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言われるまま着替えて荷物をまとめてバスに乗り、家に着く早々洗濯機を回し、
溜まった新聞を整理し各部屋の掃除機を掛け、着替えを詰め直し
とアっと言う間に洗濯機が止まってそれを干して。
早々に荷物をマトメ家を出て柚ちゃんや楓ちゃん用にコンビニでポチ袋を買い
参拝客に混ざってバスに乗り込み神社に戻ると既に16時近かった。
残念ながら宮田姉妹と楓ちゃんとは入れ違いになってしまった。明日また会えるだろう。
到着早々小室絢が駆け寄って
「ゴメンな母ちゃんが無茶言って。」
いや無茶言っているのは僕だから。もう一日だけサーラを頼みます。
「こっちは何日だって構わないよ。それよりキズナも今日はうち泊まれとか言い掛かりだよな。」
そんな事ないよ。僕も楽しんでいるから。
「そうか。うん。ならいいけどよ。」
2日の夜はあまり遅くならない内に解散となった。
勿論南室家小室家の両親は神社に残り後片付けと明日の準備に取り掛かる。
僕とサーラはそのまま小室宅に。南室綴は荷物を持って帰宅。
洗濯やら済ませ次第小室宅にて合流するそうだ。
残念ながら橘結は来られないが当然だろう。
小室絢とサーラは早速大きなお風呂で足を伸ばす。
夕食はお雑煮で済ませる。2人が入浴中に準備しておくよと言うと
「そう言えばゴメン。明日午後からうちでカレー新年会するからな。」
と、ここで言われた。
えーっとそれはただの報告?それとも参加命令?
「だから悪かったって。是非参加してくれよ。な?」
勿論喜んで。
やはり忙しくて声を掛ける暇が無かっただけ。
道場では何もしないの?
「うん。週末に初稽古はするけどそれまで休み。明日は神社でカルタ大会あるよ。」
その年小学一年生になる子が集まり、神楽殿で行われるらしい。
「午前中にカルタ大会やって、午後はとっとと新年会始まるから。」
カルタ大会の間だけ私達は境内で甘酒振る舞うんだ。
新年会には私達出る必要ないよ。と言うかそんな隙が無いから。
地元の連中が参拝に来てお酒やら食糧持ってチョット引っ掻けて帰るんだよ。
「サーラもそれが終わればお仕事終わりだからな。」
「うん。」
2日夜、結構遅い時間に小室両親が戻ってきた。
荷物を入れ替え、娘に洗濯を任せ再び慌ただしく橘家に向かった。
「お土産よ。」と小室母が置いていったのは橘結。
「殆ど誘拐だったわ。」
橘結はとても嬉しそうに言った。
5人となると小室絢の部屋では狭いので客間に布団を移し
冷えた部屋を暖めながら布団を被って話をしていた。
「ホントもう皆ゴメン。うちの母ちゃん強引で。」
「私は皆といられて嬉しいわ。」
「私もー。」
サーラと橘結は手を取って喜んだ。
聞けば南室綴も相当強引に有無言わさず泊まらされたようだった。
「そうね。こんな時くらいは皆でいてもいいわね。」
と同意して小室絢を気遣った。
「ホントはどっち?やっぱり1人でゆっくりしたかった?」
とサーラがイタズラっぽく聞くと
「多分皆が一緒でワタシ1人だったら寂しくて泣いたかも。」と笑った。
小室絢は後に「綴が冗談でもあんな事言うなんて」とちょっと嬉しそうに教えてくれた。
「キズナはここのとろこ1人で寝てないでしょ。」
何かちょっと引っ掛かる言い方だな。
そんな事ないですよ。でも昼間1人で居た事が殆ど無いですね。
人数はともかく冬休みになってから1日1人で居た日って無いかも。
「去年は私達も昼間一緒で夜はバラバラだったよね。」
「そうよね。1日が終わると家に帰ってバタンだったわ。」
そうなんですか?毎年こんな感じなのかと思ってました。
「去年も忙しかったけど今年は異常よ。」
「あれ?去年は何でキズナに手伝わせなかったんだっけ?」
「キズナ君はお父様が。」
「ああそうかゴメン。」
「ホラキズナ絢ちゃんがゴメンて。」
え?ああ。今年はお手伝いできて良かった。
「多分絢ちゃんのお母さんが気を使ってくれたんじゃない?」
「そうかもね。キズナとサーラちゃん来てるからって。」
「母ちゃんなら言い出すだろうな。」
「杏ちゃんも呼ぼうとしたらしいわね。」
「ホントかよっ。」
「あそこは下の連中がいるし親戚も多いからって断ったみたいよ。」
「悔しがってるわねきっと。」
「ちょっと携帯貸して」
南室綴に携帯を奪われると
「女子会」とメールタイトルで何故か僕まで混ざって写メを撮って宮田杏と栄椿に送りつけた。
まだ早い時間だったがでもそれだけ疲れていたのだと思う。僕以外全員深い眠りついた。
彼女達は明日も早くから神社で巫女さんとして大活躍するのだろう。
僕はその寝顔と言うか、寝姿をコッソリと写して「女子会終了」とタイトルを付け2人に送った。
宮田杏からは「ソイツらに手を出すなよ。後が怖いぞ。」
栄椿からは「何でボクがそこに居ないんだ?何の罰なんだ?」と返信が届く。
1月3日午前8時。
皆はカルタ大会の手伝い。振り袖姿の新一年生達が神楽殿で張り切る姿を
サーラも楽しく見守っていた。
が、僕はその姿を見る事無く、ここぞとばかりに料理の腕前を買われた。
橘家で行われる新年会での料理、そして小室家で行われるカレー新年会。
朝、宮田杏が桃ちゃんと柚ちゃん、そして楓ちゃんを引き連れて来て
2人の小学生が巫女装束になり保護者達に甘酒を振舞っている間に
僕と宮田杏、宮田桃は買出しに出掛けた。
お節の残りに数品追加する程度だと言われていたのと
話しを聞く限り新年会の参加者は「お酒かつまみを持って現れ一杯引っ掛けて帰る」らしいから
吸い物、汁物は避けるべきだろう。
鍋で里芋と人参とインゲンを煮付けて、その間に人参、牛蒡、蓮根でキンピラを作る。
食材は被るが人参と大根で紅白膾を作り柚を加える。(せめてもの悪あがきとして切り方は変えた)
唐揚げを手作りしようと考えていたがこの時期はお惣菜コーナーに結構大きめなパックがある。
手間を考えると充分安くつく。
面白くない。各家庭で既に食べている可能性もある。
鮮魚コーナーに行きアラや切り落としの部分を購入。
カレーの材料も考えながら食材を買い揃えると結構な量になった。
移動はバスなのでまだマシなのだがこの長い石段がうらめしかった。
息を切らしながらも早速調理に取り掛かった。
案の定小室母に「この魚どうするの?」と聞かれる。
煮付けにするには時間は足りない。汁物は出せない。
適当に切って片栗粉をまぶして揚げます。
酒の肴に丁度いいかと。刺身のように鮮度を気にしなくていいし何より安い。
しかもマグロやブリの切り落としだ。美味しくないわけがない。
骨を取って血合いを洗い水気を拭いて大き目のポリ袋に放り込み
醤油、お酒と生姜。醤油、お酒とねり梅。これをしばらく漬けて他の料理に取り掛かる。
でボウルに片栗粉を入れてよくまぶす。
お皿にキッチンペーパーを敷いて油の温度を確認して揚げていると
脇で見物していた桃ちゃんに
「何でそんなテキパキできるんだよ。」と呆れられ、
それを聞いていた小室母も笑い出す。