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レイのお話

「お嬢様、もう大丈夫ですよ」


レイは自分にぎゅっと抱きつくリリに優しく声をかける。リリはレイの声に安心しゆるゆると頭をあげると強い光でぼやけた目をよく凝らして周りを確認した。

どうやら寝室のようだがこんな部屋は屋敷になかったはずだとリリは不思議に思った。


「目は大丈夫ですか?体に辛いところは?気分は悪くなっていませんか?」


レイはリリの体に異常がないかが心配らしく顔を覗き込んで聞く。


「大丈夫だよ。レイ、ここは・・・」


どこなの?という小さな声は大きなノックの音でかき消されてしまった。


「だ、旦那様!おかえりなさいませ!」


扉の向こうから緊張したような大きな声が聞こえた。

レイは大きな声に驚いてぎゅっと抱きつくリリの背中をぽんぽんと叩くと少し不機嫌そうに扉の向こうに声をかけた。


「私が声をかけるまでこの部屋に近付くなと言ってあっただろう。」


扉の向こうから戸惑ったような震え声が返ってくる。


「も、もも申し訳御座いません!王から是非お嬢様と共に城へ来て欲しいとの言伝を預かっておりましたので・・・」


レイはため息を吐くとリリを抱えたまま扉へと向かった。不安げに様子を伺ってくるリリを抱く腕の力を少し強くするとゆっくりと扉を開けて返事をする。


「王へは後日向かうと伝えろ」


扉の前にいた声の主はホッとしたような声で


「かしこまりました!」


と言うとリリとレイに向かって一礼をして走って行ってしまった。レイは扉を閉め、口を開けて呆然としているリリに声をかけた。


「お嬢様、お口が開いていますよ」


リリは慌てて口を閉じたが言いたいことが沢山ある。

ここはどこなのか、旦那様とはどういうことなのが、王様に会わないといけないのか、聞きたいことはたくさんあるがとりあえず一番気になる事を聞く事にした。


「さっきの猫さんって喋ってたよね?」


レイはリリをソファの上に降ろすと少し笑いながら答えた。


「ええ、言葉を話していましたよ。ついでに言うと服も着ていたし二本の足で歩いていましたね」


レイはリリが怖がるかと少し不安に思っていたが、目の前のお嬢様は最近なかなか見ることの出来なくなった笑顔だったのですぐに杞憂だとわかった。


「先ほどの猫の名前はジルです」


リリはその名前に聞き覚えがあった。レイのお話に出てくる家を管理する猫の名前だ。


「ジルってお話に出てくるあのジル?大切な魔法の本を燃やしちゃったり、ネズミに泣かされるあの?」


「そうです。壺を割ったり砂糖と塩を間違えたりするあのジルです」


リリはレイが話してくれるヘンテコな旅のお話は作ったお話だと思っていた。リリが喜ぶようにとびっきりヘンテコなお話にしたんだと。

まさか本当の話だったなんてとリリは思った。

じゃあレイは?レイは何者なんだろうと考え、リリは笑顔でこちらを見るレイに恐る恐る訪ねた。


「本当は魔法使いなんでしょう?」


レイは満足そうににっこりと笑うと


「よくおわかりになりましたね」


とリリの頭を撫でた。



それからレイはリリに色々な話をした。

ここはどうぶつの国だということ。レイはこの屋敷の主人で旦那様と呼ばれていること。レイが話したものは全て本当に体験した話だったということ。有名な魔法使いで歳をとらないということ。

そしてリリの両親とは友人で、リリをずっと見守ってきたこと。


リリは頭がパンクしそうだったが、レイが今までと変わらず側にいてくれると言ってくれたので深く悩むことはなかった。リリにとっては場所やレイの素性よりもレイとずっと一緒にいられるかどうかのほうがよっぽど重要だった。


「そういえばさっきジルが王様って・・・」


「はい。私達に会いたいと言っているみたいですね。どうぶつの国の王様は誰だか覚えていますか?」


「ライオン!」


「そうです。あの猫にはその内会いに行く事になりますが、まずはこの国の案内をしますね。」


ライオンの王を猫と言った口の悪さに何時ものレイらしからぬ違和感を感じつつも、優しい顔で頭を撫でてくるレイを見てリリは気のせいかと思いこれからの生活に胸を躍らせていた。




ーーーーーー


僕にはずっと昔から仕えている旦那様がいる。

旦那様は見目麗しく有能だが性格が悪い。

生き物に興味を持たず、老若男女問わず接し方が冷たい方だ。僕は気まぐれでも拾ってもらったため感謝しているし尊敬もしているが、国での評判は最悪だ。

本人は気にしていないが各国の王、女王からも嫌がられているし街を歩くと目を逸らされる。

旦那様はある日「旅行に行ってくる」とだけ言い行方を眩ましたため国中が喜んだ。


そんな旦那様から久しぶりに帰るとの連絡がきた。

何やら自分が仕えていたお嬢様を連れてくるらしい。

あの旦那様が仕えていたなんて冗談だろうか?

部屋を整え食事の支度をしていたところ城からの遣いがやってきた。旦那様とお嬢様を城に招待したいという内容だった。


旦那様がこの国で暴れないようにするための制約と、あの旦那様が仕えていたというお嬢様に会うためだろう。そうこうしているうちに旦那様が帰ってきた。


部屋へは近付くなと言われていたが王からの言伝があるので仕方がない。

ノックをし、若干緊張しながらも挨拶をする。


「だ、旦那様!おかえりなさいませ!」


思ったよりも震えてしまった声に舌打ちをしたくなる。きっと勝手にお声をかけたお叱りを受けるだろう。相手はあの最凶の魔法使いだ。


「私が声をかけるまでこの部屋に近付くなと言ってあっただろう。」


不機嫌そうな声が返ってきた。声だけが。

以前なら魔法が飛んできたものだが今日は機嫌がいいのか例のお嬢様のおかげか・・・

なんにせよ機嫌がいいうちに用事を済ませたい。


「も、もも申し訳御座いません!王から是非お嬢様と共に城へ来て欲しいとの言伝を預かっておりましたので・・・」


扉の向こうからこちらへと向かう足音がする。

やがてゆっくりと扉が開くと久しぶりに見る旦那様の姿があった。


「王へは後日向かうと伝えろ」


そう言う旦那様の腕には可愛らしい少女が大切そうに抱かれていた。少女はポカンと口を開けてこちらをみている。どうやら少女がいる前では紳士的に振舞うようにしているらしく、魔法が飛んでくることはなさそうでホッとする。


「かしこまりました!」


旦那様にも他者を慈しむ心があった事に驚きつつも帰ってきた悪魔と呼ばれる最強で最凶の魔法使いとその悪魔の大切なお嬢様に礼をし、王様に返事をしなければと急いだ。



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