ以外ができないのか。

 結界でできることといえば攻撃や侵入を防ぐ、というものが主となっているようだ。魔法陣は付与系にかなり近い。ちょっと式句が増えて書くことが増えた程度の違いだ。これなら習得も案外簡単そうだ。習得だけなら、の話である。

 孤絶系もやはりか、魔力を陣に流し込んでいる間しか機能してくれないようだ。しかも入り切りが連続で繰り返せるわけではない。時間制限があるくせに、一度解いたら一定のクールタイムがいるようだ。ここ要研究だな。これがパーティーならなんら問題ないだろう。後方支援が結界張り続けて前衛が頑張ればいい。しかし僕はソロなわけで、独りでパーティープレイなんて無理なのである。勿論結界を起動しつつ攻撃するなんて器用なこともできやしない。

 つまりだ。僕が孤絶系をまともに使うには、ノークール・ノーアクションは最低条件で、自動発動なんて機能が備わっていることも重要になってくる。なにそれどうやるのさ。

 いや、まてよ。あるあるあるじゃん! 繋げればいいじゃん! 魔法陣を一枚だけで済ませようとする必要はないんだ。同じものを何枚か描いて、ローテーションすればクールタイムの心配はしなくて済む。しかしそうなると魔法陣がかさばる……それに加えてタイム管理も大変だ。やはり自動化が肝になるかもしれない。 

 魔法陣自動化機構……あぁ、誰か論文でも書いてないかなぁ。前世がどれだけ素晴らしかったか身に染みる。『魔導』の研究は行われているだろうが、実際問題、紙が貴重なこの世界で本当に論文のようなものが存在するのかすら怪しい。この世界で前世の日本の製紙技術を再現したら素晴らしく売れるのではないだろうか。チョーどうでもいい、というか無理だ。

 いくら考えても実用的な案が浮かばない。描いてみないことには何も始まらない、頭より手を働かせろということなのだろうか。とりあえず簡易的に、初級のものから……


 

 うん、最初から描いておけばよかった。こりゃ無理だ。

 魔力を流し込んでから結界を張るまでに陣内で8つの処理が行われ、アクションタイムは平均0.6秒。連続使用時間は最大40秒、クールタイム最低2分。今、魔法陣は紙に書いたのだが、五度目の使用で紙ごと魔法陣がぱーになった。紙に書いた魔法陣でよくみられる『魔力熱』という現象で焼き切れてしまったのだ。その後二枚目で強度を確かめたが、外側から初級魔法一撃で破壊できた。しかも新たに判明したことは、結界内にいる時、外部に干渉ができないということだ。一切、である。つまり全身結界で覆ってしまったら、あっという間に低酸素状態になりダウンするというとっても憐れなことになってしまう訳だ。本当になりかけたよ、怖い怖い。

 結界魔術ではなく孤絶系、といわれる意味がようやく理解できた。これは侵入を拒むものではなく、そもそも侵入できないように空間を断絶するものだ。だから空気も通れない。要注意である。もしも全身結界を作成するとしたら、孤絶系の概念を変えなくてはいけない。そんなの無理だ。研究の時間が足りない。

 初級でこれだ。位があがってもこれはあまり期待できないかもしれない。



 こりゃ参った。チョー期待できる効果万歳だった。

 下級、中級、上級と上がっていくにつれて意思が介入できた。なんなのかって結界の柔軟性が向上したのだ! 目覚ましい進化である。 

 分別的にはこうだろう。初級は無差別拒絶、下級からは指定拒絶。位が上がるにつれて強度は向上するし、自由度も上がるわけだ。因みに指定は陣に記述しないといけないから、使い分けは始めっから必要になる。指定の仕方は本に書かれているだけではないだろう。そこは要研究だな。上級で5つの指定が可能になるから、一先ずはこれを主軸に戦うようにしよう。

 ……これを魔法化できたら強いよな。

 いや、余計なことはまともに扱えるようになってから考えるべきだ。

「……お、帰って来たか」

 ドアの開く音が聞こえた。うちのドアは蝶番がちょっと調子悪くて、開けるときの音が結構大きくなってしまうのだ。それが無くてもいつもは「ただいま~」と声が聞こえてくるのだが、不思議にも今日はない。

 廊下に出ると、うめき声をあげて這う赤髪の貞子がいた。彼女は超能力者だったのか……いやアホか。

「ちょ、母さん大丈夫?」

「―――――あぁ、ユウ。私のカワイイユウっク。私の唯一の味方……ヒッ」

「しゃっくりってか酒くさぁ……飲み過ぎか? 魔族も酒で酔うのか……」

 ヒトも魔族も器官はだいたい同じらしいから、考えてみればあたりまえのことか。というか酒浸り酷いな。人生ここまで酔っている人見るのは新入社員期の兄以来だぞ。そんだけ三時間でここまで酔えるものなのか……溜まってるのかな、ストレスとか、性欲とか。見るからにストレスだな。 

「はいはい母さん、今日は寝ましょうねー。アルコール分解って魔法ででーきないか。二日酔いは防いだ方がいいよな、芋粥でも作るか」

 二日酔いには食後の炭水化物の補給がいい対策になるとどっかで聞いたことがある。効果のほどはしらんが、やらないよりはましというヤツだ。腹も減ったしな。

 彼女を持ち上げようとするが、外見に寄らず結構重い。別の言い方をすると、僕が小さすぎて持ち上がらない。このままじゃ引きずってしまう。

 ……こんな時の為に魔法があるんじゃないか。

「風で浮かすか? いや労力がかかりすぎる。体を持ち上げるのは……いや、直接持ち上げる必要はないのか」

 さっさと去りせっせと戻る。布団を取りに行ったのだ。

 生物を持ち上げるというのは存外難しい。単純に重いし、物質操作で動かそうとしても全部動かすのは無理だ。それに生物であれば当たり前のように魔法抵抗を持ち合わせているから、簡単に干渉できない。しかし布であればそれが容易くなる。彼女をのっけて物質操作で持ち上げるもよし、雷系統で磁力を発生させて運ぶも良し。選択肢は一気に広がる。

 まぁもっとも単純に、物質操作で引っ張るだけなのだが。端っこを僕が持ち上げれば引きずらずに済む。僕超賢い。レイは魔法を日常生活で使う知識を手に入れた。てってれー。

 よしよしとベットまで運ぶと、甘ったるい声で「脱がしてぇ」なんていわれた。あと少しで聖槍が天を衝くところであった。もしかしたらうちの母様、サキュバスかもしれない。勿論脱がしたのは鎧やら靴のみである。それ以上を脱がす勇気が僕にはなかった。童貞でごめん。

 その後芋粥を作ってあげたら超喜ばれて泣きながら食べてくれた。そんなに嬉しいなら僕毎日頑張っちゃうよ。そしてあたりまえになってきて、だんだんありがたみが薄れて、最後に感謝しなくなるんだ。あぁ、嫌だなぁ。もうやりたうない。

 こんな憂鬱なことを考えないと、僕の頭の中は彼女のことでいっぱいになってしまいそうだ。あぁ、初恋相手が幼稚園の先生っていう幼稚園児の気持ちがわかった気がする。ごめんちがう。多分うちの母様が特別可愛いんです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ