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旅立ち

その執事はとても優秀だった。


金髪碧眼の王子様のような見た目をしたその男は屋敷のお嬢様であるリリの専属執事だ。

リリが生まれる前からこの屋敷に仕えており、忙しい両親に代わってリリをとても可愛がっていた。


リリの両親は忙しくなかなか会えなかったが、両親はひとり娘のリリに溢れんばかりの愛情を注いでいた。

僅かでも時間があればリリと過ごし1日に1回は必ず電話で話をするようにしていた。


リリは少し寂しかったが両親に大切にされていることはわかっていたので我儘を言って困らせるような事はしないように気をつけていた。

たまに寂しくてこっそり泣いてしまうこともあるが、そんな時はレイがどこからともなく現れて抱きしめてくれた。


リリが悪いことをすれば叱り、良いことをすれば褒め、悲しい時は側で慰め、楽しい時は一緒に笑っていた。リリにとっては完璧で優しくて頼りになる兄の様な存在だった。


あまりになんでもできるのでリリが


「本当は魔法使いなんでしょう?」


と尋ねるとレイが


「よくおわかりになりましたね」


とおどけて返すのがいつものやり取りだった。







「レイー、何処にいるのー?」


「はい。こちらにおります」


リリはレイに向かってはにかんで言った。


「もう寝ようと思うの・・・」


レイはリリが何を言いたいか察した。


「ではお部屋へ行きましょう。今日は何のお話にしますか?」


「クジラの王様の話がいい」


レイが寝る前に話してくれる以前旅をした国の物語はとてもヘンテコで面白かった。

話に出てくるのもライオンやクジラや蝶や花など人間ではない生き物なので生き物が好きなリリはレイの話が大好きだった。

レイはベッドに入ったリリに布団をしっかりとかけると眠りを誘う様に静かな声で話し始めた。


「クジラの王様は海の底にあるお城に住んでいます。その王様はとても大きな体をしていて、声もとても低くその振動で体がビリビリと震えてしまうほどです。あるパーティの日、私はついうっかり王様を怒らせてしまいました。王様は大きな声で私を咎めたのです。

その声によっていで私は持っていたワイングラスを割ってしまい・・・」


RRRR


不意に電話が鳴った。

こんな時間に誰だろうとリリは思ったが両親からのおやすみの電話かもしれないと廊下にある電話を取るために走った。


「もしもし」


電話を取ろうとしたところ、後ろからレイの大きな手が受話器を取ってしまった。リリは頬を膨らませて話をしているレイを見たが、レイは見たこともないくらい真剣な表情をしてリリを見つめていた。


「パパとママからじゃなかったの?」


電話を切ったレイに尋ねるが、レイは何も言わずリリを抱き上げ部屋へと向かった。

部屋についたレイはリリをゆっくりとソファへ降ろしその前に膝をつくとリリの手を握り静かに電話の内容を話し始めた。


「お嬢様。どうか落ち着いてお聞きください。旦那様と奥様が事故に遭われ・・・天国へと旅立たれました」


リリはレイの言葉が理解できなかった。


頭の中で何度も何度も繰り返しレイの言葉を再生させたが、理解するのを頭が拒んでいた。


レイは泣くこともなくただ呆然としているリリを抱きしめると


「お嬢様、私がずっと側にいます」


と涙を流しながら震える声で言った。

リリはレイが泣くところを見たことがなかったので泣いているレイを見てようやく先ほどの言葉を理解することができた。





2人の葬儀はレイの手配によって滞りなく行うことができた。しかし、親戚の人が屋敷を売却しリリを施設に入れるか誰かの養子にする事を決めてしまった。

リリはこの屋敷から離れたくなかったし、誰か他の家の子になるのも施設に行くのも嫌だったがもう決まった事だと大人に言われてしまえば子供であるリリにはどうすることもできなかった。


レイもまた、なんとかしたいと考えたがリリと血が繋がっているわけでもなく、遺言書もなかったのでどうすることもできなかった。


レイとリリが家を出なければいけない前日の夜、

レイがリリの部屋を訪ねてきた。


「お嬢様。2人で旅に出ましょう」


そう言うレイはどこか決心したような真面目な顔をしており、手には旅行鞄とステッキを持っていた。

リリはレイと離れたくなかったし、レイがいるなら大丈夫だと思い


「うん!」


と久しぶりに見せる笑顔で答えた。

レイはリリの身なりを素早く整えると床に異国語で書かれた古い本を置いた。


「何をしているの?」


と尋ねるがレイは微笑んだだけで何も言わなかった。


「こちらへ来てください」


そう言ってリリを抱き上げると持っていたステッキで

本を2回叩いた。


「何かのおまじないなの?」


レイが何をしているのかリリにはさっぱりわからなかった。少しすると本がパラパラとひとりでにページをめくり光を放ち始めた。


リリは不安になりレイにぎゅっと抱きついたが、レイは少し笑って背中を撫でるだけだった。

やがて光が強くなりリリは目を開けていられなくなった。


「さて、それでは旅に出ますよ」


レイが楽しそうにリリの耳元で囁いた。




光が消えた時、

そこに2人の姿はなかった。

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