091
やがて小室絢も覚醒。
「キズナ。起きた?」
え?ああ、はい。多分。
「あの、昨夜の事なんだけど。」
「酔った勢いだから数に入れなくていいからな。」
「何て言ったかよく覚えて無いけど、その、お前と、そのーき、キスしたのは覚えてる。」
「し、したよな?」
しました。と言うかされました。
「はうあっ」
と、布団に潜った。と思ったらすぐに
「うわぁっ」と出て来た。
どうやら僕の胸の上にいる宮田杏と目が合ったらしい。
宮田杏がもぞもぞと僕の胸の上から這い上がるように布団から顔を出す。
「人に「2人で寝かせたら何するか判らん」だの言っておきながら抱き合ってるとか。」
「え?抱き合ってなんか。ってお前今何やってるんだよ。」
「揃いも揃ってとか裏切り者だの言っておいてコレか。おう?」
「お前のが先じゃねぇかよっ。」
「後とか先とか関係あるかボケっ。」
僕を間に挟んで揉めだした。と言うかジャレ合っているようにしか思えない。
「コレはアタシんだぞっ。」
「違うっ私の、いや姫のだ。コレは姫のモンだ。」
「なっ待て。お前はソレでいいのか?」
「イイに決まってる。姫はずっとコレを待ってたんだ。」
「それに、姫のモノならたまには借りられるからイイんだ。」
コレとか物とか貸し借りの話しは置いておくとして、待ってた?てどういう事?
「風船の子の話したろ。姫はお前が思っているよりずっとお前を待っていたんだぞ。」
どうして。
たった一日。1時間も居なかったかも知れない幼い頃のあの一瞬。
僕は彼女の名前すら忘れていたのに。
夏に出逢い、別れ、その年の冬僕は事故に合う。
父が僕を引き取ると橘家とは疎遠になる。
そして2年後、橘結の母親が亡くなる。
彼女は友達を作る事も許されず、甘える相手も失う。
「また会いにくるよ。」
いつからか、その言葉だけが支えになっていた。それだけを拠り所にしていた。
中学生になり、小室家と南室家の少女が彼女に従うようになり、
これからは2人に支えてもらえるのだと理解した彼女は
今までは「風船の子」がいつか会いに来てくれる事を信じて頑張ったと2人に打ち明けた。
「やめろよー。そんな話したら手ぇ出せなくなるだろーっ。」
宮田杏が泣きだした。
「再会したその日に悪の手から姫を守ったんだぜコイツ。」
「ああーイイ話だよーっ。」
「イイ話だよなー。」
ジロリと僕を睨む小室絢。
「それなのにこの野郎姫の事忘れてやがって。」
「最っ低だな。」
ついこの前も同じ事で怒られたような。
「挙句に他の女に手ェ出すとかどんな外道だよ。」
外道。
手を出されたのは僕の方なんですけど。
「簡単に出されてるんじゃねぇよっ。」
何か理不尽なような。
それに説教している本人も昨夜
「何か言ったかこの野郎。」
胸倉を掴まれると思ったが小室さんは僕の上の宮田さんを押しのけて抱き付いた。
「仕方ないだろっ私だってお前の事、す、す、」
「だーおらっ」
と宮田杏に引き剥がされる。
「てめえ王子なんだか乙女なんだかハッキリしやがれっ」
「小僧でも王子でも乙女でもないわっこの泥棒猫。」
「ケッ、急に自分の事「私」とか言うようになったくせに。」
「お前こそキズナとトモダチになった途端にゴロニャン言い出したじゃねぇか。」
仲イイなーこの2人。
「何がオカシイこの野郎っ」
と2人同時に怒鳴られた。
すぐに小室母が朝食に呼びに来て、その時も思ったのだが
2人は親友と言うより「幼馴染」て言葉が本当にしっくりくる。
その食事中、目玉焼きに醤油を掛ける場面。
小室絢が使うとそのまま宮田杏に渡す。
「ん」と言って目配せするでもなく、極々自然に当たり前のように差し出す。
宮田杏も「ん」とソレを見ようともせずに受け取って使う。
「ホレキズナ。」
と僕には声にして渡すのに。
あ、ありがとう。
「なんだよ。お前んち目玉焼きに醤油掛けないのか?」
いや。かけるよ。
「そういや椿んとこは塩胡椒だったな。」
「あ、綴はケチャップだぞ。」
うわ何か意外。逆なら判るけど。
「お父さん昔マヨネーズだったわよね。」
「昔な、昔。」
目玉焼き談義のお蔭で僕の戸惑いが掻き消されたのは助かった。
せめて洗い物だけでもさせてくださいと手伝うと
「もう何それ婿入りの催促?」
と小室母に揄われたりする。
もう慣れた。