表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kiss of Monster 03  作者: 奏路野仁
8/42

095

12月31日22時。

まだ早いと思ったのだが神社には数名の参拝者。

1人の神巫女と2人の巫女。そして何という事か。吸血鬼のお姫様までが巫女装束。

小室絢のお下がりだと言うが特に直しも必要なく着こなしている。

これぞ盆と正月。

僕は公園と駐車場の入口の、神社へ通じる石段の脇で

「右側通行でお願いします」と書かれた案内板を持って立ち、

時折お年寄りや子供に足元にご注意くださいと声を掛けている。

(階段の上では小室父が同じ事をしている)

皆の巫女装束をじっくり堪能できないのがとても残念だが境内にいても出来る事はない。

この日は道端に無断駐車されないよう丘の入り口から交通規制を敷いてる。

そのため多くの人は駅から来るので参拝客の持つ懐中電灯の灯りの列が出来ている。

なんだこの光景。

とても寒い夜だった。公園にトイレがあって助かった。

やがて麓のお寺から除夜の鐘が聞こえる。

十数回まで数えた。更に人が増え、流れがゆっくりになる。

誰からともなくカウントダウンが始まる。

結局僕はとても多くの知らない人達を案内しながらの年越しとなった。

同時にその知らない人達から「おめでとうございます。」と言われまくる。

看板を持つ僕を労って「おめでとう。お疲れ様。」と言ってくれる人も1人や2人ではなかった。

1月1日午前3時

南室綴の父親が温かいコーヒーを差し入れに来てくれた。

「5時6時になると少し落ち着くから。そうしたら朝食に行くといい。その後また忙しくなるからね。」

はい。人の流れを見て適当に抜けさせてもらいます。

と言ったものの、人の流れは殆ど切れる事が無かった。

予想に反して、陽が高くなるほど人の数は増えた。

僕だけではなく、他の誰もが朝食を摂る暇が無かったほどだった。

後になって「今年の人手は異常」だと橘結の父親が言った程だ。

夏祭りがテレビ放映された事が大きかった。

そしてその後の秋分の日の「祀り」。

エリクとルーが日本各地で出会った「継ぐ者」達との交流。

ヴァンパイアとライカンスローブが

日本の神社を宣伝して回ったようなものだ。

1月1日。22時。

あれから24時間経った。

4人の巫女はそれぞれ交替で休みを採ったようだがそれでも疲れ果てていた。

朝食と昼食夕食を兼ねた夜食もそこそこに、着替えもせずに横になっている。

ただ立っていた僕は疲れてもいない。

珈琲はがり飲んでいてまるで眠くないからと社務所の手伝いに回った。

大人1人が交替する中、僕は一晩中そこにいた。

もうすぐ1月1日が終わる。

それでも参拝客が訪れ御守りを買い求める。

大人がその応対をし、僕は参拝者から昨年の御守り等を受け取りそれを収める。

1月2日午前2時。

小室父が最後の交替に現れる。

1時間ほどしてようやく境内から人がいなくなる。


1月2日。午前6時。

3時間程度横になったが眠ったような気はしない。

お節を少しつまみ作務衣に着替え外へ出ると既に華やかな巫女達は全員境内にいた。

参拝客はいない。彼女達は焚火に輪になるよう当りながら話をしたりアクビをしたり。

宮田杏と桃ちゃんもそこに居る。残念ながら2人は巫女装束では無い。

社務所を覗くと小さな巫女さん2人が中でお手伝いをしていた。

楓ちゃんと柚ちゃんだった。2人に挨拶をしていると

「キズナ。ちょっといらっしゃい。」と南室綴に呼ばれる。

どうしたんです?と聞き終わる前に眠そうな目をしながら頭を撫で始めた。

「初撫でよ。」

すると小室絢も宮田杏も桃ちゃんまでが揃って人の頭を弄ぶ。

「参拝まだだろ。ホラ姫。サーラも。」

小室絢が2人を呼んで参拝。

2人のとんでもなくカワイイ巫女さんに並ばれて初詣。もう毎日正月だったらいいのに。

「何お願いしたの?」とサーラが無邪気に尋ねた。

あれ?願い事って口にしていいんでしたっけ?

「だってあそこのプレートには皆の願いが書かれてるんでしょ?」と絵馬を指した。

「そういえばそうね。」と橘さんも笑った。

声に出すなって事なのかな。でも思っているだけで、それだけでその想いは伝わるのだろうか。

2人はそのまま参拝客の相手に戻る。

僕は焚火に戻ってどうして宮田姉妹が巫女装束じゃないのか軽く注意した。

「ダメだ。あんな連中と並ぶなんて正月からダメージがデカすぎる。姉ちゃんにもさせられん。」

宮田杏は桃ちゃんを軽く小突いてから

「昨日絢に様子確認したら「それどころじゃねぇ手伝えっ」てメール来たから来てやった。」

凄かったよ。

大晦日の光の列。新年すぐとお昼近くの列を撮った写メ。

「すげえ。何だこりゃ。」

橘さんのお父さんも異常だって。

「荒らされなきゃいいけどな。」

その心配は杞憂に終わるがその気持ちは判るような気がする。彼女にとってもここは特別な場所だ。

「で、あの妹今キズナんとこに泊まってるのか?」

いや小室さんのとこだよ。昨日今日はココだけど。

「そうか。じゃあもう一日ここか絢んとこに泊まらせて明日からウチに来いって言っとけ。」

はい?

「学校始まればどうせ兄も来るんだろ?それまで泊めてやるからって。」

いいの?

「イイも何も、お前んちだってばあちゃん居ないんだろ?2人きりになんかさせられるかっ。」

聞けば既に両親の了解も得ている。桃ちゃんも乗り気だ。

「少しでもアレの秘密を探って姉ちゃんにフィードバックさせる。まあ見てろって兄ちゃん。」

サーラにその事を話しながら

参拝客もまだ疎なので隙を見付けて皆の姿を撮っていた。

全員揃って記念撮影もしたいところだが、まず無理だろう。

僕は境内で外れてしまった御神籤を枝に結び直したり、殆ど空になった箱に補充したりと

しばらくはする事もあったのだが1時間もするとすっかり暇になってしまった。

参拝客が徐々に増えるが、案内板を出すほどでもない。

元々部外者の僕があまり表に出るのも好ましくないだろう。

可愛い巫女さん達が交替でお昼に行っている最中今度は小室母と社務所で店番?をする。

当然皆と一緒にお昼を勧められるが今日は殆ど何もしていないのでこんな時くらい。と答える。

「明日は新年会あるから昼間顔だけでも出してね。」

大人達の集まりじゃ無いんですか?

「昼時はまだ身内しか集まらないから挨拶だけでもしなさい。」

と言っても僕は身内ってわけでは

「何言ってんのよ今更。そのまま夕方の新年会に行けばいいじゃない。」

いやそれこそ僕なんか参加できませんよ。

「あれ?うちで子供達で集まって新年会するって言ってたわよ。」

そうなんですか?

「また絢はキズナ君に言うの忘れて。」

女子会じゃないですか?もしくは単純に忙しすぎて忘れていただけ。

31日の夜から会話らしい会話してませんから。

それより、あのサーラの事なんですけど

「どうしたの?」

もう一日だけ泊まらせていただけませんか?明日以降は宮田さんが引き受けると言ってくれたので。

「うちはいくらでも構わないけど、キズナ君とこ泊めたらいいじゃない。」

祖父母が留守だと言ったら反対されました。

「それもそうか。じゃあキズナ君も泊まりなさい。そしたら一緒に面倒見てあげるから。」

いっ

年末年始家に帰ってませんので様子を見に帰りたいのですけど。

「じゃあ今から行って来なさい。荷物持って行って帰ってきなさい。」

「今から行けば今までの分洗濯して干しても夕方には戻って来られるでしょ。」

うっ。まあ。はい。

「じゃあそうしなさい。ほら急いだ。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ