094
大晦日。
この日も午前中から小室家にお邪魔した。
既に橘結と南室綴も馳せ参じ
小室父の道場での蕎麦打ちを手伝っている。
僕はサーラを誘ってそれを見学。
粉の量はあれくらいで水の量、打ち方。
第二弾が終わると、「ちょっと打ってみるか?」と言われた。
いいんですか?
「そば粉もあるしお昼用にすればいい。2人で打つ分くらいはあるだろう。」
2人って事は当然僕とサーラ。
見よう見まねだ。少な目の粉だから水はこんなもんだろうか。中々まとまらないな。
でももっと混ぜていた。もう少し混ぜてまとまらなければ水を少し足してみよう。
「器用だし勘もよさそうだな。でももう少し水を足すといい。ほんの少し。」
はい。
「迷ったり困ったら頼っていい。大人だってそうするんだ。」
ありがとうございます。
彼が僕の子供の頃をどこまで知っているのかは知らない。
大人の義務とか責務として一般論を言っただけなのだろう。
ただ、僕はこの一言で何だかとても気分が楽になった。
少々パサついているような気がしないでも無いが
しつかり繋がっているし「初めてにしては上出来すぎる」と褒めてもらえた。
残念ながらサーラの打った蕎麦は「初めてならこんなもんだ」の出来。
本人はそこそこショックを受けていたが
「普段料理をしない娘が急に出来るワケないだろう。」と笑われて済んだ。
蕎麦打ちの水加減がこんなに繊細だとは思わなかった。
ニ八とかならまた違うのだろうか。今度試してみよう。
「とうとう蕎麦まで打つようになったのね。」
と南室綴は呆れたように感心してくれた。
「ちょっと悔しいからいつか私のオソバで美味しいって言わせてみせるわ。」
負けず嫌いなサーラが不貞腐れているので
サーラの箸の使い方やお蕎麦の食べ方に感心しながら
そば打ちなんて忘れるほど今夜は忙しいぞ。」
小室絢が脅して
「んぐ。」
「社務所でお守り売ってもらうくらいだから。」
と橘結が宥める。
それぞれの支度の用意を全部持って
作ったお節も打ったお蕎麦も突いたお餅も全部車に詰め込み
橘家に乗り込み、そのまま広い客室で子供達は皆で雑魚寝する事になった。
この日の夜はおそらく眠れないだろうから少しでも寝ておくように。
と言われてもまだお昼過ぎだ。眠い筈もない。
目だけでも瞑っておくようにと言われたので皆そうしていたが
口は開いたままだった。
サーラはずっと皆に感謝の言葉を贈っていた。
見たり聞いたりするだけだと思っていたら自分も参加する事になって、
しかもそれがとても大きなイベントでたくさんの人の幸せを願う意義のある行事。
こんなに嬉しい事はない。1人で苦労して戻ってきた甲斐があったわ。
「明日は大変だけど、楽しめるといいわね。そのためにも少し休みましょう。」
「そうね。そうするわ。ありかどうユイ。」
「私もサーラちゃんが手伝ってくれて嬉しい。ありがと。」
ひゃあ女子の会話だなぁ。ついニヤニヤしているのを察したのか
隣で横になっている小室絢と額をペチンと叩かれた。
殆ど同時に反対の隣に寝ている南室綴にも同じことをされた。
(この二人に挟まれているのは僕がサーラや橘結に手を出さないようにだとか)
その叩かれた僕の頭の上で2人がハイタッチしたから三度。ペチン、ペチン、パン。
そんな音が静かな部屋に響いたから橘結もサーラも不思議に思うだろう。
「何なの?」
「気にしないで。少し緩んでただけだから。」
それでも2時間程は眠っただろうか。
へんな時間に寝ていたから体が少しダルい感じがする。
「少し解しましょう。」と南室綴がストレッチの提案をした。
女子は揃いも揃って皆体が柔らかかった。
僕は固い。ガチガチだ。
当然だろう。何もしてないかったんだから。
「年取ってから怪我するわよ。今からでも少しずつしておきなさい。」
「そうだな。戦う時も柔らかい方が怪我少なくなるぞ。」
はい。頑張ります。
お正月は屋台は出ない。参拝客が多くそれどころではない。
何より出店をする側も休み、お参りしたいだろう。
「継ぐ者」との関わりをすっかり忘れていた僕は不思議に感じていた。
夜、皆で揃って年越し蕎麦を啜る。
あ、やっぱり違いますね。
「そんな簡単に追い付かれたら立つ瀬がないよ。」
「お昼にキズナ君の打ったお蕎麦食べたのよ。」
と橘結は父親に自慢気味に言ってくれる。
「あれも美味しかったわよ。」
「そうね。でもやっぱりコッチのが美味しいわ。」
「綴ちゃんは厳しいのねー。」
「イイんだよ。コイツは褒めるとすぐつけあがるから。」
褒められた記憶が見付からないのは何故だ。
「ホントキズナ君はイイお婿さんになるわ。」
と、小室母がまた余計な事を。
それを聞いた(サーラ以外の)女子が揃って咽るのもどうかと思う。